【展示レポ】いま、パッケージがオモシロイ!印刷博物館で開催されている企画展「現代日本のパッケージ2025」で見る、デザインの最前線
みなさんは、パッケージデザイン好きですか?
誰もが見たことのある商品パッケージもあれば、使ったあとも思わず取っておきたくなってしまう見ているだけで心躍るようなデザイン性ある商品パッケージ、これはズルい~!そうきたか~!とアイディアにビビビッと!くるようなユニークな仕掛けが憎いデザイナーがうなる商品パッケージなど、世の名にはありとあらゆるパッケージデザインがたくさんあります。
印刷博物館で開催中の「現代日本のパッケージ2025」では、そんな“日常のデザイン”を通して、今の社会や時代の感性を読み解く事ができます。
今回は、展示を担当された学芸員の川井さんに、展示の見どころを伺いました。
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取材協力:印刷博物館
『現代日本のパッケージ2025』レポート—〜いまの日本のパッケージデザインを見渡せる企画展〜
本企画展は、日本で開催されている3つのパッケージコンテスト「第64回ジャパンパッケージングコンペティション」(一般社団法人日本印刷産業連合会)、「日本パッケージデザイン大賞2025」(公益社団法人日本パッケージデザイン協会)、「2025日本パッケージングコンテスト(第47回)」(公益社団法人日本包装技術協会)の受賞作品を一堂に集めた企画展。今回で、第11回目を迎えます。2025年4月より、印刷博物館館長に小説家・京極 夏彦さんが就任され、あいさつ文には、新館長のお言葉が並びます。
会場は、東京・飯田橋にある「印刷博物館」
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本展以外にも、常設展「印刷の日本史」「印刷の世界史」「印刷工房の欧文書体アーカイブ」、活版印刷を中心としたワークショップを通じて、来館者に印刷の魅力を伝える参加型展示スペース「印刷工房」など、印刷の歴史や技術に関するコンテンツを多数展示しています。
今回、「現代日本のパッケージ2025」が展示されているのは、1Fに開設されているP&Pギャラリー
受賞作品の数だけ“ひらめき”に出会える
P&Pギャラリーの入口エントランスでは「第64回ジャパンパッケージングコンペティション」、「日本パッケージデザイン大賞2025」、「2025日本パッケージングコンテスト(第47回)」の大賞作品が出迎えてくれます。
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そして会場内では、各コンテストごとにコーナーが設けられており、「第64回ジャパンパッケージングコンペティション」、「日本パッケージデザイン大賞2025」、「2025日本パッケージングコンテスト(第47回)」の受賞作品がずらりと並んでいました。
第64回ジャパンパッケージングコンペティション
「ジャパンパッケージングコンペティション(以下、JPC)」は、1961年に2名の著名デザイナーが中心となって創設した「パッケージング年鑑賞」がルーツとなっています。パッケージのコンテストとして歴史があります。JPCの評価のポイントは、とてもシンプルで、“市場で販売されているコマーシャルパッケージの優秀性” です。スーパーや、デパート、ECサイトなどで買いやすいものが多いです。もう2つのコンテストは、なかなか買えない物が多いです。後程ご紹介する「日本パッケージングコンテスト」は、業務用の輸送用のダンボールなどが多くてまず一般の方ではお目にかかる事も購入する事もできないものが多いです。JPCは、そういう意味で言うとみなさんにとって一番馴染みが深い商品が多いのではないでしょうか。
洋菓子、和菓子、洋食品、和食品、中華・エスニック食品、健康食品、アルコール飲料、一般飲料、衣料品、薬品、化粧品、化粧雑貨、一般雑貨、電気機器、贈答用品、POP、包装紙・ショッピングバッグ、地域産業商品、リニューアル商品(新旧提出)、ペット用品、外国人向け商品、ベビー用品―の計22部門と部門ごとに受賞作品が選ばれるのも特徴の一つです。
本コンクールは、トップの賞が、「経済産業大臣賞」という名称で、2点選出されます。
その1つが、味の素「Cook Do®」
受賞のポイントは、50%プラスチックを削減し、最後まで中身を絞り出せるようにした点。ここ数年で環境に配慮した素材を使用したり、プラスチック素材であれば、使用量をどの程度削減できたかなども選ばれるポイントとして挙げられるようになりました。
それと同時に、キャッチコピーの「無限に使える」より、無限大(∞)のマークを入れたそうなんですけれど、それが目玉っぽく見えるよね!というひらめきが店頭でも印象に残ったんでしょうね。
もう1つは、日清食品の「カップヌードル」
