「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑫ ― ロベール・ドローネー作 『街の窓』
ロベール・ドローネー作 『街の窓』について
専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。
前回このコラムで取り上げました現代美術につながる源流にひとつとして、キュビスム(Cubisme:仏)について触れましたが、その作品の傾向として、色彩の鮮やかさを失ってモノクローム(無彩色)調の表現が多く見られるとしました。
今回も現代美術へ繋がっていく絵画を描くひとりであるロベール・ドローネー(Robert Delaunay)というフランス画家の作品を取り上げていきます。
まずはこの作品をご覧ください。
この赤くエッフェル塔が描かれていますが、キュビズム作品の特徴であるモチーフの分解と画面上での再構成がなされていますね。しかしモノクローム調だけではなく、赤系や青系の彩色が見られ、それが全体のモノクロームの中で鮮やかさを放っています。特にこの赤色系の造形が印象的です。さて次のドローネー作品をご覧ください。
こちらタイトルが『自画像』…、結構この方、イケメンですが、顔が緑系の色で描かれて、背景にはさまざまな色での筆跡が残されています。この絵は第10話で取り上げましたアンリ・マチィス Henri Matisse の絵画にも通じた共通性があります。フォーヴィスム(Fauvisme:仏)の表現が画面の充しています。
こちらが、アンリ・マティスの作品。
このマティスの『帽子の女』、『自画像』はいずれも1905年頃に描かれています。マティスとドローネー両者の親交がうかがえると思います。
1885年にパリで生まれたドローネーは、この時期にフランスで起こったキュビスムやフォーヴィスムといった新しい絵画表現を自分の絵画に取り入れています。先程のグッゲンハイム美術館所蔵の『赤いエッフェル塔』のようなモチーフ(描かれる対象)をカンヴァス上で再構成する手法を彼はさらに押し進めます。
この作品には、重要なポイントが二つ挙げられます。
① カンヴァスが四角形でない
② 作品の表題(タイトル)に物が具体的に描かれていない
さて、①については近代以降の絵画は壁に直接描くのでなく、カンヴァスに描いたものを額装して壁に掛けるスタイルが一般化しています。画家も四角い方が画布を木枠に張りやすいこともありました。
②については タイトルは一般に描かれている内容の要約という関係がありましたが、描かれている内容にはタイトルを関連できることができませんね。これは具象画を離れて抽象画になっていくプロセス上の作品だと思います。
この作品が描かれた18年後に『円形のフォーム』という作品を制作します。
この作品も先出の『同時に開く窓. 1番目の部分,3番目のモチーフ』と同じグッゲンハイム美術館に納められていますが、こちらは『抽象絵画』になっています。
ドローネーの作品をこれまで見てきたように、『赤いエッフェル塔』の構成のダイナミズムと『自画像』の色彩と自由な筆致(筆使いの跡)、そして『同時に開く窓. 1番目の部分,3番目のモチーフ』に見られる具象性からの離脱など、こうした経緯を経ながら、ドローネーは具象性(figurative:形として分かりやすいこと)から画面上の再構成(reconstraction)の扉を開いて、ついに抽象化(abstraction)に辿り着いたのです。まさに抽象絵画の覚醒です。
ここで今回の作品が、こちら…
タイトルの『街の窓』を見れば、そのような雰囲気を感じなくもないという、まさに具象と抽象のはざまにあるようなタッチです。1912年の作ですから、『同時に開く窓. 1番目の部分,3番目のモチーフ』と同時期に制作されています。
このような抽象絵画へと向かっていくフランス絵画の歩みから今日の現代美術までを様々な絵画運動の変遷とともに観覧できる美術展が、現在東京で開催されています!
その名も『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』で、東京・京橋にあるアーティゾン美術館で開かれています。
窓口販売チケットで一般が2000円のところ、学生証の提示で「無料(要ウェブ予約)」ですよ。この展覧会は8月20日(日)までです。学生さんは、ぜひウェブ予約を済ませてから出かけましょう!
展覧会情報
ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ
会 期:2023年6月3日(土)~2023年8月20日(日)
場 所:アーティゾン美術館(東京・京橋)
公式HP:https://www.artizon.museum/exhibition_sp/abstraction/
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