【写真学校教師のひとりごと】vol.13 笹谷美佳について
わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。
これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。
▼前回【写真学校教師のひとりごと】
この笹谷美佳は、卒業と同時にわたしのアシスタントになってもらった。ものごとの理解度がはやく、さっぱりした性格だったからだ。
個展も一発で審査を通し、コニカプラザでやった。
当時コニカの担当者の秋山亮二氏がその写真を気に入って、タイトルも「歩く」とかれが率先して自らつけたほどだ。
その写真はタイトルのごとく、屋外を歩く人を撮ったものだ。
カメラを意識させないように、被写体からは少し離れて撮っていた。
その個人が誰であるか見分けがつくかどうか、という微妙な距離感で。
それがほっこりした感じで、みんないい感じにおさまっていた。そこら辺が笹谷の人間性と一致して、成功の一因になっていたと思う。
その後を大いに期待される写真のスタートだった。
だがこの後かの女は当然恋愛をし、結婚し、子供が生まれる。
当然家事と育児に時間をとられ、写真が思うように撮れなくなったのだろう、徐々にわたしへの連絡も間遠くなっていった。
2004年「歩く」 コニカミノルタプラザギャラリーB
その笹谷から随分久しぶりにメールがきた。つい先日のことだ。
「うちの近所を撮りました」と言って2葉の写真が添付されていた。普段なんの連絡もしてこないのに、突然である。
なんてことはない写真だ。だが、かの女の素直さやあたたかさは、昔とおなじように表れていた。
子供を2人産んで、年を重ねたが、かの女の優れた部分はそのまま写真に残っていた。
そういうことは年月がたつと、薄まったり、消えたりすることがよくあるけど、笹谷はそうなってはいなかった。
上の子が小学校の中学年になり、下の子も来年入学というところまで育てあげ、精神的に少々ゆとりもできたのだろうか。ふと、写真を撮ってみようと思ったのだという。
女性が結婚して写真から遠ざかると、以前個展をやったりして優秀だった人でも、前のように復活したという例は案外少ない。
家事や育児を相方のために喜んでやってくれる人といっしょにいなければ、これは不可能だ。
だが実際にはこういう男が非常に稀な存在である。
そして男が生きやすいシステムに世の中は徹底的にできあがっている。
写真をやりたい女性が結婚するときには、この部分を相方とよく話し合っておく必要があると思う。
いままでなん人ものすぐれた女性が学生として存在したが、そのほとんどが結婚して、わたしの目の前から姿を消していった。
写真と相手とを比較して、どちらが大切か、どちらかを切り捨てなければ、などという悩みをもつようにならないで欲しい。そういう考え方は、どこか間違っていると思う。これは教室で言い忘れた最も大事なことの一つだったと、いま現在考えている。
だからこそ笹谷からメールに添付された写真を受けとったときには、大変にうれしかったのだ。
以前はあたたかくほっこりした映像だったが、あれから年もとったのだ。もうひとつ何かほんのちょっとプラスしたことをやってみせて。
かつてのように、はげましたりして、いくらかの手助けができればいいのだが。
笹谷美佳
2001年 日本写真芸術専門学校 フォトアートコース卒業
2004年 個展 「歩く」(コニカミノルタプラザ)
2006年 アシスタントを経て独立
2006年 ヤングポートフォリオ展 清里フォトアートミュージアム
2008年 フジサンケイグループカレンダー
個展「Open Air Museum 」彫刻の森美術館
2009年 フォトテクニックデジタル 噂の女性写真家で子供の写真特集
2010年 世田谷区のママさんによる写真サークルの講師を担当
2011年 結婚
2012年 49th,メリーモナークフェスティバル撮影(ハワイ島)素敵なフラスタイル
国内だけでなく、ハワイ、韓国、タイ、シンガポールなど海外での仕事も多数経験
2013年 50thメリーモナークフェスティバル撮影(ハワイ島)素敵なフラスタイル
2016年 第一子出産
たまごクラブ『カメラマン ママになる』出産ドキュメンタリー特集に掲載される
2018年 彫刻の森美術館ポスター
2019年 第二子出産
彫刻の森美術館ポスター
2020年 コレクションガイドブック 彫刻の森美術館 美ヶ原高原美術館
2021年 Bamboo Leaf Photo立ち上げる https://www.blfamilyphoto.com/
菊池東太
1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。
著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか
個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか
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