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Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー vol.23

学校法人呉学園 日本写真芸術専門学校には、180日間でアジアを巡る海外フィールドワークを実施する、世界で唯一のカリキュラムを持つ「フォトフィールドワークゼミ」があります。 「少数民族」「貧困」「近代都市」「ポートレート」「アジアの子供たち」「壮大な自然」、、 《Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー》では、多様な文化があふれるアジアの国々で、それぞれのテーマを持って旅をしてきた卒業生に、思い出に残るエピソードを伺い、紹介していきます。 象の頭 群衆の主 PFWゼミ9期生 本田 直之 この日は2014年9月8日、中秋の名月だった。10年近く経とうとする今この文章を書いているが、満月の日には遠い国の彼らを今でも思い出す。 定宿にしていたパハールガンジからは東の方向へ歩いていた。はじめて踏み入れた裏通りのひっそりとした道で、若い男が言う。 「マイフレンド、写真撮ってくれないか?」 インド旅行では数え切れないほど頻繁に発生するコミュニケーションで、男の隣には産まれて間もない子を抱く妻がいる。どうやら家族写真を撮ってほしいようで、若い夫婦がこれから築いていく明るい未来を思いながらシャッターを切った。 彼らの不思議なところは、撮影した写真が欲しいというのはほんの一部だけで、多くは撮ってもらったことに誇らしそうであったり、恥じらいを滲ませながらも満足そうにしていることだった。 この男も同様で、ディスプレイで写真を確認するとお気に召していただけたようだった。彼らの顔や衣服に付いていた見慣れない何かに引っ掛かりながらも、再び歩き始めた。大通りが近づいてくると、何事かけたたましい太鼓の音がまとまりを持たないまま大きくなってくる。目に飛び込んできたのは、狂乱だった。山車を曳く牛、赤や黄に染まった人々、色のついた粉塵が視界のあちこちで風に流れ、なにやらトラックに積んだスピーカーからの爆音に身体を揺らし、渋滞の合間を縫って踊り狂う。荷台には、許容を遥かに超えた人がこれでもかと詰め込まれていて、後続のトラックも同じように人で溢れていた。 目を疑うような光景が不意に立ち現れたとき、そうかここはインドだと、脳が処理できるまでどれくらいだっただろうか、立ち尽くした。 リズミカルな太鼓や人々の表情からは、ポジティブなエネルギーが発せられていて、楽しい催しであることはすぐに分かった。同じトラックに乗り合わせているグループの多くは家族やご近所、友人の集まりのようで地域単位でひとつのトラックや山車に乗り、ここまで運ばれてきたようだ。一体、目の前で繰り広げられるこの光景はなんだというのか。彼らはどこに辿り着くべく、この渋滞をつくるのか。 「ガンパティ*!チャトルティ!」「ガンパティ!ガネーシュ!!」「ガネーシュチャトルティ!!バースデー!」 目が合った彼らに尋ねると、日本人にも聞き馴染みのある神様、象の頭をしたガネーシャ神の生誕を祝うものだと分かった。どうやらガネーシャの呼び名はいくつかあるようで、この日最も多く聞いたのはガンパティという呼び名だった。 人を詰め込んだ荷台の一番奥に、ガネーシャがいた。大人よりも少し小さいか、少し大きいくらいのガネーシャ像がそれぞれの山車やトラックに、いかにも大切そうに鎮座させられている。