デザインは「AIに丸投げ」できるのか? Bingイメージクリエーターで遊んでみた。
昨今の「画像生成AI」センセーション。キーワードを入力するだけで本格的な画像を生成できちゃう、というとんでもない時代に突入し、「マジでAIに仕事奪われるのかも……」と震えているクリエイターも多いことでしょう。しかし実際のところ、まだまだAIという存在は未知のもので、その実態を十分に把握できている人はあまりいないと思います。
そこで今回、 “まずは敵を知れ” ということで、Microsoftの画像生成AI「Bing イメージクリエーター」を使って画像生成にチャレンジ。「秋の新商品ハンバーガー」の広告ポスターをつくる、という設定で、AIにデザインを「丸投げ」したらどうなるのか? 実験。
・生成AIでどこまでの作品がつくれちゃうのか?
・現状、AIの限界点はどのへんなのか?
・画像生成AIを使う上での注意点は?
AIを使う上でのこんなギモンを検証していきます。
AIで「秋の新商品ポスター」をつくってみよう!
さっそく、広告ディレクターになった気分でAIに「指示出し」をし、秋ハンバーガーのポスター制作にチャレンジします。
「Bing イメージクリエーター」の使い方は簡単で、生成させたい画像のイメージを検索窓のようなところに文字入力し、しばらく待つだけ。
まずはザックリ、[ハンバーガー 秋]とAIに入力してみましょう。
指示1:[ハンバーガー 秋]
すごい。たったこれだけのキーワードで、ハイクオリティなハンバーガーの画像が生み出されました。
ただ、ちょっと大人しくてベタすぎる印象。もっとインパクトが欲しい! ということで、「インパクト」というキーワードを追加してみます。
指示2:[ハンバーガー 秋 インパクト]
……うーん。たしかにインパクトは強くなりました。でも、なんか違う。ハンバーガーに不要な謎のスピード感、そしてほとばしる生命力……。
そういうインパクトじゃなくて、もっとこう芸術の秋らしい、「アーティスティック」な感じにしたい。ということで、さらにキーワードを追加してみましょう。
指示3:[ハンバーガー 秋 インパクト アーティスティック]
ヤバい、悪化してしまった。ここは大人しめなキーワードを追加してバランスを取ってみます。
指示4:[ハンバーガー 秋 インパクト アーティスティック とはいえ上品めに]
おっ。イメージに近づいてきた感じがする。
でもちょっと寂しいので、もう少し、何か要素を追加したほうがいいかも。秋といえば……やっぱり「月見」。そして、月といえば「ウサギ」ですよね。
指示5:[ハンバーガー 秋 インパクト アーティスティック とはいえ上品めに 月見 ウサギ]
……そう来ましたか。ハンバーガーっていちおう食品なので、あんまりそういう感じで乗っかったり埋まったりするのは良くないかな。
ウサギさんを大事な商品から引き剝がすため、キーワードをちょいと変更してみましょう。
指示6:[ハンバーガー 秋 インパクト アーティスティック とはいえ上品めに 月見 かたわらにウサギ]
「寂しすぎると死んでしまう」でお馴染みのウサギですが、なんとかハンバーガーと決別してくれました(突っ込みどころは残るものの)。
この中だと2枚目(↓)は結構よさそうですが、
やっぱりちょっと距離が近くて、衛生面が気になります(ノミとか飛びそう)。要するにウサギがリアルすぎることが原因のような気がするので、もっとこうイラストタッチなというか、「抽象的な」感じのウサギに差し替えてみることにします。
指示7:[ハンバーガー 秋 インパクト アーティスティック とはいえ上品めに 月見 かたわらに抽象化されたウサギ]
はい。なんだか取っ散らかって参りましたので、この辺でひとまず、今回のチャレンジを終了としましょう。残念ながら「これ!」という作品の完成には至れませんでしたが、簡単な入力だけでこんなにバリエーション豊かな画像をつくれてしまうなんて。AI、やっぱりすごかったです。
結論① AIを使うにもセンスが要る
今回 “AIデザイン” にチャレンジしてみて気づいたのは、AIを使うにも結構、センスやテクニックが要る、ということです。
そもそもAIを使う側が「どんな画像をつくってほしいのか?」というビジョンを描けていないと、AIに指示を与えることができない。そしてAIが間違ったアウトプットを出してきたとき、「具体的にどこをどう」直せばいいのか、修正指示を出すこともできない。つまり、デザインのセンスや知識がない素人がAIを使っても、それなりのものしかアウトプットされない、ということです。
もちろん、頭の中で描いている完成イメージを言葉にする「言語化能力」や、そのうえでAIに的確に指示を伝える能力(ある種のエンジニアリングスキル)も必要になるでしょう。
■AIのディレクションに必要な能力
・そもそもの美的センス、デザインセンス
・完成イメージを言語化するスキル
・AIに適格な指示を与えるスキル
ちなみにAIに出す指示(いわゆる呪文)のことを、専門用語では「プロンプト」と言うそうです。AIに指示を与えてものをつくらせる技術者は「プロンプトエンジニア」と言い、欧米などではすでに職業としての地位を確立しつつあるとも。
「AIを使う」と言うと何か楽をしている、サボっている、といった印象を抱きがちですが、じつはAIを使いこなすこと自体、かなり専門的で高度なスキルを要することなんですね。
結論② 「画像素材」としては十分なクオリティ!
