懐かしくて、温かくて、少し切ない。写真家、井上哲志さんが撮る「心を動かす日常の一瞬」
なにかを見たり、聞いたり、体験したとき、感情が揺さぶられるような、なんとも言い表せない気持ちになったことはありませんか?
いつも私たちが見ている光景は、同じように見えても二度と戻らない。そんな「日常の一瞬」を撮る写真家の井上哲志さんは、現役の大学生でありながら写真家としての活動を広げ、SNSの総フォロワーは17万人と注目を集めています。井上さんに写真のことやSNSのことなど、いろいろなお話を伺いました。
「心を動かす、何ともない素敵な日常。」のこと
井上さんの写真はどこか懐かしい風景や色合いが印象的です。日常を撮り続ける理由やきっかけを教えてください。
自分が田舎に住んでいたものの、SNSでは大都会や絶景のような非日常的な瞬間ばかり流れてきていて、どこか違和感を感じていました。そこから日常をテーマに撮り始め、続ける理由としてはどこかへ行かずとも身近な日常や街の風景から救いを求められたらという願いもあるのかもしれません。
様々な問題がひしめく現代で、多くの人が身近な瞬間から小さな幸せを感じることができたら素敵だと思います。
身近にある何気ない風景や日常のなかで、どんな瞬間に心を惹かれますか?
その街や場所の空気感が感じられる瞬間が好きです。
商店街で買い物をしている人や、複数人で駄弁りながら歩いている瞬間など、人との繋がりが見える場所はそういった素敵な瞬間が多いのではないかと思います。
春のやさしい光や夏の眩しさ、冬の澄んだ空気など、写真から温度が伝わってくるような感じがしました。井上さんが撮影するときに心がけていることやよく撮影する時間帯について知りたいです。
できるだけ「撮る」と力まずにそこにいる人に溶け込むようにして、同じ目線で街を見ることが大切なのではないかなと感じています。またただ日常を写すだけだと時にきつい画や味気ないものになることがあるので、どう中和するかも考える必要があるかもしれません。
光が綺麗で空の色味が素敵な夕暮れ〜日没あたりの時間で撮ることが多いです。光の質感まで写すことができると、それだけで空気感や温度感を表現できるので光をどう写すかということについても考えています。
普段はどんなカメラを使っていますか?
SONY α7ⅢとFUJIFILMのX100Vというカメラを使っています。
クライアントワークはフルサイズ機で行いますが、日々の街中の写真や旅行、ちょっとした瞬間などの記録は全て小さいX100Vで撮っています。街中で目立たず、コンパクトに撮り回しがきくので、とてもお気に入りのカメラです。
大学の授業を受けながら写真家として活動をするなかで、嬉しかったこと、その反対に大変だったことはありますか?
嬉しかったことは活動を知っている友達から写真を好きだと言ってくれたことや、大学公式の記事で取り上げて頂いたことです。また大変だったことは正直あまりないのですが、クライアントワークなどと授業が重ならないように調整することが強いて言えば大変で、最初の頃はダブルブッキングしてしまって苦労した覚えがあります。笑
井上哲志さんにとってのSNSとは。
InstagramとTwitterの使い分けをしていますか?
漠然と使っていたのですが、使っているうちにInstagramは狭く深く縦型のコミュニケーション、Twitterは広く浅くの横型のコミュニケーションな気がします。そのため初めはTwitterで認知して頂き、いまではInstagramに移行してより密なコミュニケーションによって多くの人に写真を好きになって頂けていると考えています。
Twitterでは写真以外のアートやコミュニティとの出会いもあり、より価値観を広げることができたと考えています。またInstagramでは見てくださる方からのアクションがあるため、より自分の写真を見てくださる人がいることがより見える化できたことは大きいと感じています。
作品と一緒に書かれている言葉も素敵だと思いました。このようなセンスはどう磨かれたのでしょうか?
