【写真学校教師のひとりごと】vol.1 神田開主について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

 


 

わたしは自分の学生時代、つまり写真学校の学生の頃、先生と教室以外でリラックスした感じで接するのが好きだった。
教室の外で接することで、教師と学生というお互いの間にあるややこしい壁や垣根を乗り越えて、ただの先輩と後輩として会話をすることができたと思っている。
だから自分の場合も、授業以外に教室の外でも彼ら学生と接するようにしてきた。学生何人かと、授業中とは違った自由な雰囲気で会話を楽しんでいた。
そんなとき、隣のクラスのT先生がやはり10人足らずの学生といっしょにこの店に入ってきた。
それぞれの学生の輪のなかに、当然のことのようにお互いのゼミの学生が何人かずつミックスされていた。
T先生が言った。
「キクチさん、学生の交換しようよ」
こうして隣のゼミの神田はこちらのゼミに移って来た。その代わりに、交換ということで1人の学生が向こうに移っていったが。

「真昼の夜空」

その男、神田開主の最初の写真展のタイトルだ。
ありえない物事をサラッとした表現で言葉にする。
普段の穏やかな彼の姿、そのまんまのイメージを言葉にすると、真昼の夜空だ。
そんなことは意識していないような、まるで気がついていないような顔をして、穏やかに微笑んでいる。それがこの男なのだ。

以下は、彼のこれまでの個展の履歴だ。

2009年 『真昼の夜空』 ニコンサロン Juna 21

>『真昼の夜空』作品はこちら

2012年 『追想の地図』 ニコンサロン Juna 21

>『追想の地図』作品はこちら

2014年 『地図を歩く』 ニコンサロン

>『地図を歩く』作品はこちら

2016年 『壁』 ニコンサロン

>『壁』作品はこちら

2019年 『視線をむすぶ』 epSITE Gallery

>『視線をむすぶ』作品はこちら

 

わたしは授業で、毎週毎週新しいテーマの課題をだしていた。それと同時に自分のテーマを設定し、それも取り続けることを決まりごととしていた。
そして、なかなか面白そうなテーマで新たな切り口の写真を撮り始めると、それに免じて毎週替わりの課題を免除する決まりにしていた。
新しい方向が決まると、余計な意見は極力控え、学生作者の感性を極力尊重し、進めるようにした。
神田もそのとき網にかかり、個展にこぎつけた。

こうやって、なかなかのテーマを見つけるとこちらも嬉しくなって、じゃあ写真展でも見に行こうということになり外に繰り出し、ちょっと早めの時間に聞こし召したりして。
さっき見てきた大家の写真について論じるのだが、度重なり、学校の識るところとなり、あるときから、教員は学生と教室外で会ってはいけないという決まりができてしまった。この決まりができた責任は我にありです。

ところで神田が最初に応募したのは、ニコンではなく、同じメーカー系ギャラリーのコニカだった。だがそのコニカの選考からはずれる。それでその作品をニコンに応募し直したのだ。
ついでにいうと神田は今度こそと、2作目もコニカに応募した。だがこれも選考からはずれた。そしてこれもニコンに再応募し、ニコンで展示することになる。
神田と1年違いの学生で、Iというのがいた。これは神田とは逆にコニカは通るが、ニコンは通らないという学生だった。
どちらが難しいというのではない。それぞれの選考委員との相性だと思う。

いままでほかのゼミから移ってきた学生は数多くいる。その中でも神田はなんの問題も起こさずに、すんなりとまわりに受け入れられ、そして先頭を走ってきた。
わたしは机にならべられた写真を見て「よかろう」というだけ。
ここでひと言。
そろそろ6作目を発表してもいいころだなあ。

神田 開主 (かんだ あきかみ)
埼玉県生まれ、群馬県在住。日本写真芸術専門学校入学を機に写真を撮り始める。フォトアートゼミを卒業後、研究科を経て、写真家として生まれ育った北関東をベースに作品制作を続けている。写真集『地図を歩く』(2014 年)、『壁』(2016 年)を出版。

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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