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もう理屈はいらないですね。 日清食品は何といっても抜群の企画力ですね。本当に毎年毎年面白い!このパッケージのものは大人気で、スーパーに行ってももう売っていないと思います。パッと見同じように見えますが、“カップヌードル食べた時のエピソードありませんか?”と募集し、採用された“エモい出”が書かれています。「山登りで箸を忘れて木の枝で食べました。その時の彼女が今の妻です。(男性49歳)」というようなエピソードを、本展では100通り見ていただく事ができます。書体も、カップヌードルのフォントを使用しているので一目見ても分からないですよね。ぜひひとつひとつじっくりご覧ください。
展示用のカップヌードルを100個送ってきていただいたのですが、どう展示すべきかとても迷いました。通常の展示台で積み上げると落下の危険性が有る為、展示設営チームで話し合い、特注でアクリルの什器を発注し、身長180cm超えのスタッフが上からひとつひとつ入れて配置しました。
このように、受賞作品の受賞ポイントや点数等に応じて、展示方法を決定しています。
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受賞ポイントは、消費者目線での売場で目を惹く圧倒的なインパクトや、パスタソースって1人で食べたいのに2人前しか売ってないよね?というお客様の声を反映している点、なぜ今まで気づかなかったんだろうというお茶漬けのインスタント商品化など、作品によって様々です。店頭のスタッフ目線での品出しのしやすさ、スタッキング可能になる事で在庫置き場の面積削減に貢献できるもの、パッケージの宿命である“捨てる”行為も“いかに捨てやすくなっているか”と受賞作品ごとに異なるので、ぜひ作品とともに展示している説明文にも目を通していただけると、よりパッケージデザインの魅力に気付いてもらえると思います。この説明文のキャプションを作成するのも、学芸員の仕事の一つです。
パッケージは、商品を運ぶという仕事が終われば、多くのものがゴミとして捨てられてしまいますが、こちらの「pino」は、アイスを食べた後に、クレーンゲームに変身するというものなんです。
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パッケージクラフト企画は数年前にも、「ピノすごろく」「ピノガチャ」が出ています。工作好きなお子さんにとってはたまらないですよね。捨てられてしまう前に、“もう1役”を与えてあげるようなパッケージは購買意欲を掻き立ててくれますね。
ーー最近の受賞作品の傾向やトレンドがあれば教えてください。
環境に配慮した作品は非常に多くなりましたね。
ビニールで作られていたパッケージを紙パッケージにリニューアルした受賞作品
プラスチック使用量軽減、資源の再利用などが増えています。それに伴い、紙製品になってきています。ビニールを使用したパッケージに入った商品も、紙のパッケージに変化しています。しわができやすくなったりとか、マイナス面もありますが、地球温暖化が深刻化するこの状況下で、そんな事を言っていられない時代に突入しました。パッケージをデザインする上で、環境を考慮するのは最早常識となってきています。
本展では、受賞作品全てに盗難防止の策を講じているのですが、紙製品が増えれば増えるほど、破損しないように盗難対策も慎重になる作品が増えています。プラスチック製であれば、両面テープで固定するところを、紙製のものは、テグスを使用して固定したり、弱粘性のテープを使用しています。今後もどんどん増えていきそうですよね。
日本パッケージデザイン大賞2025
「日本パッケージデザイン大賞(以下、JPDA)」は、2年に一度開催される、生産や流通、環境などの包装材料としての面だけでなく、デザイン的な価値や商品づくりの観点で評価されるコンテストです。パッケージデザイナーの目で選出されているので、より洗練された作品が多いです。
本年の大賞は、株式会社ポーラ「ポーラ コスモロジー」
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この作品は、審査員のほとんどの票を集めて大賞になったんです。「未来の豊かさ」を追求することを目的に、宇宙ステーションでの過酷な環境下での豊かさは、地球に快適に生きるヒントになるという思考から開発されました。最後までクリームを使い切る為の付属の絞りパーツがかわいらしくて、このパーツの位置を変えると、眉毛がへの字になったり、ハチマキのように見えたり、笑ったり、怒ったり、まるで人の顔のように、様々な表情が生まれます。「飽きがこないデザイン」「やりたいことが明快でシンプル」という高い評価で、ものすごい票数を獲得したんです。これを作ったのが、まだ若いデザイナーで、「新しい風」と話題になりました。
食品部門 金賞を受賞した「大好物醤油」
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「職人醤油」は、日本全国の伝統的な醤油メーカーからセレクトした醤油を100mlサイズで販売している小売ブランドです。「大好物醤油」ということで、スリーブ型パッケージから銘柄名やメーカー名をあえて完全排除し、オモテ面には大好物のイラストのみ記載し、パッケージを取り外せば本来の銘柄がわかるような仕掛けになっています。
