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空間デザイナーが「歌舞伎町タワー」に潜入!  通路が “あえて狭く” 設計されたワケとは?

空間デザイナー・張富凱先生が、新宿の新スポット「歌舞伎町タワー」に潜入! デザインの見どころや設計の妙を、専門家の視点から解説します。

新型コロナウィルスの感染状況が落ち着きつつある近頃。アジア最大級の歓楽街・新宿歌舞伎町にも活気が戻り、外国人観光客の姿もよく見られるようになりました。

そんな中、今年4月に「東急歌舞伎町タワー」が開業。地上48階、地下5階、高さ225メートル。「好きを極める」をコンセプトとした、エンターテイメント特化型の複合高層ビルです。

歌舞伎町タワー 外観

歌舞伎町タワー 外観

飲食店はもちろん、アトラクション、アミューズメント、劇場、映画館、クラブ、ライブホール、さらには宿泊施設まで備えられ、夜通し遊びたい人も大満足の設計。さらに建物内にはアート作品も散りばめられており、宝探し気分で芸術まで楽しめるんです。

「噴水」がモチーフの外観デザイン

歌舞伎町タワーを訪れると、まずはその個性的な外観デザインが目を惹きます。

じつはこれ、「噴水」をモチーフにデザインされたもの。言われてみれば、地上から吹き上がる水しぶきのように見えますよね。

「歌舞伎町タワー」と「噴水」

「歌舞伎町タワー」と「噴水」

施設周辺に川の水源があったことや、歌舞伎町に水の女神「弁財天」(※)が祀られていることなどから、このデザインに行き着いたのだそう。ビルを覆う4000枚以上のガラスに特殊印刷を施し、反射をコントロールすることで、水しぶきの白さやキラキラ感が表現されています。永山祐子さんという建築家が手がけたデザインです。

※編集者注:弁財天……七福神の1人で、財産・音楽・水などをつかさどる。いわゆる「弁天様」。ヒンドゥー教に由来し、元の名であるサラスバティ―は「水を有するもの」を意味する。参考:小学館『日本大百科全書』。

エスカレーター=「非日常」への通路

さて、タワーの内部に入っていきましょう。

さっそく入口から、ある仕掛けが施されていることがわかります。

一般客がビルに入るためには、まず1階からエスカレーターに乗り、入口がある2階へと昇っていく必要があります。つまりビルに入る前に、わざわざ「エスカレーターに昇る」というステップを踏ませる導線になっているんですね。

歌舞伎町タワー 1階エスカレーター

歌舞伎町タワー 1階エスカレーター

歌舞伎町タワー 入口

歌舞伎町タワー 入口

これは「非日常空間」へのアプローチを大切にした設計だと感じました。「エスカレーターを昇る」という“儀式” を経ることで、来場者は「これから非日常空間へ入っていくんだ」という実感をもつことができる。最近の東急の複合ビルでよく使われている導線のつくり方です。

「狭い通路」も演出のひとつ

ビルに入るといきなり目に飛び込んでくるのは、ド派手な飲食フロアです。

歌舞伎町タワー 2F 飲食店街

歌舞伎町タワー 2F 飲食店街

「祭り」をテーマに食と音楽・映像を融合させ、日本各地の地域料理やB級グルメなどを提供しています。ステージ、DJブース、ミラーボール、カラオケなども設置されており、パフォーマンスやイベントもできるそうです。

歌舞伎町タワー 2F・DJブース

歌舞伎町タワー 2F・DJブース

こういった看板・照明などによる装飾に加え、あえて通路を「狭く」する導線計画も見られます。通路が狭いことで人が密集するので、まさにお祭りのような賑わいを演出できるんです。「外国人がイメージするアジア」の印象を、このフロアで再現できたのではないでしょうか。落ち着いて食事する空間というより、「ここでしかできない体験」の提供に力を入れているのでしょう。

チューブLEDで、SF映画のサイバーパンク空間を再現

吹き抜けでつながった3階は、サインと照明効果で飲食フロアの雰囲気を継承しつつ、より非日常なサイバーパンクの世界を構築している印象です。SF映画などでよくある空中ホログラムサインを、チューブLEDで再現しようと試みたのではないでしょうか。最近は照明器具が進化し、こういうネオン風サインを安価に、かつ簡単に製作できるようになったので、よく見かけるようになった手法です。

SF映画のような世界観の3F

SF映画のような世界観の3F

これらのインテリアは、どれも「非日常」と「SNS映え」を意識してデザインされたものと思われます。思わずスマホで撮影して、みんなに見せたくなるような仕掛けがいっぱい。「エンターテイメント特化」という歌舞伎町タワーのコンセプトや、今の時代のニーズに合わせてデザインされたものでしょう。

デザイナーは常に、クライアントの要望や予算という制約の中で、少しでも良いデザインを実現しようと戦っています。その点、歌舞伎町タワーは、立地・ターゲット・コンセプトなどどの観点から見ても、とてもわかりやすくデザインされた施設だと思います。

張富凱
空間デザイン事務所爆団に所属。これまでの主な仕事に「TOKYOゲームショー2022 YGG JAPANブース」、「VR体験アミューズメント施設 V-World AREA in E-ZO福岡」、「ONE PIECE 麦わらストア」や「TOKYO MOTOR SHOW 本田技研工業ブース」などに携わる。いつかは世界で通用するデザイナーになり、自分のデザインが世に知られるようになる日を夢見て日々勉強中。

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