【写真学校教師のひとりごと】vol.7 菊池雅之について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼第6回


 

この男、菊池雅之はわたしと同姓である。字も同じだ。だが血縁はない。
学生はわたしのことを「キクチさん」と呼ぶ。「センセイ」ではない。
国会議員連中が「センセイ」と呼ばれて、ふんぞりかえっているのをなん人も見ていやになったからだ。
もうひとつ。センセイというのは職業上の呼称だけではなく、なにか尊称的ニュアンスも感じられ、自分にはいまひとつしっくりこないので、学生からそのように呼ばれるのを勘弁してもらっている。
雅之の話にもどる。
クラスメートたちが、かれのことを「キクチくん」と呼んでいたので、それもやめてもらい、「マサユキ」と名前で呼ぶようにしてもらった。

ところで、まだかれは写真展をやったことがない。
ここに登場する人物で、過去に写真展をやったことがない者は、この菊池雅之がはじめてである。
決してその能力がないわけではない。

わたしは今まで学生たちには、写真展をかさねて作家として認められるようになれ、と言ってきた。
雅之は、自分の目指す生き方とは随分違うことをいうわたしに反発するでもなく、なんの屈託もなく接してきた。
カメラマンにしろ、写真家にしろ、必要不可欠な要素は、フレーミングのセンスと、ものを考える能力だと思う。問題なくかれはその双方を備えもっている。
だが少なくともわたしの前では、これまで写真作家になりたいという素振りを微塵も見せてこなかった。

普段かれはどんな写真をとっているのか。
名刺には「軍事フォトジャーナリスト」とある。かといって、戦争が好きなわけではない。
いままでに50カ国ぐらいはまわったと言っているが、戦地には行ったことがないという。
国内で自衛隊の機材、つまり装備の写真を撮り、そういった関係から信頼を得て、外国の軍でも撮影できるようになったのだ。
数多くの国の軍用の陸上車両、船舶、航空機などを撮影している。

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夕刊フジ 2023年10月13日発刊

FRIDAY 2023年10月13・20日合併号

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これらの軍用機材はいわゆる商品とは違って、採算やコストは度外視して開発し、生産される。性能が徹底的に優先されるのだ。とことん性能を追求していくと、道理としてできあがったものは合理的で美しくなる。それらの採算を度外視した、美しいものに魅力を感じ、雅之は写真を撮っている。
戦いを撮りたいわけではないのだ。戦争用に作られた陸海空の車両、船舶、航空機がかれの被写体だ。

昔、ある時期わたしは日本刀を撮っていたことがある。究極の刃物、日本刀はゾクゾクするほどに美しい。だから雅之がそれらの装備品を美しいと感じることは、わたしにはよく理解できる。
ただ非常に誤解されやすい。戦争用の道具だ。
だから、自分が撮った写真に添える文章は、自分で書いたほうがいい。自分の写真が興味本位で扱われることはできうる限り避けるべきだ。
この文のために雅之に会ったときに、かれが持参してきた雑誌、新聞などの文章は自分で書いたものだった。
かれは被写体が特異であるため、今までいろいろ厄介な思いをしてきたと思う。

かれの長女はもうすぐ大学卒業だ。その次の娘も大学に行かせる予定でいるという。
ちょっとここらで写真作家的要素を、人生に加えてみないか?

 

菊池雅之

軍事フォトジャーナリスト。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中。

X(Twitter):https://twitter.com/kimatype75

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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