先の見えない時代を楽しむアート思考「偶発的計画性」とは?
こんにちは。 アートとカルチャーをこよなく愛するキャリアコンサルタント・竹島弘幸です。
前回は VUCA(Volatility=不安定、Uncertanity=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity= 曖昧)の時代にアートが必要というお話をしました。今回は実際の取り組みをいくつかご紹介しながら、お話を進めていきたいと思います。
文/竹島弘幸(国家資格キャリアコンサルタント)
イラスト/EMI. AD / HD @ SIROCCO
宇宙とお肌のマッチング? アート×ビジネスが、世界を便利におもしろく
ではさっそく 1 つ目の事例からいきましょう。
長谷川一英『アート思考の技術』には企業によるユニークな取り組みが紹介されています。
Google は、2015 年自社内の先端技術研究部門によって新型のジャケット(上着)をつくりました、情報産業の google がファッションの分野というのも意外性がありますが、「2年間何をやってもいいけども必ずプロダクトを出す」というミッションでした。このプロジェクトにはエンジニア、デザイナー、アーティストが参加、テクノロジーをあえて見えなくし、自己表現としてのファッションに注目したのです。
リーバイスとの共同開発で、そのジャケットの袖にgoogle が開発した導電性繊維を組み込み、袖口でタップすると Bluetooth 経由でスマートフォンにつながり、スマートフォンを取り出すことなくカメラを起動して撮影したり、音楽を再生できるものです。米国では自転車通勤の人が多いので、スマートフォンを取り出さなくていいこのジャケットは人気になりました。
日本でも少しずつではありますが、企業とアートの接点は増えてきていると思います。
また、同書では KDDI のデザインプロジェクトが紹介されています。
2009 年に草間彌生の携帯電話を発売、2010 年には名和晃平モデルのコンセプトモデルを発表するなど企業としても先駆的な取り組みを続けてきました。さらに 2020 年に「アーツ&カルチャープログラム」を開始、5G や AR を活用したユーザー体験をアップデートしています。
ArtSticker を運営する「ザ・チェーンミュージアム」にも出資するなど、企業とアートの接点を積極的に展開しているのが印象的です。
■ArtSticker|ArtStickerとは?
学術的にも意味のある取り組みとしては、印刷技術の TOPPAN が、焼失した可能性が高いと考えられる伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」をデジタル推定復元したことも挙げられるでしょう。
■デジタル文化財ミュージアム KOISHIKAWA XROSS®
SF マガジン 2024 年 10 月号『ファッション&美容 SF 特集』では、コスメの分野でのユニークな取り組みが紹介されていました。化粧品のポーラ・オルビスグループの研究機関である「マルチプル・インテリジェンス・リサーチセンター」の話が面白かったです。
ここのメンバーには「ぶらぶら研究員」という方々がいて、未知の技術や考え方、ユニークな人を会社に結びつけるミッションを持っています。会社からは”ちゃんとブラブラしてね”と言われるようです。
ここでは「自分たちに一番遠いものを取り入れよう」→「遠いもの=宇宙だ!」という閃きからチームが作られ、結果的に衛星から取得する気象データとお肌のデータをマッチング解析し、肌を良くするツーリズム=美肌ウエルネスツーリズムというアイデアに結実したとのことです。こんな事例は楽しくなりますね。こういった取り組みは企業内のカルチャーを作り企業活動全体に良い影響があると思われます。企業ももっと楽しいことをしたらいいと思います!
アート思考≒「計画的偶発性」で、先の見えない時代を楽しもう!
ところで 、VUCA の時代ってどんな印象ですかね? 一寸先は闇で、ちょっと怖いでしょうか。確かに……先が見えない怖さはありますね。「昔みたいに学校を出て会社に入り定年まで勤めるのが当たり前、大企業に入れば潰れないので一生安泰」みたいな価値観は崩壊したわけです。
でも、見方を変えると面白い時代であるとも言えます。
アメリカの心理学者クランボルツ教授は、「計画的偶発性」という理論を提唱しています。計画的偶発性理論という言葉をみて、偶発性って偶然の出来事なのに、計画されたってどういうこと? 言葉として矛盾だよね?と思われるかもしれませんね。
クランボルツ教授はこう説明します。「個人のキャリアの8割は偶然から作られる、しかしただそれが起きることを待っているだけでは人生は拓けない。偶発性を呼び込むための計画的な行動が大事だ」と言います。そのための5つの行動特性は、
1.好奇心(Curiosity):新しいことに興味を持ち続ける
2.持続性(Persistence):失敗してもあきらめずに努力する
3.楽観性(Optimism):何事もポジティブに考える
4.柔軟性(Flexibility):こだわりすぎずに柔軟な姿勢をとる
5.冒険心(Risk Taking):結果がわからなくても挑戦する
とされています。
これにより計画的偶発性が起きるのです。
クランボルツ教授の考え方の源流は、スキナーという心理学者が創始した「行動分析学」という学問にあります。これは科学的な動物実験などから得られた行動特性を分析することから始まった方法論で、学習によって人は行動変容するという考えの心理学の一分野です。
言い換えると行動の原因は人の内部にあるのではなく、学習や環境などという外部にある、という考えです。心理学なのに心の中を覗きに行かないの?と思われるかもしれませんが、行動という可視化できるところに原因を見るという考え方はいくつかのメリットがあります。
例えば、お前は甘ったれだからとか、末っ子だからとか、やる気がないからだとか、という性格などを行動原因として考えないということです。そのような人の内側に対する評価は周囲によるレッテル貼りであることが多い。そうではなく、目にみえる行動だけを分析してみれば人の内面は学習や環境によって影響され変わるのだということがわかる。これは人種や性別もそうですね、世の中にはレッテルを貼りたがる人は一定数いますが、人間というものは学習や環境の影響を強く受けます。
逆に言えば学習や環境次第で人は変わることができる。
VUCA の時代は確かに厳しいかもしれませんが、偶然のチャンスが転がっている面白い時代でもあります。周囲のレッテル貼りから自由になりましょう。
行動特性と学習により計画的偶発性が起きるのです。好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心を持ちましょう。
そしてアートこそ、そのような行動特性にフィットしていますし VUCA の時代に求められているものなのです 。
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