【写真学校教師のひとりごと】vol.14 篠田美穂について
わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。
これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。
▼前回【写真学校教師のひとりごと】
いまとちがって女の写真家志望が稀な時代だ。
30年ぐらい前のことである。
いろいろ聞いていくと、父親が女性週刊誌のカメラマンだ。わたしも、かつては雑誌社のカメラマンをやっており、フリーになってからも週刊誌の仕事をやっていたので、篠田氏の噂は耳にしていた。かれは業界ではそれなりに知られた存在だった。
少々気になっていたので、最近篠田美穂に会って聞いてみたら、父親は娘の写真について、ほとんど口をはさまなかった、ということだった。
かの女の2作目の写真展のオープニング・パーティのときのことだ。
父親がコカ・コーラのロゴ・マークの入った大きな重そうなアイスボックスを嬉しそうに、会場に運び込んでいる姿を見、喜んでいることがうかがえ、心からほっとしたことをおぼえている。
1995年「私の家は、ダンボール」 コニカプラザ
1996年「私のお家は河川敷」 銀座NikonSalon
篠田美穂は新宿の地下道に住んでいるホームレスを撮ってデビューした。(コニカプラザ)
女がこんな過激なテーマで、とは思わなかった。
わたしがアメリカ・インディアンを撮っていたからなのだろうか、ごく自然に受けいれることができた。
父親も特に異論ははさまなかったようだ。
ただ、気をつけろとだけはいっていたらしい。
この点についてはなぜかわたしには確信に近い、大丈夫という感じがあった。
それは一見、かの女の竹を割ったような性格と決断力の早さと行動力が信じられたからである。
2作目は多摩川の河川敷に住む人たちを撮ってニコンサロンで個展を開き、写真集をだした。
この間隔は約1年。実にスムーズだ。
1作目、私の家は、ダンボール。
2作目、私のお家は河川敷。
このあと3作、4作と、とんとんといくだろうと考えるのは周囲の勝手な考えだ。
篠田も人間だ。恋愛をして子供が2人できた。
現在では上の子は大学に進み、次の子も来年大学入学の予定だという。
どうやら無事子供を育て、亭主も普通に仕事をこなし、ひさびさにかの女にも、人生を自分自身のために使えるときがやってきたようだ。
最近わたしはこの記事を書くため、篠田に会った。
そのときかの女はわたしに言った。
「わたしは写真をやめたとは言ってない」
そしてこのとき、今撮りたいものについて説明してくれた。
面白い。だが、大変に難しいテーマである。が、間違いなく面白い。
かの女はその難しさを理解していた。
本人がそれを自覚していることによって、これは実行され実現すると、わたしは思うに至った。
つまり残りの人生をこれにかけるだろうと想像できた。確実に面白いテーマだから。
とにかく、かの女はわたしのゼミでは、女性で初めて個展を開いた存在だ。
今は、篠田にとって第2幕が開いたところだ。
1、2作と、現代では珍しいストレートなドキュメンタリー写真でやってきた篠田美穂は、次は何をターゲットに挑んでくるのか、楽しみに待つことにする。
篠田美穂
1973年 東京生まれ
1994年 日本写真芸術専門学校卒業
個展
1995年 ―シリーズ―新しい写真家登場「私の家(うち)は、ダンボール」(コニカプラザ)
1996年 「私のお家(うち)は河川敷」 (銀座ニコンサロン)
写真集
1996年 「HOME―新宿・六郷土手」(ユナイト写真工房)
菊池東太
1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。
著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか
個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか
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