デザイン学⽣ V S 写真学⽣

皆さんこんにちは!PicoN!学生編集部の畑中です。今回の記事は、日本デザイナー学院(NDS)と日本写真芸術専門学校(NPI)の学生によるコラボ企画です!

NDSとNPIの学生がそれぞれ共通のテーマと条件の元で作品を制作しました。デザインと写真という異なる分野を学習する学生たちの作品にはどのような差が生まれるでしょうか?

作品のテーマは『緊張と解放』です。

①知的であること。社会との接点を意識し、上品かつ美しい表現であること。
②写真をベースとして作品を作ること。
③サイズは縦横比1:1の正方形とすること。

条件は、上記の3つを満たせばなんでもアリ!

このテーマは、NDSの「デザインリテラシー」という授業で実際に課題として出されたものです。この授業を担当されている齋藤浩先生にお話を伺ったところ、このテーマの1番の面白いところは、「緊張と解放」という言葉をどう解釈するか、それぞれの解釈の多様性がある点だと仰っていました。

齋藤浩先生に作品の講評も行っていただきました。その際に頂いたアドバイスを交えながら、制作した作品を見ていきましょう!

NDS グラフィックデザイン科 1年:山崎美結

広告・ポスター制作、ロゴ制作、雑誌編集、Illustrator・Photoshop・InDesignの操作の仕方、デッサン等を学んでいる。

私が緊張と解放から思いついたのは「ネクタイ」です。
面接や大事な会議の前など、気持ちを引き締めなければいけない場面でネクタイを締める。仕事ひと段落したり、リラックスする場面でネクタイを緩める。そんな場面が緊張と解放を表していると考えました。
ネクタイの結び目の部分に手を置くことで、締めると緩めるのどちらも伝えられるのではないかと思い、撮影しました。

良かった点

「緊張と解放」という言葉をワンシーンで切り取れないかと考えた戦略はアリ!この作品の面白い点は、シャツの折り目まで鮮明に解像されているところです。皮膚のシワとシャツの折り目との対比が面白い!日常のワンシーンからから回答を得て作品制作を行なった点も良かったです。

改善すべき点

この作品は日常すぎますね。人々が振り向く瞬間は、「日常における非日常」か「非日常における日常」の2種だと思います。しかしこの作品は「日常における日常」の作品となってしまっています。当たり障りが無く、どんなシーンにも使うことができるフリーフォト(素材写真)のようになってしまいました。

この問題点を改善するためには、この主人公の設定をもっと深く考えましょう。彼はどんな職業なのか?たとえば彼が殺し屋だったら?ネクタイを緩めることの意味も変わってきます。このシーンは何をした後の緊張と解放だったのでしょうか?そこを考えて撮影をすると、作品がもっと深くなります。作品作りは設定が命です!

NPI 総合写真研究ゼミ 1年:本田愛惠

1年次ではスタジオライティング、プリント作業、レタッチ作業、写真表現、現代写真論等を学ぶ。

緊張と解放というテーマの中で私は思いついたのが「⽣きる」です。作品は⾃⾝の写真を⼟台に何枚かの写真を貼っています。私がこの写真で伝えたいことは、⽣きているだけで⼈は常に何かに緊張していると⾔うこと。例えば外に出ること、学校⽣活、家の⽣活。本⼈が緊張していなくても無意識に緊張を持っている。逆にこの緊張から解放されるにはこの世から去ることだと考えました。

良かった点

「緊張と解放」という言葉を自分なりに解釈して、別の言葉で再定義した点はよかったです!「緊張と解放」を「生きる」と言い切った点に対するポイントはすごく高いです。ぜひ皆さんも真似をしてみてください!

改善すべき点

「解放された疎の瞬間」と「緊張した密の瞬間」の対比を、作品の中でもっと表せると良かったです。そのためには、構成要素の中に対比をつけましょう。この作品の写真は密度が粗い、疎と密の疎の写真が多いです。たとえば、満員電車にぎゅうぎゅう詰めになっている人々、果物や野菜がかごに詰まっている様子などの写真があると良かったでしょう。また、左上に1枚だけ斜めの写真がありますが、配置をもっと計算しましょう。思いつきでこの配置になったとのことですが、そこに意味を感じてしまいます。

また、今回の課題は正方形でした。次からは規定はしっかりと守るようにしましょう。これはプロにとっては重大な過ちです。皆さんも気をつけましょう!

