お店をデザインするという仕事 デザインの小ネタを集める③
前回は、デザインをする前に必要なクライアントとのコミュニケーションについて書きました。店舗デザインのほとんどは受注産業です、自らが店舗のオーナーになる以外は、クライアントとのコミュニケーションで得た要望や意向にデザインというかたちで応えなければなりません。
前回の話↓
今回は、そうした様々な応えを出すための手法について「小ネタを集める」と題して進めたいと思います。
皆さんは、漢方薬局のカウンターにある小さな引き出しってご存知ですか?
昔ながらの漢方薬局では、薬剤師が患者さんの症状を細かく聞いて、症状にあったいくつもの薬を引き出しから取り出して調合してくれます。
店舗デザインの「小ネタを集める」とは、それと同じように小さなアイデアやイメージを自分の中で分類して、いつでも使えるように小さな引き出しに整理してしまうということです。
私の頭の中の引き出しには、主にこんな分類がしてあります。
◯色柄や形に関する分類
◯感情に関する分類
◯時代や様式に関する分類
◯地域や気候に関する分類
◯素材や工業製品に関する分類
これらは「共通言語」や「記号」などとも言われますがいくつも絡み合う形で紐付けして収納してあります。
例えば、皆さんも日常生活の中で「赤くて丸いもの」を見た時、多くのものと関連付けると思います。
日の丸、太陽、暖かさ、情熱的、果実、花びら、てんとう虫、ピエロの鼻、ガラポンの一等賞、スイッチのボタン、朱肉、アーケードゲームのジョイスティック、一方通行の標識など。
これらは、人によってさまざまですが、ある程度共通の認識を持っているのでそれらは「共通言語」や「記号」として機能します。
では実際のデザインで「小ネタ」が「記号」としてどのように使われるかというと、店舗のデザインを依頼してきたクライアントの要望の中に、商品が「日本製であることを主張したい」などと言った要望があれば、どこかに赤い丸を使ってわかりやすく日の丸を連想するというアイデアとして活用します。
具体的なディテールとして引き出しの中にしまってある家具や小物などのアイデアを総動員して、「小さなドアノブ、照明器具、椅子、ロゴ、コートフック、大きな壁のグラフィック、お皿、店員さんの名札」などのアイテムを使ってみたり、さらに別の引き出しを開けて、赤に組み合わせる色使いのネタの中から、薄い水色、明るいグレー、金色など組み合わせを使って色を中心にしたインテリアコーディネートを展開したりすることができるのです。
私にとって常日頃からいつか使ってみたいと思うような「小ネタ」を探して、引き出しを整理することはひらめきや発見がある、とても楽しい作業です。
人によっては見たものはそのものでしかないかもしれませんが、様々なものと紐付ける作業はデザイナーにとって必要不可欠なことなのです。
自分なりの分類方法や、それらを使いこなすために掛け合わせの方程式を持つことは、デザイナーの個性そのものだとも思いますし、そうすればアイデアが枯渇することなんてありません。
店舗デザイナーを志すのであれば、注意深く観察してあなたの引き出しをいっぱいにし、クライアントのどんな要望にも応えられる準備をして待ち構えておきましょう。
それでは次回④最終話になります。お楽しみに!
文・角 範昭
専門学校日本デザイナー学院90年卒。97年有限会社空デザイン開業。
小さな街の飲食店から大型フィットネスクラブまで現在までに1300店舗以上を手掛ける。