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手にとって触れることのできる、物質としての『印刷物』の楽しさ
主に紙を使った印刷物を中心としたグラフィックデザインをしている、アートディレクター/グラフィックデザイナーの武田と申します。
今回は、ブックデザイン、展覧会フライヤー、パッケージデザインの仕事について、仕事のプロセスをみながら、それぞれの仕事で工夫した点、気をつけたポイント等を紹介していきたいと思います。
『図解 センスに頼らず、失敗と成功の分かれ道がわかる 最短距離で切れるベーシックカット』髪書房
美容師さん向けの出版社から販売されている専門書です。
まずカバーデザインは、タイトルが長く特徴的だったので、写真やイラストは使わずに文字のみで構成することにしました。「図解」という言葉から文字要素を縦横にグラフィカルに構成しています。黄色のベタ面の上に白く四角を敷いて、黒色の文字要素と、黒い罫線、カラフルなストライプ模様を使い読みやすくかつ見る人の目を楽しませて、飽きのこない絵になるように心がけました。
またこの本はカバーに仕掛けがあり、カバーの裏面を裏返して、ブックカバーとして使えるようにストライプ模様にしています。さらにこのカバーは二つ折りになっていて、それを開くと中面がカットの種類が見れるポスターになっています。これは最初の編集の方との打ち合わせ時に、カバーに何か仕掛けがしたいという要望があり、紙を二つ折りにした物をカバーにできるということを提案して、中面をカットのスタイルの種類が見れるポスターにしようという話になりました。
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カバーの内側は、ブックカバーとして使えるようにストライプ模様に。
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さらに広げるとポスターに。表面(上)裏面(下)
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カバーをとった後の本表紙には、ボール紙のような紙を使い、ストライプ模様を印刷しています。
流 麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」POLA MUSEUM ANNEX
ポーラ ミュージアム アネックスで開催された展覧会、流 麻二果「その光に色を見る Spectrum of Vivid Moments」のフライヤーデザインです。
作家との打ち合わせやステートメントから、作品を作家の意図からはずれないように、書体や色、レイアウトを検討します。また見る人に気にしてもらえるような工夫も必要です。
作家やクライアントに見せる前の段階で、フライヤーとして魅力的に見えるように演出の方法をさぐっていきます。展示の印象と合わせたり、少し突き放して広告っぽく見せたりと、さまざまなパターンを検討します。
また、デザインしていくうえで大切な要素の一つが、フォント(書体)です。タイトルや作家の名前が作品の印象と合い、展覧会の印象をポジティブに表すような書体を選ぶようにしています。
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作家とクライアントに見せる前のデザインの試行錯誤。フォントやレイアウト等、まずはできるかぎりいろいろな可能性を試していきます。
その上で、クライアントと作家には、書体違い(ゴシック体と明朝体)、レイアウト違いの計4パターンを提案いたしました。作家からゴシック体がよいということになり、ゴシック体の2パターンを印刷の色校正に出すことにしました。
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作家とクライアントに見せたフォントがゴシックのもの2パターンと明朝体のもの2パターン。ゴシック体のものを選び、タイトルの日本語と英語の黒と銀を反転させて2パターンを見ることに決めて色校正に進みました。
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紙のテクスチャーや加工方法も、重要なポイントです。今回は、作家との打ち合わせ時に作品はキャンバスに描いているということだったので、キャンバスっぽいテクスチャーの紙を選びました。
2022年4月22日(金)〜5月29日(日)この展覧会はPOLA MUSEUM ANNEXにて公開中です。
https://www.po-holdings.co.jp/m-annex/exhibition/index.html
OLTREVINO 「Trippa」「In Bianco」缶詰
鎌倉にあるイタリアンレストランの缶詰の箱のパッケージデザインです。
ギフトとしても贈れるようなかわいいパッケージにしたいとの要望があり、デザインについては自由にお願いしたいとのことでした。しかし、締め切りがタイトでしたので、早めに方向性を決めたほうがよいと判断して第一段階として複数のラフを作り、まずは方向性を確認していきました。
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クライアントに提案したデザインラフの一部。右上の「B」と「T」をモチーフにした案を気に入っていただきました。
この中からクライアントのイメージに近いものを選んでいただき、方向性を絞りました。
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イメージに近いものをセレクトしてもらいました。セレクトした案は缶詰の名前「in Bianco」「Trippa」の頭文字「B」と「T」をモチーフに図案化しているもの。
こちらの案をもとに、可読性や配色、図形としての面白さ等を検討し、さらにデザインを発展していきます。
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大きさや配色、文字にストライプを敷いたもの等さまざまなパターンを検討します。
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パッケージの展開図を作成して、側面の色もパターンを出してセレクトしていきます。
線の太さ、色等をシンプルにしたものが最終案として残り、さらに色を調整したもので決定しました。最終的に並べた時にいろんな色があったほうがよいということになり、「Trippa」「In Bianco」ともに色違いで2種類ずつ作ることになりました。
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最終的には、4パターンのデザインを制作することになりました。
最後に
デザインという観点で見ると媒体は違っても、[ヒアリング]→[発想]→[ラフスケッチ]→[ラフ制作]→[ブラッシュアップ]→[デザイン制作]→[完成]というプロセスは一貫しています。媒体や制作のツールが変わったとしても、このプロセスは変わらないと思っています。
また、デザインの仕事をしていく時にフィードバック(クライアントからの戻し)のやりとりが発生します。フィードバックによってさらによくしていくというのが基本的な考え方です。これは、自分の意図とは反対の方向の修正や、やりなおしを求められる時も同様です。やりなおしというと大変なことのように思えますが、もう一度提案するチャンスが与えられたと考えることができれば、より良いものを提案できる可能性があるということです。
デザインの世界というと華やかで楽しい世界に見えますが、大変なことも多く忍耐力も求められる仕事です。ただ、新しい提案をすることやクライアントに喜んでもらえることにやりがいがあるのだと思います。デザイナーを目指す方には、好きなことを仕事にできるチャンスを活かせるよう頑張っていただきたいです。
武田厚志(SOUVENIR DESIGN INC.)
アートディレクター/グラフィックデザイナー
東京造形大学卒業後、サイトウマコトデザイン室を経て、独立。書籍・雑誌などのブックデザインやパッケージデザイン、パンフレット、ロゴのデザインを含めた企業のブランディングなど、グラフィックデザインを軸に活動している。
https://www.souvenirdesign.com