飯塚明夫アフリカフォトルポルタージュ《ニャーマ》 Living For Tomorrow:明日へ繋ぐ命
アフリカ大陸には54ヵ国、約12億人の人々が暮らす。ライフワークとして約30年間、この大陸の人々の暮らしと文化、自然を取材し実感したことがある。それは「彼らに明日は約束されていない」ということだ。
アフリカの人たちの「命の生存」を支える経済基盤は驚くほど脆弱である。不安定な現金収入のため、「その日暮らし」の状況に置かれている。今日の一日の労働は、明日に命を繋ぐための闘いだ。
だが彼らから感じるのは、悲壮感よりエネルギッシュな生活力である。厳しい社会状況の中で一生懸命に生きる人々に尊厳を感じたことも多い。そのような彼らの姿をシリーズでお伝えしたい。
メインタイトルの「ニャーマ」は「霊魂・生命力」等を意味する西アフリカに住むドゴン族の言葉である。アフリカの人々の中に息づく逞しい「ニャーマ」を少しでも感じ取っていただけたら幸いである。
アフリカフォトルポルタージュ-#1
e₋waste廃棄場の労働者
-ここは戦場だよ。毎日が生きるための闘いだ-
ガーナの首都アクラの西の端に、パソコンやコピー機、テレビ・冷蔵庫などの使えなくなった電子・電気製品廃棄物(e-waste)が集まってくる場所がある。元々は海岸沿いの湿地帯を埋め立てた「無名の土地」だったが、アクラの人々は近くにある大きな市場の名を流用して「アグボグブロシェ」と呼ぶ。
この地区にはe-waste廃棄場の他に自動車解体業者の作業場や不法滞在者たちが潜む住居も存在する。必要がない限り一般のアクラ市民が近づくことはほとんどない。
アグボグブロシェの e-waste廃棄場では数十人の若者たちが、壊れた電子・電気製品を分解してプリント基板や金属類、プラスチック、ケーブルなど換金できる部品を取り出す作業を行っている。ケーブル類は被膜を燃やして中の銅線を取り出し、仲買人に売って現金(注1)を得る。仕事は毎日あるわけではなく、収入は不安定だ。
彼らのほとんどはガーナ北部出身のイスラーム教徒である。地元には仕事がなく、職を求めてアクラに来た労働者だ。出身地域の近い者同士がグループを作り、協力しながら解体作業やケーブル類の燃焼作業を進める。
難燃性の被膜で覆われたケーブルを燃やす目的で、古タイヤや冷蔵庫の断熱材、発泡スチロールなどの石油由来の可燃材が利用される。ケーブル類が燃えるときに出る炎と黒煙には、ダイオキシンなどの有害物質が含まれているため、マスクもつけず素手で作業をする彼らの健康は徐々に蝕まれてゆく。
アグボグブロシェで話しかけてきたサジキ青年(本名:アル・ハッサン・スレイマン、21歳)も、北部出身のイスラーム教徒だ。父を早くに亡くしたため、小学校にも満足に通えなかったという。仕事を探しにアクラに出てきたのは十代の初めの頃。コネも学歴も、スキルもないサジキを受け入れてくれたのがアグボグブロシェのe₋waste廃棄場だった。
ガーナには、経済の「南北格差」が存在する。南部はカカオや金を産出し、大きな港を抱える。アクラやテーマなどの大都市には、北部の農村地帯から仕事を求めて人々が集まってくる。サジキもその中の一人である。
サジキと一緒に歩いていると頻繁に「サージキ」と声が掛かる。顔の広さと押しの強いところが気に入り、彼をe₋waste廃棄場取材の案内人兼助手として雇った。数日間の取材が終わり別れのとき、サジキはぽつりと呟いた。
「ここは戦場だよ。毎日が生きるための闘いなんだ」
彼との雑談の中で生活の大変さを聞いてはいたが、「戦場」の言葉に不意を突かれた。サジキの一言でe₋waste廃棄場で生きることの苛酷さに気付いた私は、今もそこの取材を続けている。
(注1)銅1㎏の買取価格は約210円、2015年当時。
文・写真/飯塚明夫