ーー受賞作品の中で、印刷技術の進化を感じたものを教えてください。
輸送用ケース部門で銀賞を受賞された「新潟の梨・桃 段ボールケース」です。
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今はこのフレキソ印刷が進化して、これだけ濃淡を出すことができるようになったという部分が非常に評価されてますね。
フレキソ印刷とは、凸版印刷の一種で、ゴムや樹脂製の柔らかい版にインキをつけて印刷する方法です。全面を塗るというベタ印刷が得意で、段ボールや紙袋、布などの印刷に用いられています。凹凸のある面でも印刷できる為、段ボールへの印刷に適していますが、緻密なデザインの表現が難しく、オフセット印刷やグラビア印刷のように滑らかで自然なグラデーションにはなりません。ドットが大きく、網点を重ねても綺麗に混色されたようには見えず、色のかけ合わせは厳しいと言われていました。
2025日本パッケージングコンテスト(第47回)
「日本パッケージングコンテスト」(以下、JPI)は、なんと言っても“包装技術”それが最大の特徴で、包装におけるデザインからロジスティクスに至るまでのその年の包装の最高水準を決定するもので毎年開催しています。社会人になるとここの面白さがよくわかってもらえるかと思います!トップの12賞は、ジャパンスター賞と言って、今年は13点選出されました。その内、11点を展示しています。
本コンテストの大賞である経済産業大臣賞を受賞したのは、資生堂「イプサME」
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一番評価されたのは、容器の作り方。一般的な工程としては、空瓶の状態で化粧液を充填する工場へ輸送して、そこで化粧液を入れていくんですが、受賞作品である「イプサME」は、容器を熱して、膨らませながら化粧液を入れられるようになっています。容器の再利用も可能になりました。環境に優しく、輸送するコストも削減し、それに伴い、co2削減になっている。総合的に評価されての受賞でした。
こちらの作品は、なんと、プラスチック使用量100%削減を実現したパッケージです。
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車に乗られている方でなければ中々馴染みの無い商品ではありますが、インジェクターという部品を発送するパッケージです。従来であれば、右の展示のように、ひとつひとつの部品を包み、更にプラケースに収容したものをスタッキングしていました。新しい仕様は、段ボール固定材にインジェクターを縦向きに収容する事で、プラスチック使用量を100%削減し、レイアウトを変更した事で、収容数も96個から120個まで増え、包む必要がなくなった事で、梱包作業時間も65%削減する事に成功したんです。我々の知らないところで、こういう工夫がされる事によって、環境に優しく、働く人にとっても効率化を実現している。まさにJPIらしい受賞作品だと思います。
日々進化していくデザインや機能性。時代のニーズを反映させつつ、これからも私たちの生活を彩り、支えていく印刷物でもあるパッケージ(包装)には、中身を「守る」「伝える」以外にも様々な役割があります。
全員に平等にひらめきを見つけるチャンスがあるのが“パッケージデザイン”
ーーデザインを学ぶ学生に、この展示をどう見てほしいですか。
「手に取りたくなるパッケージ」を見つけて欲しいですね。
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数多く受賞作品が並んでいる中で、「可愛い!」と思うもの、マテリアル的な面白さとか、自分で思わずこれは手に取りたい!と思うようなものを探してみて欲しいというのが一つですね。最近は、エコバッグが主流になり、ショップの袋に入れて商品を持ち帰るという体験も激減してしまいましたが、どういう袋に入れたら高揚した気持ちとともに商品を持って帰ってもらえるか。お金を払ってでもこの袋欲しい!というパッケージを見つける楽しさはあります。
次の楽しみ方としては、業界に進みたいとお考えであれば、使いやすさに対する工夫、廃棄する量を削減している努力などを、見抜いていただきたいですね。
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一見どう見ても地味だなという作品こそ、現場の声や、消費者のリアルな声が反映され改良されています。JPIは、段ボールが多くて一見華やかではありません。しかし、クライアントの悩みに向き合った結果、改良する事で、配送コストの削減、配送工程の簡略化、現場での作業効率化などの課題解決に直結しています。パッケージに携わるという事は、まさにこういうものを作っていく仕事なんだというところに気付いてほしいです。
ーーパッケージデザインを勉強する上で、どんな視点が大切だと思いますか?
