「ハリーポッターと魔法の歴史」展 J.K. ローリングの創作の秘密に迫る 前編


東京ステーションギャラリーで開催されている「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展。ハリー・ポッターシリーズの作者であるJ.K.ローリングの小説に見られる豊かで多彩な魔法の歴史を楽しむことができます。

今回は、ハリー・ポッター好きな筆者と専門学校日本デザイナー学院(以下、NDS)イラストレーション科講師の原先生で、ハリーポッターを知る人・知らない人で楽しみ方に差があるのかを検証。またイラストレーションの的観点から解説をしてもらいます。

まず初めに、展覧会を見てハリーポッターを知る人・知らない人で差があるのか?ーー結論はどちらでも楽しめます!!もちろん原作を知っている人ならではのネタが随所に散りばめられたり、作中に出てくる街のスケッチなど見ることが出来たので、ファンである筆者は大興奮でした。ただ、展覧会ではファンタジーな魔法より自然科学など研究に基づいた魔法の解説。それを、書物やスケッチを用いて歴史を学ぶアカデミックな要素が強く見られました。

原先生は今回の展覧会いかがでしたか?

原)この展覧会はファンタジー文学である「ハリー・ポッター」の物語を形作るための様々な書物や資料、主に大英図書館の所蔵品を中心に展示されています。

展示は第1章から第10章までの各セクションで「旅」・「魔法薬学」・「錬金術」・「薬草学」・「呪文学」・「天文学」・「占い学」・「闇の魔術に対する防衛学」・「魔法生物飼育学」・「過去、現在、未来」といったタイトルで構成されていましたね。章が進むにつれて展示物の魅力に惹き込まれていきました。

筆)この物語が、いかに多くの文献や資料に基づいて作られたものなのかを実感する体験でもありました。また、その文学を映画という映像作品にするための資料もたいへん興味深いものでしたね。各セクション毎にハリー・ポッターの作中の出来事にリンクしているのでとても興味深かったですね。この展示物は、映画のこのシーンに登場したなど詳しく書かれていたので、見ているとまた映画を見直したくなる気持ちになりました。それでは第1章から順に旅をしていきましょう。

第1章「旅」The Journey

原)この章のタイトルはハリー・ポッターの原作者 J.K.ローリング氏がこの物語のアイディアを得たのが出発の遅れたマンチェスター発ロンドン行きの列車の中という(引用※)ことと、本展の展示の始まりを示していました。この章で鑑賞者の目を引いたイラストレーションがあります。

ジム・ケイ(Jim Kay)作 [『ハリー・ポッターと賢者の石』 の9と4分の3番線の習作]

魔法界のキングス・クロス駅のプラットホームに赤いホグワーツ特急があり、大勢の人々が集っている様子を俯瞰した構図で水彩系絵の具で描いています。まさに私たちのハリーが魔法学校で学ぶ科目への旅の始まりです。

第2章「魔法薬学」Potions

筆)この章の展示では、作中のセブルス・スネイプ先生や、ポリジュース薬を作っているハーマイオニーの姿が浮かび上がる資料が多くあった印象です。

原)魔法と薬の関係が、切っても切れない関係として一体化していると見てとれます。近代以前では、材料を調合してある効果を期待できる薬を作る知識を持ち、さらにその薬によって魔法の効力に影響を与える技術について、たいへん熱心な研究がなされていたことを示す資料などを鑑賞できます。

ピエール・ポメ(Pierre Pomet)著 『薬剤全史』[ a Compleat History of Druggs ] 1712年/大英図書館蔵

第3章「錬金術」Alchemy

原)続いて巡るのは「錬金術」の展示です。この究極の目的は、ありきたりの金属を金に変え、また、永遠の命が得られる不老不死の薬を作ることができる秘密の方程式を導き出すことにあります。(引用※)この章では英国の錬金術師にちなみ名づけられた4mを超える巻物が興味をそそられました。

ジェームズ・スタンディッシュ(James Standysh)著 『リプリー・スクロール』[ A Ripley Scroll ] 16世紀/大英図書館蔵

展示ではこの巻物の「賢者の石」の作り方のプロセスについて各所別に詳しい解説がなされています。

筆)作中にも登場する「賢者の石」や「ニコラス・フラメル」が実在したことにも驚きました。また「賢者の石」は秘密を守るため、あえてあいまいに描いていたそうです。当時から莫大な力を持っていることが伝わりました。

第4章「薬草学」Herbology

原)薬草学で扱われる植物の多くは治療薬ですが、ホグワーツ(魔法学校)では魔法のために栽培方法などを学んでいたようです。

筆)『ハリーポッターと秘密の部屋』で登場したマンドレイクの授業を思い出す場所でしたね。マンドレイクの根(イングランド 16世紀または17世紀 サイエンス・ミュージアム蔵)の標本も展示してあるのでファンには是非見てほしいです。

エリザベス・ブラックウェル(Elizabeth Blackwell)著 『新奇な薬草』[ A Curious Herbal ] 1737-39年/大英図書館蔵

今回の旅はここまで、まだまだ続く魔法学校の世界。後編では5~10章までをお届けします。お楽しみに。

※下線部注釈:この文章は東京ステーションギャラリー「ハリー・ポッターと魔法の歴史展」リーフレットより転用しました。

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展
会期:2021年12月18日(土)~2022年3月27日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
主催:東京ステーションギャラリー[公益財団法人東日本鉄道文化財団]、大英図書館、読売新聞社
協力:静山社、日本航空

文:原広信
NDS講師。造形作家。多摩美術大学大学院修了。在学中よりインスタレーション作品や抽象表現を軸とした現代美術作品の制作、発表活動を続ける。また、イラストレーターとして音楽ソフト制作会社でパッケージデザインとキャラクター制作を担当する。専門学校日本デザイナー学院で常勤講師・職員を経て、2021年よりデッサン・ドローイング等描画系科目を担当する。同時に美術作品を制作している。

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