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【写真家インタビュー】消波ブロックについて語るときに出水惠利子が語ること。 – 写真展「海とともに」開催記念

東京都・両国のピクトリコショップ&ギャラリーで開催された、日本写真芸術専門学校講師で写真家の出水惠利子さんによる写真展「海とともに」。テトラポッドに代表される「消波ブロック」の作品だけを集めた本展の開催を記念し、展示にかける想いや制作の経緯を聞きました(展示は6月15日(土)をもって終了しました)。

語り手/出水惠利子
聞き手・編集/編集部 佐藤

Q. まず今回、出水さんが「消波ブロック」をテーマに写真展を開いた経緯を教えてください。

学生時代に、先輩が三浦半島の突端で崖から落ちてしまって亡くなる事故があったんです。ゼミのOBたちがこぞって救出に向かったんですけれど、ご遺体が消波ブロックのすき間に入ってしまって回収できなくなってしまって。

消波ブロックがある場所というのは、「消波」が必要なエリアということですから、波が非常に強くなっている危険なところでもあります。その周囲や内部では波が複雑に入り乱れていて。救出が困難ですし、ご遺体もばらばらになってしまうんですよね。

消波ブロックの写真を通じて「水の美しさ」、そして「水の怖さ」を皆さんに知っていただけると、そういう水難事故を減らせるんじゃないかなと。昔から海が好きでしたし、せっかく海も川もあるこの日本に生まれたんだし、そういうことを写真を通じて伝えていけたら。

……という想いが心の底にはあるんですけど、消波ブロックに対してはいろんな考え方がありますので、表立って言うことは控えています。だから今回の展示では「推し活」って申し上げてるんですけど(笑)。

Q. 消波ブロックの「推し活」ですか?

ディズニーランドでミッキーに会えて楽しい、っていうのと同じ感覚(笑)。

元々「消波ブロックってかっこいいな」っていうのがあって。ブロックがないと波にさらわれて砂浜が流出してしまうので、「国土を守る」という大事な仕事をしてくれているところとか。かたちもカッコよくて好きです。消波ブロックって全部で89種類くらいあるんですが、私のイチ推しは定番の「テトラポッド」ですね。

※編集者注:「テトラポッド」は消波ブロックの商品名のひとつ。株式会社不動テトラが製作している。

でも景観の観点から、消波ブロックがあると嫌だなと感じる人もいます。実際に日本でも、静岡県の三保松原などで消波ブロックに反対する動きもありました。

あとは、自分を消波ブロックに重ねてる部分もあるかもしれません。毎日波に打たれながらも、じっと何もせず、形も変えずに耐えているその姿に。特にカメラマンとしての修行時代は、人並みにつらい時期もありましたので。

Q. 今回の展示にあたって、消波ブロックの製作会社に取材までしたそうですね。

テトラポッドを作っている株式会社不動テトラさんに、HPのお問合せフォームから「取材させてください」って直接申し込みました。自分の肩書きや実績を書いて自己紹介したうえで、ライフワークとして消波ブロックを撮ってますというお話を書かせていただいて。

最初は「公共事業のためご回答は控えさせてください」というお返事だったんですけど、質問状をお送りしたら、結構細かく丁寧に対応してくださいました。この展示の告知も、会社HPに載せてくださったんですよ! 初日にはこの展示にも来てくださって、有田焼のテトラポッドをプレゼントしていただきました。

株式会社不動テトラから贈呈された、有田焼のテトラポッドオブジェ

それから日本消波根固ブロック協会様も紹介していただいて。消波ブロック関連の15社からなる一般社団法人です。その協会様にも、業界内外の近況などさまざまなお話を伺い、大変勉強になりました。

今回の展示を開くにあたっては、本当にたくさんの方にご協力いただきました。真摯に活動してれば、周囲の方々が助けてくださるものなのだなと実感しました。とても感謝しております。

Q. 出水さんは商業カメラマンとして活躍されていますが、現在のキャリアを築くまでの経緯を教えてください。

幼稚園からずっと水泳をやっていて、元々は水中カメラマンになりたかったんです。たとえばJTBの広告のような観光写真がやりたかったので、観光写真学科に通っていたんですよ。

でも私、三半規管がちょっと悪くてですね。耳の中に海水が入ってしまうと、塩が1ヶ月ぐらいジャリジャリ出てくるんですよ。塩害で耳が壊れてっちゃうっていうのがあって。お医者様いわく、治す手術はあるそうなんですが、生まれつきのケロイド体質で傷が治りにくいため、その手術も困難でした。そうするとこれ以上海には潜れないので、水中カメラマンの道は諦めざるを得なかったんです。

学生時代は毎週毎週海に潜ってダイビングの経験・水中写真の経験を積んでいたんですけど、卒業とともに水中写真は諦めて商業写真の道に行ったんです。元々商業カメラマンとして生きていきたいというのは念頭にありましたから、スタジオのライティングなど水中写真以外の技術も泣きながら(笑)、覚えていきました。ただそれもやってみると面白くて、だんだん好きになっていきました。

