「 運命の仮面 」NPI講師 写真家・飯塚明夫エッセイ

ザンビアで出会った一つの仮面に導かれて私のアフリカ取材は始まった。

20代に別れを告げるころ私は、「異文化を体感したい」と青年海外協力隊(JOCV)に応募し、写真講師としてアフリカのザンビアに赴任した。首都ルサカにあるエヴリフォン・カレッジのジャーナリスト科の学生たちに、写真の撮影と暗室作業、写真の編集などを教えるのが私の任務だった。

その仮面との出会いは、意外な場所で起こった。ザンビアの地方都市に住む友人を訪ねた帰り、バスターミナルでルサカ行きのバスを待っていた。ふと誰かに見られている気がして辺りを見回したが、目に入ったのは同じようにバスを待つ地元の人々の姿だけだった。

それでも気なったのでもう一度ゆっくりと頭を巡らすと、粗末な店構えのお土産屋さんのなかに何やら人の頭部らしき影が見えた。さらに近づくと木彫りの仮面が私を睨んでいた。

それは外国の観光客を相手としたお土産品とは明らかに違っていた。デフォルメされ顔の造形は、人のようでもあり、アフリカの神話や説話に登場する精霊の化身にも見えた。魁偉で力強いが同時にユーモラスで神秘的な仮面に引き込まれた。その時私は気づいた。アフリカにはこのような『凄い仮面』を生み出す文化的豊かさがあることに。「後れたアフリカの人たちを助けてあげる」という意識に囚われていた自分に。

仮面に魅せられた私は、協力隊の任期が終了した後、仮面文化で有名なドゴン(マリ)の取材を始めた。ドゴン集落の葬送儀礼(お葬式)の日には多種多様な仮面を被った踊り手たちが村中を練り歩き、幻想的な神話の世界が再現される。踊りのなかに死者の魂を取り込み精霊の世界に送り出すのが仮面たちの役目だ。

仮面の次はサハラ交易路、サヘル(半砂漠地帯)牧畜民、金を掘る人々や電子機器廃棄場で働く若者たちなど、様々な人々との出会いを元に取材対象を広げた。

一つの仮面から啓示を受け、アフリカ取材を始めて30年以上が過ぎたが、「もう取材を終わりにしよう」と思ったことは一度もない。アフリカは未だに尽きせぬ魅力を湛えて私の前に広がっているのだから。

 

日本写真芸術専門学校講師 写真家・飯塚明夫

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