『ゲルハルト・リヒター展』開幕!大規模個展の見どころは?
「ドイツ最高峰の画家」との呼び声高い、現代美術界の巨匠ゲルハルト・リヒター。独自の技法と哲学で絵画の可能性を追求し、多彩な作品を生み出し続けてきた彼の大回顧展『ゲルハルト・リヒター展』が6/7より東京国立近代美術館にて開催されている。
今年90歳・画業60周年を迎えるリヒター。日本では16年ぶり、東京では初となる大規模個展は、初期作品から最新作のドローイングまでを展示する。
今回は代表的な作品とともに、本展の魅力をレポートしたい。
ゲルハルト・リヒターについて
1932年ドイツ・ドレスデン出身。ベルリンの壁が建設される直前、1961年に西ドイツへ移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学ぶ。60年代以降、絵画を中心に様々な作品を発表し、世界的に評価される画家となる。
≪ビルケナウ≫
アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で密かに撮影された4枚の写真。それらのイメージの上にペインティングをしたのが2014年に制作された≪ビルケナウ≫だ。近年の最重要作品とも言われる本作が、日本初公開となる。
本展では、この4枚の抽象画を撮影した4枚の写真作品が同寸で絵画と対になるよう配置され、さらにその両作品を映すように横長の鏡の作品が置かれている。
またそれらと同じ場所には、制作の元となった強制収容所での4枚の写真も展示されている。ほとんどピントが合っていないその白黒写真は、急いで撮影された当時の状況が伺える。そして撮影対象の意図を理解したとき、改めてホロコーストの凄惨さが焼き付く。
ドイツの歴史をこれまでも作品の主題にしてきた彼が、主題と正面から向き合い、作り上げたひとつの到達点だ。
アブストラクト・ペインティング
≪ビルケナウ≫にも用いられた制作手法をとったシリーズで、1976年より40年以上も描き続けられている。作品数も多く、リヒターの最もポピュラーな作品としても知られている。
巨大なキャンバスに絵具を重ね、上から「スキージ」という大きなへらで絵具を剥ぎ取るこのシリーズは、偶然性により生まれる色彩表現が特徴的だ。
「無個性」や「均質化」を常に意識し、絵画における意味や自己主張に抵抗し続けたリヒターの思想も垣間見ることができる。
フォト・ペインティング
「写真と絵画の境界」を追求してきたのもリヒターの特徴だ。代表シリーズの「フォト・ペインティング」を紹介する。
通常、絵画はその主題や構成・色彩の選択により表現されるが、それを見る際の視点は大概「何を書くか」に引っ張られてしまう。そう考えたリヒターが1960年代に始めたのが、写真を忠実に描く「フォト・ペインティング」だ。
雑誌や新聞・広告の写真などを、精密にキャンバスに模写することにより、対象に込められるものを意図的に排除するといった狙いがある。
一見ぼかしが入った写真と見間違えるような作品だが、実物に近づくと、絵画ならではの筆跡の意図的な歪みを見つけられる。
風景画や静物・家族などの人物画もこの手法で多数制作された。
静謐なトーンで、どこか不穏さを持ちながらも美しく、筆者が一番好きなシリーズだ。
この他にも、「カラーチャート」シリーズや「グレイ・ペインティング」といった絵画表現、写真・ガラスや鏡を用いた立体作品、貴重な映像作品など、様々な技法をとった作品を網羅的に鑑賞できる。
今回の展示会の構成は、リヒター自身が初期段階から企画に携わっているとのこと。
順路が細かく指定されておらず、作品を空間内に点在させる設計は、彼の多彩さを充分に堪能できる構成になっている。
多様な作品を通して、視覚表現の可能性に根源から向き合うリヒターの姿勢に、一貫したものが感じられるのも本展の魅力だ。是非生で体感してほしい。
文・写真:ライター中尾
ゲルハルト・リヒター展
開催日:2022年6月7日(火)~10月2日(日)
開催時間:10:00~17:00(金・土曜は10:00~20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日[7月18日、9月19日は開館]、7月19日(火)、9月20日(火)
開催場所・会場:東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
入場料:一般2200円、大学生1200円、高校生700円、中学生以下無料
URL:https://richter.exhibit.jp/
▼ゲルハルト リヒター作の一枚の絵『雲』について