フォトグラファーのためのカラーマネージメント実践〈第1回〉
オープニング
写真制作における色の悩みを改善しましょう
フォトグラファーの皆様、
- 思い通りの色にプリントできない
- 現物通りの色で撮影できない
- モニターによっていろんな色に見えて、何が正しい色なのかわからない
- 見る場所によってプリントの色が変わる気がする
……そんな悩みをお持ちではないですか?
それを改善できるのが、カラーマネージメントです!
カラーマネージメントというと、難しそうなイメージをお持ちの方もいると思います。
確かに、複雑なところや理解が大変なところもあります。でも、フォトグラファーとしての最低限の制作環境を整えるだけであれば、いくつかのポイントを押さえれば比較的簡単です。
今回は「フォトグラファーのためのカラーマネージメント実践」と題して、これさえ読めば色に関するストレスが減る! という企画を4回連載でお届けします。
カラーマネージメントって何?
まず、カラーマネージメントって何?というところ。
いろいろ難しく言うこともできますが、フォトグラファー的には「意図した色調をつくり、意図した色調を伝えるために行うこと」だと捉えてください。あくまで、意図通りに制作・伝達するための手段・方法です。
カラーマネージメントができていないとどうなるでしょうか。
- 意図していない色調で撮影されて、RAW現像に不要な手間がかかります。
- 意図していない色調でモニターに表示されて、プリントに不要な手間がかかり、だんだんどの色が正しいのか分からなくなってきます。
- 意図していない色調でプリントされて、プリントに不要な手間がかかります。モニターが悪いのかプリンターが悪いのかわからなくなってきます。
- 意図していない色調で写真を評価されて、コミュニケーションに不要なすれ違いが生まれます。
悲しいことばかりですが、フォトグラファーにとってはわりと日常的なことだったりしないでしょうか。
その手間や、すれ違いの修復にかかる時間や労力、そしてお金を、もっとクリエイティブなことに使おう! というのが、この連載でお伝えしたいことです。
では早速、フォトグラファーにとって現実的な形で実践しながら、カラーマネージメントをどのように制作に生かすのかを見ていきましょう。
[まとめ]
カラーマネージメントは、フォトグラファーがクリエイティブなことに集中できるようにするための手段です。
多くの色に関する悩みはカラーマネージメントで改善します。
最低限の制作環境を整えるというだけなら、そんなに難しくありません。
制作環境を整える
制作環境の一例
この記事のため、即席ではありますが、日本写真芸術専門学校のスタジオ内にデジタル写真の制作環境をつくりました。
並んでいる機材はどれもプロ御用達の、デファクトスタンダードとよべるものです。中には「高いなぁ」と思われるものもあるかもしれませんが、良いものを揃えておくことが環境整備の近道です。なるべく安いものを買って、工夫によって環境を整えることもできますが、それは完全なる玄人志向。良いものほど、スキルレスで環境整備ができるようになっているのです。最初から良いものを買っておいた方がいいです。三脚と同じですね。
モニターと照明がポイント
ポイントは、モニターと照明です。
ハードウェアキャリブレーションができるカラーマネージメントモニターと、高演色で色評価対応とうたわれている5000Kの照明を準備します。
モニターはAdobe RGB対応の方が良いです。意外に思われることもありますが、商業印刷の色域はsRGBを超える部分があり、印刷とのマッチングを考えても、Adobe RGB対応の機種をおすすめします。
今回は、モニターにEIZOのColorEdge CG2420-Zを、照明にEIZOのZ-208PRO-5000Kを用意しました。どちらも比較的手頃に、構成もシンプルに購入できるので、ファーストステップには良い機材です。
PCやプリンターはいつも使っているもので大丈夫です。今回は、学校で普段使っているEPSON SC-PX5VIIとMacBook Proを準備しました。
カラーマネージメント的には、プリンターは染料機より顔料機の方が色の安定が早いので使いやすいです(光沢や発色の違いも大きいので、表現に合わせて選びましょう)。
普通のモニターや照明と何が違うの?
なぜそんなモニターと照明を準備しなければならないのか、気になる方のために説明しておきます。
ハードウェアキャリブレーションができるカラーマネージメントモニターには、色調整のための基板(ハードウェア)がモニターの中に入っています。その分高価ですが、それのおかげで、比較的簡単かつ精度高くモニターの状態を維持管理できます。
普通のモニターでもキャリブレーションはできますが、その場合はソフトウェアキャリブレーションになります。モニターの調整はできますが、ハードウェアキャリブレーションほどの精度は出ず、調整にもスキルが必要になってきます。
キャリブレーションというのは、モニターの色をセンサーで測定してモニターを標準状態にすることなので、センサーが必要になります。
現行のEIZO ColorEdgeのCGシリーズはセンサー内蔵、CSシリーズは別売です。内蔵の方が便利ですが、普通のモニターのソフトウェアキャリブレーションもしたい方や、プリンターのプロファイルも作成したい方(後で説明します)は、CSシリーズを買って別売でセンサーを持っておく方が、多少の節約になります。
撮影光源の大切さを、フォトグラファーであればよくご存知と思います。例えば、撮影にはタングステンランプやストロボを使うことや、下手な照明より自然光の方が良いということ。
これはすなわち、演色性が良い光源を使った方が良いということです。演色性というのは、その光がどれだけ太陽光に近い見え方かを表すものです。これは撮影時だけでなく、制作時にも同じく大事なものなのです。
もう一つは色温度。これも撮影時に気にするところだと思います。特に意図がない限り、違う色温度の光が画面内で混ざることは避けますよね。制作時でも同じです。モニターもある意味光源ですので色温度があり、その場の照明と色温度が合っていなければなりません。例えば、モニターより照明の色温度が高ければ、モニターはアンバーに見えてしまいます。
その上で、印刷物や写真を見るときの色温度が5000Kと規格で決められているので、モニターも照明も5000Kにする、というのが基本です。
今回用意したZ-208PRO-5000Kの光をカラーメーターで測ってみました。セコニックのC-800なら演色性も測れます。
色温度が5231K、演色性を表すRaが97.3と出ました。色評価照明は、色温度が5000KでRaが95以上であればひとまず大丈夫と覚えておきましょう。規格ではさらに細かく条件が決まっていますが(後で説明します)、最低限支障ないレベルで色を確認できる照明だとわかりました。
[まとめ]
環境整備に大切なのはモニターと照明です。
ハードウェアキャリブレーションができるカラーマネージメントモニターを使いましょう。
色温度が5000Kで、演色性の高い色評価対応の照明を使いましょう。
制作環境の光も、撮影時の光と同じように考えましょう。
文・芳田 賢明
イメージングディレクター/フォトグラファー
株式会社DNPメディア・アート所属、DNPグループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/
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機材協力:銀一株式会社
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