NPI 総合写真研究ゼミ 1年:畑中佑太

1年次ではスタジオライティング、プリント作業、レタッチ作業、写真表現、現代写真論、ウェブデザイン等を学ぶ。

僕は“死ぬ瞬間”が緊張と解放が最も⾊濃く現れる場⾯だと考えました。その⽐喩表現として、包丁が⾃分に落ちてくる瞬間を作品としました。死ぬことに対する恐怖は誰しもが持っているのではないだろうか。その死の瞬間が⽬前まで迫ってきた時、それは最も緊張する瞬間ではないだろうか。しかしいざ死の瞬間を迎えたら、この世界から解放される。もう何もしなくていい。何も考えなくていい。ようやく楽になれるのだ。そんな緊張と解放がせめぎ合う⼀瞬の様⼦を表現しました。

良かった点

「“死ぬ瞬間”が緊張と解放が最も⾊濃く現れる場⾯」という言葉で大笑い!確かにその通りですね。その解釈が面白いです。インパクトがありとても怖い場面ですが、コミカルな作品に仕上がっています。

改善すべき点

山崎さんの作品と同じで、何かの例えとして使いやすい写真です。なぜ包丁なのか?なぜ服が黒いのか?主人公は何の象徴なのか?見た目の設計は良かったですが、この作品の裏にある設定をもっと考えると良かったです。また、Photoshopのフィルターをそのまま使うのは良くないです。包丁をPhotoshopの“ぼかし・移動”の機能を使ってブラしていますが、包丁は上から下に落下しているので実際にはこのようなブレ方はしません。包丁の先にだけピントが合っていて、ブレていなければ良かったと思います。作品にオリジナリティーを出すにはどうすべきかをもっと考えると良かったでしょう!

NDS 総合デザイン科グラフィックデザイン専攻 1年:寺田雛

広告の制作、本の装丁、基本的なパソコン操作、コピーライティング(キャッチコピーなど)、CMコンテ、デッサン 等を学ぶ。

テーマは、「今日」です。朝起きて、新しい場所へ行くときの良い緊張感とワクワクする気持ち。家に帰ってきたときの安堵感。
1 日の流れで感じる緊張と解放を表現するために「足」を、メインビジュアルとして制作しました。

良かった点

やるなぁ!この作品は良いと思いました。背景や色を変えていて、1日の流れがリズミカルに表現できていた点が特に良かったです。また、作品を通して土やアスファルトの匂いを感じる点、靴が程よく汚い点なども良い点です。

改善すべき点

1日の流れを表すなら、もっと演出しても良かったです。1日を通じて光源が同じですね。同じ方向から光を当てて良かったのでしょうか?また細かい話になりますが、靴の白が若干飛んでいる点はもったいなかったです。

 

齋藤浩先生からの総評

今回の課題に取り組んだ4人の学生は、この課題の面白がり方をわかっていました。「緊張と解放」という言葉をどう解釈するか?というところに面白さがあった今回の課題でしたが、4人がそれぞれ違う解釈をしている点が良かったです!幅の広い作品が出てきたことが面白い!

〈学生からの質問〉先生だったら今回の課題にどのように取り組みますか?

伝えたいことを伝えるために、何かしらの制限をつけます。その方が考えやすいと思います。たとえばモノクロにするとか?また、正方形だからCDやレコードのジャケットをイメージするのはどうでしょうか?好きなアーティストの「緊張と解放」というアルバムがあったら、果たしてどんなジャケットになるのか?このように考えるとアイディアが展開しやすくなりますね。

まとめ

僕はNDSの学生とNPIの学生の間で、表現にどのような差が生まれるのかと考えていました。しかし今回の企画を通じて、両校の生徒の間にあまり違いがないことが分かりました。齋藤先生もパッと作品を見ただけでは、どちらの学生が作ったものなのか分からなかったと仰っていました。それは、お互いの分野がいい意味で影響しあっているということでしょう。きっとそれは、根源にあるものが同じだからでしょうか?

写真だから、デザインだからと決めつけずに、これからも色々なジャンルの芸術に触れ、分野の垣根を超えた作品制作をしていきたいと思います!デザインと写真の両方を身近に感じることができる。これが本校の良さなのですから・・・。

PicoN!学生編集部のみなさん、作品制作お疲れ様でした!そして齋藤先生、親身になって企画に参加してくださり本当にありがとうございました!!今回の企画、とっても楽しかったです。またいつかこのメンバーで作品作りに挑戦したいと考えていますので、お楽しみに〜!

 

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