Q. 撮影のスタイルやこだわりも教えてください。

消波ブロックに関しては、可愛い「推し」を撮っているわけですから、最大限魅力的に撮ってあげたいという気持ちがあります。

そのためにも、技術的なことは絶対的に考えますね。特に夏の海は、昼間に普通に撮ると白飛びしちゃうので、入射角・反射角を計算したり、PLフィルター(偏光フィルター)を活用したりといったことは不可欠です。また逆光が強すぎるとシャドウの部分が潰れて見えなくなっちゃうので、きれいに撮るためにストロボを炊くこともあります。

こういうことは現場に行ってみるまでわからないので、フィルターワークやストロボの準備は必ずして行きます。普段はスタジオでのライティングが多いので、太陽を動かせないのがちょっとイラッとしますけどね(笑)。

カメラワークも全て頭の中で計算したうえでシャッターを切ります。やみくもに撮るということはまずないですね。

先日、知人とも話してたんですが、カメラマンは風景を見たときに、アニメとかによくある「グラス型デバイス」みたいのが目の前にパッて出てくるよねって(笑)。実際の風景と、撮りたい風景。2つの世界が重なって見えるような感じ。その瞬間に、レンズは何ミリで、広角で、絞りはいくつで……、といったことが頭の中でパパッと決まっていくんです。

Q. 撮影には、ご友人と旅行がてら行くことも多いそうですね。

旅行中、私が送り迎えの運転手をやってあげる代わりに、撮影用の別行動の時間をもらうパターンが多いです。これを私は「放し飼い」って言ってるんですけど(笑)。その間に彼らはパンケーキ食べたりアイスクリーム食べたりしてますね。

Q. 撮影に時間がかかった作品はありますか?

たとえばこの作品(下写真)は、昼間からいて、夕暮れになるまでずっと待って撮りました。富士山を見ながら黄昏れてるこの子たち(消波ブロック)を撮りたかったので。

Q. 本展示に対する想いを教えてください。

今回のこの展示、審査が能登の震災直後だったんです。津波で海の怖さを再認識した方も多いと思いますし、そういう方々の心を傷つけてしまうかもしれないという不安もありました。ただでさえ3.11もありましたので、海の展示に関してはこの十数年悩んできた経緯もあります。ここに並んでる写真はだいたい20年ほど前から撮り溜めてきたものたちです。

私自身、母が石巻出身なんですね。その母の親戚も亡くなってますし、母の友人も亡くなっている。だから水害の当事者として「そっとしといてくれ」という気持ちがあるのもわかる。好きだからこそ見せたい気持ちもあるけど、一方でちょっと見せたくないっていう気持ちもあったんです。

でも今回のシリーズ展のテーマがSDGsだったということもあり、この機会を逃したら多分見ていただける機会っていうのはないだろうなという思いもあったので、展示に踏み切ることにしました。

Q. 海のSDGsについても関心があったのですか?

ここ数年での海外の海の汚さを、映像で観た時からです。皆さんもどこかで観たことがあると思いますが、水面が全部ゴミだらけの映像……。あれを見たとき、驚愕して「怖っ」て思ったんですよ。こんな事ってあるんだ! こうなってほしくない! って。

きれいなビーチとして有名なとある島に行ったときも、ちょっと奥まったところにゴミ袋の山がいっぱい積んであるのを見かけたことがあって。その合間にもペットボトルとかがたくさん捨てられていました。

リゾート開発が進んでいるところならマンパワーで綺麗にされているんですけれど、人里離れた穴場的なビーチのほうがむしろ、タバコの吸い殻がそのままだったり、お酒の空き缶が置きっぱなしだったり、焼きそばのトレイが捨ててあったり……ということがあります。

Q. 今後、海のゴミ問題を扱った写真も発表していく予定はあるのでしょうか?

一応、写真を撮り溜めてはいます。でも発表していくとなると、まだちょっと勉強が足りないかなと思っています。なぜかというと、そのフィールドで対等に話すためには、こっちもそれだけの用意をしないと言い負かされちゃうので。

それに若い時はファイティングも嫌いじゃなかったけれど、最近は「それってどうなんだろうな?争うことで解決するのかな?」という思いもあります。地球全体で見ても、年々、争いが増えてますよね。だから争う前に、まずは目の前のゴミを拾うことが大事なんじゃないかと。

そういう思いもあって、今回はそれほどドキュメンタリー寄りでない「綺麗な」写真を集めました。みんながちょっと幸せになるためのひとつの道筋として、少しずつ気づいてってくれればいいと思ってます。

Profile/出水惠利子
東京都出身。根本タケシ氏に師事し、2001年よりフリーランス。
商品、ポートレート、建築と多岐にわたるジャンルの商業写真撮影をする傍ら、海の風景撮影をライフワークとしている。
公益社団法人 日本写真協会会員/公益社団法人 日本広告写真家協会会員
日本写真芸術専門学校講師
キヤノンEOS学園東京校講師/キヤノンフォトクラブ東京DEMI顧問
2018 「写真の日」記念写真展2018 選考委員
2022 PSJ後援 東京都主催「第1回無電柱化の日」フォトコンテスト審査員

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