これに関しては磨いたという感覚が一切なく、映画や音楽、小説など様々な文化やアートにふれてきたことが、自然にそういった感覚が蓄えられていったのかもしれません。特に村上春樹さんの小説は独特な言い回しが多いので、高校時代に衝撃を受けた記憶があります。
なるべく様々なものにふれて体験することで写真を撮る際の引き出しが増えるのではないかと思います。
SNSはたくさんの人と繋がれるツールだと思います。自ら発信することでどんなメリットがあるのでしょうか?井上さんの考えを教えてください。
物理的な制限を取っ払って人と繋がることがやはり一番の大きなメリットだと思います。
会える人には限度がありますが、SNSなら世界中のどんな人との繋がることができることができ、それは自分の写真を多くの人に見てもらうことに繋がります。自ら発信することはとても大切なことだと思います。発信を通じて様々な出会いをすることでより多角的な視野を得ることができますし、自らを発信する際はやはりどう見られるかを気にするので、自分を客観的に見つめ直す機会にもなるかと思います。
現代日本の写真界では、顔となるようなキュレーションサイトや若手を引っ張り上げるような機会が減ってきているため、基本的には写真や自分をプロモーションすることが必須で、その上で欠かせないツールになっていると考えています。
今後の目標や展望を教えてください。
地道に写真を撮り続けることができるということが長い目での目標です。
その中でクライアントワークはもちろん、SNSや個展のような写真を見てもらえる機会を作っていけたらと思います。
いま写真を学んでいる学生やこれから学ぼうと考えている方に向けてメッセージをお願いします。
この記事をご覧頂いている方はおそらく若い方が多いと思いますが、自分も大学2年の時に写真を始めて2年でこのようにお仕事を頂き、多くの方に写真を見て頂くことができるようになったので、写真を好きでいて焦らずに地道に行動して頂けたらと思います。
またSNSを通して様々な人や文化・アートにふれて自分の感性やより広い視野を作って、自分が本当に撮りたいものが何なのかを知って、どういったスケールをしていけばよいのかを考えて動いていくことが大切だと思います。陰ながら応援しています。
今回、インタビューにお答えしてくれた井上さんが都内で個展を開催します!
【お知らせ】
来月、都内で初の個展を開催致します。
変わり続ける街の一瞬のキラメキ、あるいは寂しさ、人との繋がりなど様々な表情を写した写真展です。
大学を卒業する節目でもあり、コロナ禍で始まった
自分の写真生活の集大成でもあります。
是非ご気軽に見に来て頂けたら幸いです pic.twitter.com/GkDxcEAvq5— 井上哲志|Satoshi Inoue (@metaphor_472) February 12, 2023
写真展『Town FreeStyle』
会期:2023年3月7日(火)~3月12日(日)
場所:弘重ギャラリー
住所:〒150-0022 渋谷区恵比寿南2丁目10-4 ART CUBE EBIS B1F
時間:11:00~19:00(最終日は17:00まで)
変わり続ける街の一瞬のキラメキ、あるいは寂しさ、人との繋がりなど様々な表情を写した写真展です。
大学を卒業する節目でもあり、コロナ禍で始まった自分の写真生活の集大成でもあります。是非見に来て頂けたら幸いです。
作品を直接見てみたいという方、この機会にぜひ!井上さんの他の作品は、SNSにもたくさん載せられています。
Satoshi Inoue/井上哲志
2000年生まれ千葉県出身、早稲田大学在学中。
コロナ禍で大学生活の行き詰まりから、写真を始める。
「心を動かす、何ともない素敵な日常。」をテーマに撮り続ける。
SNSの総フォロワー数は現在17万人。
雑誌やメディア掲載から企業とのタイアップなど、若くして活動の幅を広げている。
HP:https://www.satoshi-inoue.com/
井上哲志さんが撮る写真は、心の奥の思い出や今までの経験と繋がるような感じがします。きっと多くの人が同じような気持ちになっているのではないでしょうか。何気ない日常は「かけがいのないもの」だったんだと気付かされ、もっと一日一日を大切に過ごそうと思えました。井上さん、ありがとうございました!
PicoN!編集部 木下