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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑩ ― アンリ・マティス『ヴァンス・ロサリオ礼拝堂』

アンリ・マティスによる『ヴァンス・ロサリオ礼拝堂』について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

今回は、「色彩・形・線」で描くアンリ・マティスによる作品を紹介します。
アンリ・マティス(Henri Matisse) は1869年フランス生まれの画家で「モダン・アートの巨匠」と呼ばれています。

博物館でもある現在のアンリ・マティスの実家(フランス、カトー・カンブレシ) La maison familiale D’Henri Matisse ※画像引用元:PROSCITEC HP

 

ではまずはこちらの作品から…

【アンリ・マティス Henri Matisse『ルーマニアのブラウス/ La Blouse roumaine 』1940年 油彩画 92×73cm ポンピドーセンター蔵 (パリ国立近代美術館 Centre Pompidou /パリ,フランス】※画像引用元:Centre Pompidou HP

 

この絵画、身体がやや左に傾いて、両肩が大きく膨らんで見えます。画面には大胆な線、それに顔の描き方も大雑把(おおざっぱ)です。モデルとなった女性を「見えるように描く」いわゆる「写実的」には描いていません。
そして同時に毛髪・肌・服装・背景の色などがそれぞれ単純な色で塗られていながら、白のブラウスの柄が強調されていて、リズム感さえ感じます。それがこの作品のリアリティーとは別の魅力です。
この絵はマティスという画家の描く作品の特徴がよく表れていると思います。
特徴とは、描写が線が大胆で大雑把であるとともに絵画を色面構成のように色彩を大胆に扱います。

続いて、制作が22年も前に遡りますが、こちら

【アンリ・マティス Henri Matisse『窓際のバイオリニスト [1918年春]/ Le violoniste à la fenêtre [printemps 1918]』1918年 油彩画 150×98×3cm ポンピドーセンター(パリ国立近代美術館)蔵 Centre Pompidou /パリ,フランス】 ※画像引用元:Centre Pompidou HP

こちらもフランス、パリのポンピドーセンター所蔵の作品です。
開け放たれた大きな窓の方を向いたバイオリニストの後ろ姿ですが、やはり、描写が大雑把であるとともに絵画を色面構成のように線と色彩を大胆に扱います。

先の「ルーマニアのブラウス」よりは少々色彩が地味な感じですね。

私の感想ですが、少し「キュビスム(仏:Cubisme)」作品に近いと感じます。
というのは、描く対象を画家が様々に分割をして、その分解された要素を画面上で組み立て直すように描き表現する絵画に近いと感じます。
この「美術のこもれび」のピカソの作品を紹介した第7話で取り上げましたキュビスム的な描き方でもあると思います。
キュビスムは再構築の際に色の鮮やかさ(彩度)を失い、褐色系や無彩色の傾向を帯びる特質があります。

【アンリ・マティス Henri Matisse『インテリア、金魚鉢 [1914年春]/ Intérieur, bocal de poissons rouges [printemps 1914] 』1918年 油彩画 147×97×2.4cm ポンピドーセンター(パリ国立近代美術館)蔵 Centre Pompidou /パリ,フランス】 ※画像引用元:Centre Pompidou HP

この「金魚鉢」の描かれた作品は、1914年で先程の「窓際のバイオリニスト」よりも4年前ですが、まだ色彩が保たれていますよね。どこかホテルの一室のようで静まり返った薄暗い部屋で金魚が泳いでいる様子ですが、ブルー系の色調での赤が印象的です。

この「金魚の入った鉢」をモチーフにマティスはいくつも作品を描いています。

【アンリ・マティス Henri Matisse『金魚と彫刻 イッシー・レ・ムリノー,1912年春-夏 / Goldfish and Sculpture Issy-les-Moulineaux, spring-summer 1912 』1912年 油彩画 116.2×100.5cm MoMA(ニューヨーク近代美術館)蔵 The Museum of Modern Art /ニューヨーク,米国】 ※画像引用元:MoMA 公式HP

こちらも「金魚」の色彩が鮮やかですが、室内が青く彩られていて寝そべっている裸体のように見えるのが、タイトルにある「彫刻(Sculpture)」なのでしょうか?
ただし、このように人体のような立体的な形を単純化した形状を『フォルム(Forme:仏)」と呼びますが、マティスの作品にはこうしたシンプルなフォルムを描く作品が多いのも特徴です。
最初に紹介した作品「ルーマニアのブラウス」に通じる色面の大胆さもありますね。
このようなマティスの作品はキュビスムとは異なる方向で新たな絵画運動を形作ります。これは「フォーヴィスム(Fauvisme:仏〈野獣派〉)」と呼ばれました。

1905年、パリで開催されたサロン・ドートンヌ『「秋の展覧会」の意味、新進芸術家を積極的に紹介』の一室は、若い画家たちによる激しい色彩表現が特徴的な絵画で埋め尽くされた。「フォーヴィスム」という名は、これを見た美術批評家のルイ・ヴォークセルが「野獣(フォーヴ、fauve)の檻の中にいるようだ」と発したことに由来する。

※下線部引用:アートスケープHP

※『 』内:筆者注釈

この大胆な構成と色彩を特徴とする運動は3年間位の短命となりますが、フォーヴィスム以降にマティスはより大胆な作品を制作していきます。
1912年に製作された「金魚と彫刻」から40年後、そこに表れていたフォルムだけに単純化した作品もマティスは描きました。

【アンリ・マティス Henri Matisse『ブルーヌード II / Nu bleu II 』1952年 ガッシュ紙、キャンバス 103.8×86cm ポンピドーセンター(パリ国立近代美術館)蔵 Centre Pompidou /パリ,フランス】 ※画像引用元:Centre Pompidou HP

女性のポーズの姿を極めて単純化した「フォルム」だけを不透明水彩絵具ガッシュ(Gouache:仏)の青色を塗った紙をキャンバスに切り貼りをして制作されています。マティスが83歳での作品です。

マティスは晩年に4年の歳月をかけて、イタリアに近い南仏のヴァンスという村にあるキリスト教のある教会のための作品制作を行なっています。

【アンリ・マティス Henri Matisse『ヴァンス・ロサリオ礼拝堂』の内装/ Chapelle Du Rosaire, Vance 』1948~1951年 ヴァンス,フランス】 ※画像引用元:Chapell matisse HP

晩年のマティス芸術の集大成ともいえるこの教会では内装のデザインだけななく、ステンドグラスそして外壁にも「聖母子像」や「聖ドミニコと聖母子像」のタイル画なども描けています。そしてロサリオ礼拝堂の完成後さらに司祭が礼拝で身にまとう「上祭服」もデザインしていました。

【アンリ・マティス Henri Matisse『上祭服 』のマケット1950~1952年 132.6×197/裏側[右]:126×197.5cm ポンピドーセンター(パリ国立近代美術館)蔵 Centre Pompidou /パリ,フランス】 ※画像引用元:東京都美術館「マティス展」公式サイト

この『上祭服のマケット』を含めて、アンリ・マティスの約150点もの大規模な回顧展が行われようとしています。
パンフレットには「色、形、線、冒険の始まり」と謳われています。

これから良い季節になります。今度「色、形、線、冒険」に出かけてみてはいかがでしょうか!

展覧会情報

『マティス展』HENRI MATISSE : The Path to Color

会 期:2023年4月27日(木)~8月20日(日)
場 所:東京都美術館(東京・上野公園内)
公式HP:https://matisse2023.exhibit.jp/

 


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