歩いても着いていけそうな速さではあるが、まとまりを持たないまま大きさを増していくその群れに飲み込まれてみようと思った。 人口1300万を超えるデリーには当然のように様々な地域があり、各地からガネーシャを運んでくる彼らにはそれぞれの習わしがあるようだった。赤は血、黄色は尿、緑は田畑を表すという色粉を掛け合っては盛り上がりを増すトラックもあれば、比較的大人しく色を纏ったコミュニティもあり、カメラを持っていては選択肢は自ずと後者のみだった。 「君たち目立っていてとてもクールだね、乗せてもらえない?」 「ウェルカム!ウェルカムトゥインディア!ダンシング!ライクディス!」 大雑把に黄色で統一された彼らは、突然乗り込んできた東洋人に臆することもなく、狭い荷台で踊り迎えてくれる懐の深さを持っていた。自分と歳の近い若者も多く、男性だけのクルーだったことも影響してか、日本に彼女はいるのか、俺の彼女を見てくれ、など一通りの挨拶や自己紹介も済ませると、次第に居心地が良くなってきた。 この日は月曜日で、肌の深部を刺す太陽が傾いてきていた。渋滞に巻き込まれながらも溢れるエネルギーを前にして微笑みながら写真を撮るビジネスマンや、眉間に皺をつくった迷惑そうな大人など様々で、ガネーシャを担ぎあげた男達がその渋滞を縫うように流れ込んでくる様相はあまりにも不秩序で、無意識的に累積してきた常識の観念を押し広げてくれる光景だった。 一帯がガネーシャチャトルティの熱気だけに包まれた頃、どこかに到着した。それぞれが荷台からガネーシャ像を下ろし、数人で抱えて歩き始める。人混みのおかげで近付くまで見えなかった川が目の前に現れた。対岸はすぐそこのように見える。先をいくガネーシャ像たちがその川の中へ流され、沈んでいく様子が見えたときにようやく一連の終わりを理解した。 神様を送り出す最後に向けてヒートアップする太鼓隊に続き、黄色いクルーの我々も最高の音と踊りで辺りをいっぱいにする。直前には改めて祈りを捧げる時間があった。生活に根ざした彼らの敬虔な神事ということが感覚として分かり、その信仰心が胸を衝いた。 ガネーシャチャトルティは、8月末または9月初めの新月の日から4日目を皮切りに、満月までのおよそ10日間に渡って行われる。最終日には昼間から地域を練り歩き、人々が大きな祈りを捧げる中、ガネーシャは海や川へ帰っていく。その場にいる人の罪や障壁、病や悪運などをすべて持っていってくださると信じられている。 何体のガネーシャ神を見送っただろうか。気が付けば川岸から溢れていた人の波も散り散りになり、辺りはインドの怪しげな夜がいつものように始まりつつあった。パハールガンジの宿に戻ると、頭から足の先まで見事に赤く染まった自分が踊り場の全身鏡に映った。現実としての感触がようやく体内を駆け巡り、無事に帰ってきた安堵と、押し寄せてきた疲労を感じながらあの渦中にいた経験を噛み締めた。 ---------------------------------------------------------------------------------- *ガネーシャ(गणेश, gaṇeśa)は、ヒンドゥー教の神の一柱。その名はサンスクリットで「群衆(ガナ)の主(イーシャ)」を意味する。同じ意味でガナパティ(गणपित, gaṇapati)とも呼ばれる。また現代ヒンディー語では短母音の/a/が落ち、同じデーヴァナーガリー綴りでもガネーシュ、ガンパティ(ガンパチ)などと発音される。 ▼フォトフィールドワークゼミ 旅のブログサイト [clink url="https://pfw.npi.ac.jp/"]   ↓PicoN!アプリインストールはこちら

