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気象用語に秘めた反逆。ブラジルポップスの先駆者・Marcos Valle ― クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.40〉

おはようございます。こんにちは。こんばんは。

6月といえば梅雨の季節ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

なんでも今年の梅雨は異例続きらしく、統計史上初めて沖縄や奄美より先に九州南部が全国で最初の梅雨入り、統計史上最早(さいそう)タイで沖縄は梅雨明けとのことです。

また九州では梅雨末期のような災害級の大雨。異常気象が通常気象化している昨今、我々はスマホのアプリなどで時間単位の天気予報に右往左往しています。天気予報は現代人にとって腕時計感覚で常日頃ウォッチし続ける重要なものになっております。

そんな中、皆様はウォッチではなくリッスンする天気予報はご存じだろうか?

今回ご紹介するのは天気予報に無理やりつなげたMarcos Valle の『Previsão do Tempo(天気予報)』というリッスンし続けられる名盤です。

MPBを推し進めたMarcos Valle(マルコス・ヴァ―リ)

MPB※を推し進めたMarcos Valle(マルコス・ヴァ―リ:以下ヴァ―リ)は1943年9月14日、リオ・デジャネイロ生まれ。5歳でピアノを始め13年間クラシックを学び、63年に『Samba Demais』でデビュー。65年の「Samba de Verão」が世界的ヒットとなり、ボサノヴァの旗手として脚光を浴びる。

ちなみにMPBというのはざっくりいうと1960年代ロック、反戦、ヒッピー文化に影響を受けたブラジル音楽のジャンル。

※MPB……ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ。「ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック」の意。ロックンロールなどの要素に、サンバなどブラジル的な感性や伝統音楽が融合された。

70年代初頭にはファンク、ソウル、ジャズ、電子音……果敢に導入し、『Garra』『Previsão do Tempo』などでMPB電化の先端を切り拓いた。兄で作詞家のパウロ・セルジオと1000曲以上を共作!

歴史的名盤『Previsão do Tempo』の概要

ヴァ―リ10作目『Previsão do Tempo』(1973)は、軍事政権下のブラジルで録音され、気象用語に政治比喩を織り込んだコンセプト盤アルバム。

水中セルフポートレートのジャケットはブラジルの軍政下の生活の「息苦しさ」を象徴している。

なお、レコード原盤は数十万円という高値になり、再発でも8,000円近くのお値段という人気盤。

アルバムの制作背景とスタジオでの科学反応

 “MPB後期第一波”という座標

60年代にトロピカリアが政権の検閲と真っ向から衝突した後、70年代前半のMPBはより〈コード化された抵抗〉へと姿を変える。

政治メッセージはメタファーに包み、サウンド面ではフェンダー・ローズとシンセ、ギターが絡む
粘着質なエレクトリックなファンクを積極導入するとともにと甘美なメロディが凝縮されている。

セッションの中核・アジムス

José Roberto Bertrami(Keys)、Alex Malheiros(Bass)、Ivan Conti “Mamão”(Drums)――のちに独立するアジムスが本作で初めてフル参加。

BertramiのARPストリングスとヴァーリのローズが重なる瞬間、リオの灼熱を帯びた特異なファンクが生まれた。

ミキシングと音像

エンジニアのジョルジ・テイシェイラは、当時まだ珍しかった16トラック録音を駆使。アナログテープの温度感を保ちつつ、各パートを左右に分散させるパンニングが気象図の等圧線のように絡み合い、“天気予報”のコンセプトを音像で可視化した。

気象メタファーと社会批評

アルバム全体に散りばめられた〈風〉〈雨〉〈湿度〉の単語は、軍政下の不安定さを暗示する。たとえば〈Samba Fatal〉の一節「雲間から差す光はまだ遠い」は、検閲で直接語れない閉塞感を迂回的に表現。

アルバムの楽曲で体感温度を設定し使用する楽器、楽曲内での気候変化も設計するという徹底っぷり!

ここまで記載するととても面倒臭そうな作品に思えるかもしれないが是非アルバム冒頭の3曲を聴いてほしい。

Flamengo Até Morrer

Nem Paletó, Nem Gravata

Tira A Mão

どうだろう? 多様多色なトロピカルな印象がないだろうか?

ジャケットや梅雨に近いコンセプトとは相反して晴れやかな気分になる楽曲に感じないだろうか? アティチュードやコンセプトが政権批判に関わらずご機嫌で夢見心地な気持ち良さを感じる。

この圧倒的な楽曲の素晴らしさがLight in the Attic再発を促し、PitchforkやThe Guardianは本作を紹介することになる。

日本でもフローティングAORという文脈で再発見し2020年代に多数のLo-fi HipHopプロデューサーがサンプリング源にして、Spotifyの再生回数統計で2024年7月「Flamengo Até Morrer」が月間100万回を突破する歴史的快挙を成し遂げている。

梅雨時のどんよりした今こそドリーミーでトロピカルな本作で晴れやかな気分になるのがオススメです!

文・写真 北米のエボ・テイラー

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