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飯塚明夫アフリカフォトルポルタージュ《ニャーマ》 Living For Tomorrow:明日へ繋ぐ命 #5

アフリカ大陸には54ヵ国、約12億人の人々が暮らす。ライフワークとして約30年間、この大陸の人々の暮らしと文化、自然を取材し実感したことがある。それは「彼らに明日は約束されていない」ということだ。

アフリカの人たちの「命の生存」を支える経済基盤は驚くほど脆弱である。不安定な現金収入のため、「その日暮らし」の状況に置かれている。今日の一日の労働は、明日に命を繋ぐための闘いだ。

だが彼らから感じるのは、悲壮感よりエネルギッシュな生活力である。厳しい社会状況の中で一生懸命に生きる人々に尊厳を感じたことも多い。そのような彼らの姿をシリーズでお伝えしたい。

メインタイトルの「ニャーマ」は「霊魂・生命力」等を意味する西アフリカに住むドゴン族の言葉である。アフリカの人々の中に息づく逞しい「ニャーマ」を少しでも感じ取っていただけたら幸いである。

 


アフリカフォトルポルタージュ-#5

西アフリカ・塩の話〈Ⅰ〉

-砂漠の塩-

 

1.砂漠の塩は金と等価

海から遠い西アフリカのサハラ砂漠では、昔から生命の維持に欠かせない塩の確保が大きな問題だった。遠方から運ばれてくる海の塩を苦労して手に入れるほか、ツリガネソウ科、アカザ科などの塩生植物(注1)を焼いて、その灰から塩をとっていたという。
ピコン#3「真夜中の花嫁」で少し触れたように、サハラ砂漠を媒介として北のイスラム文化圏と南縁の黒人の世界は、約千年にわたり「サハラ砂漠縦断交易」を行っていた。その交易は別名「塩金交易」と呼ばれ、かつては「金と砂漠の塩が等量で交換された」といわれるほど、西アフリカ内陸部の人びとには塩は貴重品だった。

市場で売られている砂漠産の塩。品質にもよるが1㎏70円位  マラディ

トマトソースで煮込んだ牛肉とライス。料理に塩は必需品  ニアメー

 

国土の約7割がサハラ砂漠の国ニジェール。私は交易都市アガデスと遊牧民ボロロの取材のため、西アフリカのニジェールに滞在していた。
首都ニアメーの市場に足を運ぶと、円錐形や半球状、かまぼこ型など様々な形の塩の塊が売られていた。塩の商人は「砂漠の塩」だと教えてくれた。手作り感の漂う砂漠の塩の生産現場をぜひ取材したいと思い、彼に生産地を聞いた。
「塩の生産地を撮影したい? ここから行き易いのはティギダン・ティスムだな。アガデスの近くだ。だがイスラム過激派の活動地域だから気をつけろ」
アガデスは当初からの取材対象地だ。

アガデスに向けてニアメーを早朝のバスで出発した。途中タウアで1泊し、アガデスには2日目の夕方6時頃に着いた。街の入り口の警察の検問所で、「外国人登録書類」の作成のため足止めされた。アガデス訪問の目的を聞かれたので正直に答えると、警官は私のカメラバックを横目で見て、「ティギダン・ティスムの取材を無事に済ませたいなら護衛をつけろ」と警告した。

交易都市アガデスに落ちるミナレット(モスクの塔)の影。交易商人たちはイスラム教徒だ  アガデス

 

近年アガデス周辺ではイスラム過激派の活動が活発化し、旅行者やNGO関係者までも襲撃や誘拐の対象になっている。イスラム過激派は、仕事がなく現金収入の当てのない地元の若者たちをリクルートし勢力を拡大している。
宿泊したホテルの支配人にティギダン・ティスム取材の相談をすると、ガイドと車、護衛の手配は出来るという。
「2泊3日の砂漠ツアーだ。護衛はナショナル・ガード(国家警備隊)の隊員たち10名に、機関銃を積んだ4輪駆動車2台」
ツアー料金を聞いて驚いた。欧米人などの団体旅行者たちを警護するときの基準らしい。私の目的地はティギダン・ティスムの一ヵ所だけであること、スポンサーのいない個人旅だと説明し、どうにか払えるぐらいまで料金を抑えてもらった。

護衛のナショナルガードの隊員たち  アガデス近郊

砂漠の朝は冷え込む。焚火を囲んでの朝食。同行した調理人、撮影助手、 砂漠のガイド、運転手、中央は飯塚  ティギダン・ティスム

 

2.砂漠のなかの塩田

ティギダン・ティスムは泥レンガ造りの家が密集した静かな集落だった。アガデスから車で5∼6時間のところにある。現地の言葉で、ティギダンは「場所」、ティスムは「塩」の意味だ。この地域の砂は他の土地より塩分濃度が高く塩田を作るのに適している。

ティギダン・ティスムの集落  ティギダン・ティスム

 

砂漠の塩田は泥で造ったすり鉢状の穴が、あたかも生命体の細胞のように無数に並んでいた。理科の教科書に載っていた細胞のイラストを思い出した。すり鉢の大きさは直径50㎝位から数mのものまで様々。深さは30∼60㎝位だ。

砂漠のなかの塩田。所有者は決まっている  ティギダン・ティスム

上澄み液をすり鉢に注ぐ少女。働く子供たちの姿も目に付いた  ティギダン・ティスム

塩を小さなほうきで集める女性  ティギダン・ティスム

固い塩の結晶は砕いてから集める  ティギダン・ティスム

集めた塩を乾燥場に運ぶ  ティギダン・ティスム

塩の作り方もユニークだ。①大きいすり鉢に塩を含んだ砂を入れ、水を加えてよくかき混ぜ、しばらく放置する。②砂が底に沈んだら上澄み液を汲みだして小さいすり鉢に注ぐ。③数週間かけて天日で水分を蒸発させて塩の結晶を作る。④塩を集めて半球状やかまぼこ状に形成し、さらに乾燥させて完成。

塩を半球形に形成し、さらに乾燥し固める  ティギダン・ティスム

 

砂漠の塩が遊牧民たちに根強い需要があるのは、値段が手ごろなのと、固形なので運び易く、家畜たちに舐めさせるのに適しているからだ。ティギダン・ティスムの人びとは塩を家畜などと物々交換していたが、今は現金取引が増えている。サハラ砂漠の奥地でも貨幣経済の波に逆らうことは難しい。

約40年間塩を造り続けている女性。集落からは一度も出たことがないという  ティギダン・ティスム

 

厳しい生活環境の砂漠で知恵を働かせ、自然への負荷が少ない方法で塩づくりに励んできたティギダン・ティスムの人々。生産効率優先で突き進み、自然を壊してきた私たちが彼らから学ぶべきことはあると感じた。同時に、貨幣経済に翻弄される地元の若者たちを塩田に繋ぎとめるには、地場産業としてもっと魅力が必要なのだろう。

(注1)塩生植物:高塩濃度に耐える種子植物。地下水の塩分濃度が高い乾燥地帯や海岸沿いなどでも生育できる野生植物。

文・写真/飯塚明夫
©IIZUKA Akio


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