とはいえ、AIがつくる画像そのものの質はかなりのもの。画像素材としてなら十分実用に耐えうるクオリティだと感じました。
たとえば、AIにはあくまで「素材」としての画像をつくらせ、その素材を自分の手で組み合わせたり、加工したりして作品をつくる……という感じの用途になら、現段階でのAIでもかなり役立ちそう。「ハンバーガーだけ」「ウサギだけ」といった “単品” での注文になら、AIはかなり柔軟に対応し、ハイクオリティな画像を生成してくれるはずです。
結論③ だが、情熱はない
AIによるものづくりは手軽だし便利。でもそれと引き換えに、あんまりやりがいもないな……、ということも感じました。
もちろん、AIが予想外のアウトプットを出してきたりとか、人間には思いつかないシュールな画像が錬成されたりとか、そういう面白さはあるんですが。いわゆる「ものづくりの楽しさ」、自分の頭をひねって、知恵を絞って、制作物を磨き上げていく……そういう意味での楽しさは、やはりAIによる創造では味わいにくいものです。たとえどんなにいいものが出来上がったとしても、それは自分じゃなくあくまでAIがつくったものなので、やはり達成感が充実感が薄まってしまう気がします(古風な印象論かもしれませんが)。
ちなみにこういう類のむなしい感じのことを、哲学用語では「疎外(自己疎外)」と言ったりします。
疎外
人間が、事物や他の人間とかかわるうちに、自己から引き裂かれて本来あるべき自己の本質を奪われてしまい、自己にとって疎遠であるという状態。
出典:小学館『精選版 日本国語大辞典』
AI全盛時代のクリエイターは、ものづくりにおける「疎外」感に足をすくわれないよう、自分の価値観や感性をいっそう大切に育て、磨き上げていく必要があるのかもしれません。
補足: 権利関係には要注意!
最後に注意点として、AIをものづくりに活用するときも「著作権」などの権利関係には気をつけましょう。
AIでつくった画像も、扱いとしては一般の創作物とほぼ同じ。他の人の創作物に似通っていたり、その結果誰かの利益を損なったりすることになれば、著作権違反になってしまう場合があります。弁護士の田中浩之氏による解説を引用しましょう。
生成AIにより生成されたコンテンツに、既存の著作物との類似性と依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められ、著作権法が定める利用行為(複製・翻案等)に該当すれば、著作権侵害が原則として成立します。
出典:東洋経済オンライン|AIによる画像生成は「著作権侵害」にあたるのか
※傍線は筆者が施した。
つまり、AIでつくった画像が既存の作品に似通っている(類似性)、かつ既存の作品を真似してつくったことが認められる(依拠性)という条件を満たした場合、AI画像であっても著作権に触れてしまう可能性があります。たとえばAIでミッキーマウスそっくりの画像が生成されたとして、それを自分の作品として発表するのは当然アウト、ということです(非AIにおける創作でも同じですよね)。
とはいえ、そもそもAIとは大量の画像を「学習データ」として取り込むことで成り立っているもの。何をもって「依拠性」とみなすかなど、まだ議論中の問題もたくさん残っています。これからどんどん法律が整備・変更されていく可能性も十分にありますから、創作ツールとしてAIを使っていこうと考えているクリエイターは特に、権利周りの勉強や情報収集を怠らないようにしてください。
と、堅苦しい話で締めてしまいましたが。せっかくのAIという刺激的なツール、どんどん遊び倒して使いこなせるようになりましょう!
今回の使用ツール:
Bing イメージクリエーター
文・編集部 佐藤舜
↓PicoN!アプリインストールはこちら