
「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art – No23:ピエール=オーギュスト・ルノワールと ポール・セザンヌ について
専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。
今回ご紹介する作品は、ピエール=オーギュスト・ルノワール(Auguste Renoir)とポール・セザンヌ(Paul Cézanne)の二人それぞれの油彩画です。どちらもフランスの画家の作品です。
ポール・セザンヌについては第4話で紹介した画家になります。彼は絵画の探求者で独自の方法論を確立していきました。
『ルノワール』はどなたでも聞き覚えのある名前ですよね。セザンヌと同様に印象派(後期)の画家の一人とされています。実際にパリで開かれている『印象派展』にも出品しています。ただ、古典的な描き方の作品もあって、そこがセザンヌとの違いでもあります。
ルノワールとアングル – あどけない少女と、暗い背景の対比の美
まずご紹介するのは、スイス、チューリッヒの美術館の作品_

【オーギュスト・ルノワール Auguste Renoir『 Irène Cahen d’Anvers (La petite Irène) / イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)』1880年 65 x 54cm キャンヴァスに油彩 チューリッヒ美術館蔵 (Kunsthaus Zürich) / Zürich, スイス】※ソース/画像引用元:チューリッヒ美術館(ピュールレ・コレクション)HP
濃緑の樹木を背景に座ってポーズをとるモデルの「イレーヌ嬢」。本当に可愛いですよね。
リボンで結ばれた長い髪の毛のふんわりとした質感や胸元とドレスの光の柔らかい輝きなど印象派的な描き方がこの絵の魅力の要素のひとつです。また、イレーヌの顔近くの樹木のトーンを暗くすることで、横顔のシルエットと表情をクローズアップさせています。あどけない顔の少し緊張気味の表情からは、彼女の心理までも伝わってくるようです。
この手法は画家ドミニク・アングルなどの新古典主義の絵画に通じています。(※下記画像を参照)

【ドミニク・アングル Jean Auguste Dominique Ingres『 La Source / 泉 』1856年 163 x 80cm キャンヴァスに油彩 オルセー美術館蔵 (Musée d’Orsay) / Paris フランス】※ソース/画像引用元:オルセー美術館HP
ルノワールが好んだモチーフ「ピアノを弾く少女」
お次は、フランス、パリの美術館の作品……

【オーギュスト・ルノワール Auguste Renoir『 Jeunes filles au piano / ピアノを弾く少女たち』1892年 116 x 81cm キャンヴァスに油彩 オランジェリー美術館蔵 (Musée de l’Orangerie) / Paris, フランス】※ソース/画像引用元:オランジェリー美術館HP
二人の少女を取り巻く周辺はまだ未完成のようにラフに描かれています。これにより、この二人のポーズ、仕草、表情そして息遣いまでもが伝わってくるようです。キャンヴァスの生地に淡く地塗りのベージュ色を施し、そこから柔らかい筆致で淡い複数の色彩を重ね合わせています。まずはピアノの前の二人を描き、そこから背景の描き方を模索しているようです。
実はルノワールは、同じモチーフの作品をほかにもいくつも描いています。

【オーギュスト・ルノワール Auguste Renoir『 Jeunes filles au piano / ピアノを弾く少女たち』1892年 116 x 90cm キャンヴァスに油彩 オルセー美術館蔵 (Musée d’Orsay) / Paris フランス】※ソース/画像引用元:オルセー美術館HP
同じ画題のこちらの方が、少女たちの周囲や背景も細かく描写されています。二人の後ろのカーテンの向こうにはソファーのある別の部屋があることが分かります。ピアノの前の二人を挟んで、手前から背景までの奥行きに空間としての広がりをもたせています。
この「ピアノを弾く少女」という主題を、ルノワールは繰り返し描いているのです。
ポール・セザンヌ
今回取り上げるもう一人の画家は、ポール・セザンヌです。

【ポール・セザンヌ Paul Cézanne『 Still Life with Apples and Pears / 林檎と梨の静物』1891-92年 116 x 90cm キャンヴァスに油彩 メトロポリタン美術館蔵 (Metropolitan Museum of Art ) / NY アメリカ】※ソース/画像引用元:メトロポリタン美術館HP
ルノワールが『ピアノを弾く少女たち』を描いたちょうど同じ頃に描かれているセザンヌの静物画です。
この作品は第4話でもご紹介したものです。「見えるように、見えるままに」モチーフを描く伝統的な技法とは違い、特定の視点に縛られずに(複数の視点から)画面を構成する姿勢が見られます。これこそセザンヌが印象派からこの後に及ぼす抽象絵画やモダン・アートへの先駆けの端緒になる特徴の一つです。なおかつ静謐さの漂う、セザンヌの凄さを感じる静物画の一つです。
そして……本題の一点。

【ポール・セザンヌ Paul Cézanne『 Portrait de Madame Cézanne / セザンヌ夫人の肖像』1885~1895年 81 x 65cm キャンヴァスに油彩 オランジェリー美術館蔵 (Musée de l’Orangerie) / Paris, フランス】※ソース/画像引用元: オランジェリー美術館HP
黒い衣装を纏って椅子に座るセザンヌ夫人を描いたこの作品。両手を軽く結んでいるポーズから清楚な感じが伝わってきます。
荒く細かいタッチによって淡い色彩で描かれている背景はおそらく壁面でしょう。キャンヴァス地を残したままの明るい背景も含めて、全体的に室内の柔らかい光彩を感じさせており、まさに印象派的表現です。
さて今回の最後は、ルノワールの……

【オーギュスト・ルノワール Auguste Renoir『 Femme nue dans un paysage / 風景の中の裸婦』1883年 65 x 54cm キャンヴァスに油彩 オランジェリー美術館蔵 (Musée de l’Orangerie) / Paris, フランス】※ソース/画像引用元:オランジェリー美術館HP
透き通るような肌を晒して裸婦が濡れた足を白い布で拭っています。
冷たさと温かさが共存するような素肌。少し伏し目がちな顔と黒髪が印象的なこの裸婦をとりまく水辺は自然の光に満ちた空気が揺らいています。この背景の描き方はルノワールの2番目に紹介したオランジェリー美術館の『ピアノを弾く少女たち』の背景の表現と通じています。また構図として、大地についた素足から膝に、さらに腕から胸へ、そして顔へと視線の誘導が図られています。
ルノワール&セザンヌの代表作50点が ”交遊” 。5/29~『2人の巨匠』展スタート
このルノワールの『風景の中の裸婦』が鑑賞できるのが 5月29日から開催の『ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠』展 です。
セザンヌの『セザンヌ夫人の肖像』もこの展覧会でじっくりと観覧することができます。
この展覧会はJR【東京駅】から出て徒歩5分、【有楽町駅】から徒歩6分。三菱一号館美術館での開催です。これまでも何度か紹介したアーティゾン美術館(旧ブリヂストン美術館)も徒歩圏内にありますよ。
暑さの盛る季節の中で、印象派を独自に発展させた巨匠2人の作品を満喫しに出かけましょう!
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【展覧会情報】
■ 『ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠』展
2025年 5月29日(木)~9月7日(日)
三菱一号館美術館(東京都・千代田区丸の内)
公式HP
https://mimt.jp/ex/renoir-cezanne/