【写真学校教師のひとりごと】vol.11 木村美代子について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼前回【写真学校教師のひとりごと】


 

正直言って、まさか写真展をこんなにやるようになるとは思ってもいなかった。
ごく最近ので4回目である。
わたしが写真を見てきた学生たちの写真展は、いつの間にか総数で100回をゆうにこえている。
だがそのなかでも1人で3回以上開いた者は、わたしが知っている範囲で10人ちょっとしかいない。木村はその1人だ。
実家は果実栽培農家だ。桃と柿とぶどうを栽培しており、その家族の一員として、生計を営んでいる。
本人は意識していないと思うが、彼女の強みは、食べるためにシャッターを押さなくてもいいということだ。
つまり食うみちを写真ではなく別にもっているのが、彼女の大きな強みだ。数多くの者がそのことで大変な苦労を強いられているのが現実だ。

1994年「=Places of Birth=」

2021年「Feeling between A and B, …」

2023年「Feeling between A and B」

2024年「旅と公園と人と」

最初の展示は1994年である。
それからなにがあったのか、なかったのか、しばらくはなんの音沙汰もなく静かにすごす。
そしてなにか期することがあったのだろう、2021年からほぼ毎年個展を開いている。
わたしが注目しているのは、まだ公開はされていないが、実家の果樹園で撮っている写真だ。モノクロームである。
そのぶん思い込みがはいりこめる余地が多分にある。本人にはそんなつもりはないのかもしれないが、なにか自分の心のなかを覗き見しているかのような写真だ。

家族で栽培している果樹園の写真を撮るということは、自身の本心、本音につながりやすいのではないだろうか。
現在は作物やそれらの影を撮っているが、それらと自分の心の動きが連動をはじめるのも時間の問題だと思う。
家族と共に多くの時間を過ごし、そしてその間に何人もの人々と時間を共有し、それをその想いを作物にぶつけて、シャッターを押していけば、面白い写真ができてくると想うのは、わたしだけではないはずだ。
日記のように、毎日毎日畑に向き合い、そのときの想いを作物という鏡に写しだし、写真という映像におきかえるのだ。
もうすでにそういった状態にはいってきているのかもしれない。
この作業がどこまでできるか、どこまで突っこめるか、どこまで開き直って自分の心の中まではいっていけるかが、写真の深さや強さに現れてくるはずだ。

写真を撮ろうとおもってはじめたんだ、思い切って突き進んでみるのもいいかも。
いまがそのチャンスなんじゃないのかな。

木村美代子

1965年山梨県生まれ。
1985年山梨県立高等看護学院中退。
1988年日本写真芸術専門学校(報道写真専攻)修了。
1994年東京綜合写真専門学校研究科卒業。

個展
1994年 「Places of Birth(生まれ育ったところ!):夏休み」(平永町橋ギャラリー/東京)
1995年 「掌編写真展(small piece of photography)」(平永町橋ギャラリー/東京)
1995年 「フルーツ・パラダイス」(東川町文化ギャラリー/北海道)
1996年 「夏休み 1 ・2」(ギャルリ伝/東京)
1998年 「light!」(オレゴンムーンギャラリー/東京)
1999年 「日常と其処」(ギャルリ伝/東京)
2001年 「フルーツ・パラダイス」(山梨中央銀行・展示コーナー/山梨)
2021年「Feeling between A and B,…」(gallery DEN5/東京)
2023 年「Feelingsbetween A and B」(Alt_Medium/東京)
2024 年「旅と公園と人と」(ギャラリーヨクト)
他、グループ展多数

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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