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写真

SNS運用のヒントになるかも!?オススメイラストレータのXアカウントをご紹介♪

皆さん、充実したクリエイティブライフを 送っていますか? さて今回は、イラスト好きな私がオススメするイラストレーター・漫画家さんのXアカウントをご紹介します! イラストオタクとして15年余りの私が、今オススメしたいプロのアカウントはこちらです♪アカウントの運営や特徴もある方々ですので、SNSの運用に悩んでいるクリエイターの方はご参考にされてはいかがでしょうか? 01.しぐれうい @ui_shig まずご紹介するのは、VTuberとしても大活躍のイラストレーター「しぐれうい」さんのアカウントです。イラストだけでなく、マルチな才能で活躍している様子がわかる運用をされています。イラストレーターの枠に収まらない活躍をご覧ください!   02.博 @siiteiebahiro 2人目にご紹介するのは、漫画家でもある「博」さんのアカウント。アニメ化も行われた「明日ちゃんのセーラー服」はストーリーの面白さだけではなく、とにかく繊細で躍動感のある描写が素敵な作品です。もちろん、私は原作・アニメBlu-ray全て揃っています。時折投稿されるイラストは必見です。   03.渡辺潤 @Junwatanabe1968 次にご紹介するのは、漫画家の渡辺潤さん。連載中の漫画「ゴールデン・ガイ」は、ド直球のアウトロー漫画ですが...。先生の投稿を見ていると、いわゆる萌え系のキャラクターのイラストもチラホラとあります。実はこれ、各キャラクターの優れている点などのコメントも添えて先生が描かれたイラストなんです。大御所の先生が大真面目に萌えを研究している姿に、萌えを感じることができる貴重なアカウントです。   04.ちいかわ(作者:ナガノ) @ngnchiikawa 作品アカウントですが、これはひとまず抑えとくべきでしょう!というアカウント。大人気になり、広い世代でバズった「ちいかわ」のアカウントです。最近はアニメのリポストも多めですが、作品画像だけでバズりまくる力は本物です。作品の面白さで勝負したい方は、ぜひ参考にされてください!   05.藤ちょこ @fuzichoco 最後にご紹介するのは、Xのフォロワー数もイラストレーターで上位の数を誇る藤ちょこさんのアカウントです。作品やお仕事については私が語るまでもないのですね。ただ、皆さんに見ていただきたいのは、このアカウントの運用です。作者自身の声を伝える投稿も交えながら、作品やお仕事の投稿も抜け漏れなく行っており、とてもバランスよく運用がされている点。そして、燃え上がりそうな投稿を全く行わない点など。SNSをどうやって運用しようか悩んでいる方は、一度ご覧いただきたいです!   以上、今回は5名のクリエイターのXアカウントをご紹介しました。もちろん、皆さんが大好きな作家さんもいると思いますので、色々な方のアカウントを見ながら、ご自身のSNS運用を考えて見てくださいね。   もし、私に会う機会があれば、皆さんがオススメしたいイラストレーターさんのアカウントをご紹介いただけると助かります。そもそもSNSは楽しい交流の場でもありますので、ぜひ皆さんも楽しみながら、自分の作品を世界に届けてくださいね。 PicoN!編集部:九州校 佐藤 ↓PicoN!アプリインストールはこちら

