PicoN!な読書案内 vol.10 ― 『美術館の舞台裏』

この連載では、出版業界に携わるライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。今回は、美術館の仕事が分かる一冊。

『美術館の舞台裏』
高橋明也・著(筑摩書房)

親の趣味が絵画鑑賞だったこともあり、美術館に昔から親しみがある。ヨーロッパの近代美術の作品が好きで、印象派の画家の作品や画集を10代の頃から見ていた。上京してからは、都内の美術館の洗練された雰囲気に一目で惹かれた。上野や六本木などの様々な美術館に通っていくうちに、美術館ごとに外観はもちろん、開催される企画展について特色があることが分かった。きっと館内の人が美術館ならではのブランドを打ち出しているのだろうと思い、どのように美術館の企画が決まっているのか、うっすらと気になっていた。

そんな中、たまたま書店で見つけたのが本書だ。現役の美術館館長の方が執筆した、「美術館とはどういうものか」が分かる一冊になっている。

高橋明也氏プロフィール
1953年東京生まれ。東京藝術大学修士過程を卒業後、オルセー美術館準備室に在籍、様々なキャリアを経て、2006年-2020年に三菱一号館美術館初代館長を務めた。2021年より東京都美術館長に就任。

 

そもそも「美術館」は、少し特殊な立ち位置の施設だ。国の文化の象徴でありながら、市民と芸術を繋ぐ社会的役割も持ち、近年では商業的な取り組みも一般化してきた。
本書では、世界各国の美術館の歴史や日本における起源、アート作品を所有していた財閥の存在など、美術館の成り立ちから知ることが出来る。
パブリックスペースとしての役割の起源は、パリのルーヴル美術館だそうだ。また、各国で都市のランドマークに存在している美術館だが、「日本でなぜ上野に美術館が出来たのか」についても解説がなされている。

もう1点、本書で面白かったのは各国の学芸員(キュレーター)の違いだ。お国柄としても、美術館が文化行政の力が強いのか民間における援助が大きいのかといった美術館の運営方針の違いによっても、この学芸員の役割は異なるそうだ。
たとえばアートや学芸員に関する社会的関心の高いフランスでは、文化教養の素養があるトップの人材がキュレーターとなり、一種のブランド価値がある。一方、アメリカの美術館は民間企業との連携が必須なので、経営者やビジネスマン的観点が重宝される。都市国家としての歴史があるイタリアでは、政治的手腕が試される、といった具合だ。

著者である高橋氏は、執筆時(2015年)三菱一号館美術館の初代館長を務めている。美術展の仕事の裏側についても、彼ならではの視点で語られている。
(ちなみに、三菱一号館美術館はクラシックな洋風建築でテーマ性の強い展示が魅力的だ。現在は建物メンテナンスで2024年秋頃まで長期休館中となっている。)

美術展は、文化的・社会的な役割を持ちながらも、美術品を海外から輸送するとなると、規模が大きくなるほど膨大なコストがかかる。その際に、宣伝や集客といったビジネス的な観点も非常に重要になってくる。本書では成功を収めた美術展の経緯や宣伝戦略などのエピソードも多数紹介されている。

美術展といってもその種類は様々だ。同時代の作家を集めた展示、海外の美術館展、国内外の現代アーティストを扱う現代美術館。絵だけでなく、映像やファッション、文章、彫刻などの立体作品。常設展で寄贈されている作品に、お気に入りを見つけることもできるだろう。

本書を読むことで、そうした美術館巡りが、より多角的な視点で楽しめるだろう。
外出機会も増えた昨今、非日常体験として美術館に行ってみてほしい。

文・写真:ライター中尾

 


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