例えば、私自身、リサイクルショップに売る書籍を段ボールに詰めていた時に、「なぜぐらぐらするのだろう」という問題点を見つけるわけです。「ころピタカートン」を開発されたダイナパックさんも、内フラップが浮くことで、中身がぐらぐらするという問題点に気づかれたわけですよ。何気ない自分の生活の中に、「ここをもっとこうすれば便利になるのにな」という視点が、それが、実はもうパッケージの入り口だと思うんですよね。だから全員に平等っていうんですかね。どこでアイディアが降ってくるかわからないですよね。
フラップを内側に折る加工をする事で、商品を支える役割になっている。
展示づくりの裏側にも“デザインの目”があります。
ーー学芸員の業務についても教えていただけますか?
展示に関わる全ての業務を担っています。
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企画を考え、スケジュールを立てる。本展であれば、パッケージコンテストを主催している団体との共催という事で、団体の方が、受賞した企業や団体との連絡を取ってくださいます。
そこから、展示作品の寸法を計測し、什器の検討、物流の手配等の段取りをしていきます。
キャプションを制作するのも学芸員の仕事でして、基本は、コンテストを主催する団体の方が原稿を集めてくださって、その原稿をわかりやすいように整える作業をします。JPCは、アートディレクターや、デザイナー、クライアントなどは略語で表記されている為、作品の間に、解説のキャプションを掲示しています。JPIの場合、〈0201型ダンボール〉など専門用語が多く用いられる為、〈みかん箱サイズの段ボール〉という表記を補足する事で、来場者の方にも理解していただけるように工夫しています。
本展にはありませんが、地下1階の展示では、図録を作るという作業が入ってきます。
ーー本展を設営するにあたり、気を付けた点、苦労した点があれば教えてください。
博物館の世界では、昔から「ハンズオン」と言って、展示物やそのレプリカに実際に触れたり操作したりして体験できる展示方法を用いる事で、五感を使い、より深く学び、子供の豊かな気持ちが育まれる考え方があるので、本当は実際に手に取っていただきたい気持ちがありますが、展示物が全て返却を前提としている作品なので、破損の恐れがある行為はできるだけ避けています。よりじっくり見ていただきたいので、盗難および転倒防止で、テープやテグスでの固定をしています。薬と刃物については、今回アクリルケースの対応をしています。寸法は企業から申請いただくものも参考にしますが、届いてからこちらで再度計測しています。寸法も単純な寸法だけではなく、展示の時のスペースも考慮して計算しています。今回、5~6名の展示チームで、計112点の受賞作品を展示しました。実際に置いてみて、スペースの空き具合を見て入れ替えたり、銅賞は数が多いので、ひな壇を作ってみたりと工夫を凝らしています。最近は展示用にミニマム版を送ってくださる企業さんも多くなってきましたが、工業製品のパッケージの現物をお送りいただくと、展示面積が必要になってくるので、バランスを考えるのには苦労しました。
ーーこれまでの「現代日本のパッケージ」展との違いや、今回ならではの特徴があれば教えてください。
例年に比べて、若い方に来ていただけている印象です。X(旧:Twitter)の最初のポストも、24万回表示されており、とても嬉しいですね。深く読み込まなくても気軽に楽しんでいただけるので、デザイナーの方も、デザイン勉強中の方も、デザインを全く学んだことのない方でもぜひいらしていただきたい展示になっています。
パッケージは、“社会を包むデザイン”
ーー最後に、これからデザインを仕事にしたい方へのメッセージを伺いました。
若い豊かな感性で、柔軟なアイデアで、前例に縛られないで、課題を解決してほしいです。若手の発想こそ、社会をより良くしてくれるんじゃないかなと思います。
身近にありながら、実は奥深いパッケージの世界。
「現代日本のパッケージ2025」は、そんなパッケージデザインの“今”が一堂に介す貴重な空間。
素材、印刷、形、そして、社会との関わり。そのどれもが、デザインを学ぶ方にとってのヒントにあふれています。
『現代日本のパッケージ2025』は12/7まで
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《展覧会情報》
『現代日本のパッケージ2025』
会期:2025年10月4日(土)~ 2025年12月7日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー(東京都文京区水道1丁目3番3号 TOPPAN小石川本社ビル)
時間:10時〜18時
料金:無料 ※印刷博物館地下展示室にご入場の際は入場料が必要です
共催:TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館、一般社団法人日本印刷産業連合会、公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)、公益社団法人日本包装技術協会
HP:https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/g20251004.php
取材/PicoN!編集部 市村
撮影/内山慎也
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