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デザイン

クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.26〉―『菊地成孔還暦フェア』

おはようございます。こんにちは。こんばんわ。 新生活をスタートされた方も多いかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか? 今年は全国的に桜の開花が入学・入社式と時期が重なりイイ感じでした。 勝手ながら皆様の新生活が素晴らしいものになることを祈念しております。 唐突ですが4月って様々なフェアが開催されてませんか? 新生活応援フェア、春の○○フェア、春のわくわくCPとか… 年度始めをいいことに様々な企業がフェアしています。 ちなみにどうでもいい情報ですが 日本のフェア界で一番の知名度があると思われる 山崎春のパン祭りは2月から開催されており、 寒い時期から開催されています。 さて日本の音楽業界では昨年から今年にかけて ひっそりフェアが開催されていたのをご存じでしょうか? それは「菊地成孔還暦フェア」です。 なにそれ?でしょ笑 菊地成孔を知っている人も知らない人も謎な 「菊地成孔還暦フェア」にまつわる音楽をご紹介。 そもそも菊地成孔って? 菊地成孔(きくちせいこうでなく、きくちなるよしと読みます)は 千葉県出身、新宿在住のジャズミュージシャン、作詞家、作曲家、DJ、 ラッパー、音楽講師、文筆家…など多彩な活動を行っています。 1984年にTHE FIFTH DIMENSIONのバックでサックス奏者としてデビュー。 その後、山下洋輔の弟子としてグループに参加、ティポグラフィカ、 グラウンドゼロなどのバンドに参加。 菊地成孔個人としての活動のみならず、 菊地成孔ダブ・セクステット 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール DCPRG(DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN) などのバンドの主宰&リーダーを務める。 またスパンクハッピーというユニット、 大谷能生とのJAZZDOMMUNISTERSというHIPHOPグループでも活動。 経歴の一部を並べるだけでも紙幅をとるだけでなく 上記であげたバンドは様々なジャンルかつ先進性をもっており 作品のクオンティティとクオリティ双方を兼ね備える 鬼才とよべる人物である。 「菊地成孔還暦フェア2023」 昨年の6月14日に還暦を迎えられた菊池成孔さんは 自身のブログ内で自身の誕生日を祝いつつ 「菊地成孔還暦フェア」と銘打って 過去作のサブスク解禁や新作のリリースを告知! (いや~フェアって結局販促手法なんですよねw) 2023年時のフェアでのオススメは↓↓↓ https://youtu.be/It-x5OVx9iQ?si=pPVn_eSAXBUfSdD9 元SIMLABのメンバーでラッパーのQNと N/Kこと菊地成孔で組成されたQ/N/Kから アルバムがリリース。 その中でのHennry KをFeatした作品。 https://youtu.be/jf7ssWWCbhU?si=bo7wQJW7EuIzs6NR ハウス・テクノポップの楽曲をリップシンクで踊るだけという パフォーマンスで当時熱狂的な人気があった 菊地成孔と岩澤瞳によるユニット第二期SPANKHAPPY ここまでジャズミュージシャンらしい曲はありませんねw 菊地成孔還暦フェア最終段階 2024年に自身のブログで60.5歳になることを祝し 還暦フェア最終段階と銘打った菊地成孔(何それw) 年始に彼の主戦場であるジャズの作品群をサブスクで解禁 彼の代表作から2作品を紹介。 『DEGUSTATION A JAZZ AUTHENTIQUE/BLEUE』 菊地成孔のファーストソロアルバム。 料理のフルコースのようであり、 一曲一曲を味わえるようにダウンサイジングした クールジャズ。もちろん一筋縄では行かない https://youtu.be/96cb8FdbG68?si=MgIsuSssbUdyFCBq 『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』 菊地成孔(Sax)と類家心平(Tr)坪口昌恭(pf)を中心に 鈴木正人(bs)、本田珠也(dr)で編成。 パードン木村(effects&electro)がライブ演奏中の曲を リアルタイムでダブ処理をかけるというバンド 菊地成孔ダブ・セクステット。 07年に作られた本作はマイルス・デイビスをベースに オーネット・コールマン、エリック・ドルフィーを引用しつつ アブストラクトかつファンキーでいまだにフレッシュである。 https://youtu.be/DYAWk0ZMGW8?si=OIOYnhBiYOzNrzBP https://youtu.be/pdh66f-bB3s?si=a57iFaNjwoVkPwSv https://youtu.be/vYINFQVb4Vs?si=YQN_etFk_oT3GX3V なお、4月10日に12年ぶりに本バンドがリユニオン!! ビルボードでライブを行いました。 もちろん未だに新しく最高でした!! 1年がかりの「菊地成孔還暦フェア」は プロモーションではありますが、 過去作が手軽に聞けるようになり、非常に嬉しい次第です。 菊地成孔を知っていた方もそうでない方も 膨大な作品群のなかから新生活をワクワクさせるような 彼の作品を聴いてみては如何でしょうか? 文・写真 北米のエボ・テイラー ↓PicoN!アプリインストールはこちら

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アート

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Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー vol.23

学校法人呉学園 日本写真芸術専門学校には、180日間でアジアを巡る海外フィールドワークを実施する、世界で唯一のカリキュラムを持つ「フォトフィールドワークゼミ」があります。 「少数民族」「貧困」「近代都市」「ポートレート」「アジアの子供たち」「壮大な自然」、、 《Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー》では、多様な文化があふれるアジアの国々で、それぞれのテーマを持って旅をしてきた卒業生に、思い出に残るエピソードを伺い、紹介していきます。 象の頭 群衆の主 PFWゼミ9期生 本田 直之 この日は2014年9月8日、中秋の名月だった。10年近く経とうとする今この文章を書いているが、満月の日には遠い国の彼らを今でも思い出す。 定宿にしていたパハールガンジからは東の方向へ歩いていた。はじめて踏み入れた裏通りのひっそりとした道で、若い男が言う。 「マイフレンド、写真撮ってくれないか?」 インド旅行では数え切れないほど頻繁に発生するコミュニケーションで、男の隣には産まれて間もない子を抱く妻がいる。どうやら家族写真を撮ってほしいようで、若い夫婦がこれから築いていく明るい未来を思いながらシャッターを切った。 彼らの不思議なところは、撮影した写真が欲しいというのはほんの一部だけで、多くは撮ってもらったことに誇らしそうであったり、恥じらいを滲ませながらも満足そうにしていることだった。 この男も同様で、ディスプレイで写真を確認するとお気に召していただけたようだった。彼らの顔や衣服に付いていた見慣れない何かに引っ掛かりながらも、再び歩き始めた。大通りが近づいてくると、何事かけたたましい太鼓の音がまとまりを持たないまま大きくなってくる。目に飛び込んできたのは、狂乱だった。山車を曳く牛、赤や黄に染まった人々、色のついた粉塵が視界のあちこちで風に流れ、なにやらトラックに積んだスピーカーからの爆音に身体を揺らし、渋滞の合間を縫って踊り狂う。荷台には、許容を遥かに超えた人がこれでもかと詰め込まれていて、後続のトラックも同じように人で溢れていた。 目を疑うような光景が不意に立ち現れたとき、そうかここはインドだと、脳が処理できるまでどれくらいだっただろうか、立ち尽くした。 リズミカルな太鼓や人々の表情からは、ポジティブなエネルギーが発せられていて、楽しい催しであることはすぐに分かった。同じトラックに乗り合わせているグループの多くは家族やご近所、友人の集まりのようで地域単位でひとつのトラックや山車に乗り、ここまで運ばれてきたようだ。一体、目の前で繰り広げられるこの光景はなんだというのか。彼らはどこに辿り着くべく、この渋滞をつくるのか。 「ガンパティ*!チャトルティ!」「ガンパティ!ガネーシュ!!」「ガネーシュチャトルティ!!バースデー!」 目が合った彼らに尋ねると、日本人にも聞き馴染みのある神様、象の頭をしたガネーシャ神の生誕を祝うものだと分かった。どうやらガネーシャの呼び名はいくつかあるようで、この日最も多く聞いたのはガンパティという呼び名だった。 人を詰め込んだ荷台の一番奥に、ガネーシャがいた。大人よりも少し小さいか、少し大きいくらいのガネーシャ像がそれぞれの山車やトラックに、いかにも大切そうに鎮座させられている。歩いても着いていけそうな速さではあるが、まとまりを持たないまま大きさを増していくその群れに飲み込まれてみようと思った。 人口1300万を超えるデリーには当然のように様々な地域があり、各地からガネーシャを運んでくる彼らにはそれぞれの習わしがあるようだった。赤は血、黄色は尿、緑は田畑を表すという色粉を掛け合っては盛り上がりを増すトラックもあれば、比較的大人しく色を纏ったコミュニティもあり、カメラを持っていては選択肢は自ずと後者のみだった。 「君たち目立っていてとてもクールだね、乗せてもらえない?」 「ウェルカム!ウェルカムトゥインディア!ダンシング!ライクディス!」 大雑把に黄色で統一された彼らは、突然乗り込んできた東洋人に臆することもなく、狭い荷台で踊り迎えてくれる懐の深さを持っていた。自分と歳の近い若者も多く、男性だけのクルーだったことも影響してか、日本に彼女はいるのか、俺の彼女を見てくれ、など一通りの挨拶や自己紹介も済ませると、次第に居心地が良くなってきた。 この日は月曜日で、肌の深部を刺す太陽が傾いてきていた。渋滞に巻き込まれながらも溢れるエネルギーを前にして微笑みながら写真を撮るビジネスマンや、眉間に皺をつくった迷惑そうな大人など様々で、ガネーシャを担ぎあげた男達がその渋滞を縫うように流れ込んでくる様相はあまりにも不秩序で、無意識的に累積してきた常識の観念を押し広げてくれる光景だった。 一帯がガネーシャチャトルティの熱気だけに包まれた頃、どこかに到着した。それぞれが荷台からガネーシャ像を下ろし、数人で抱えて歩き始める。人混みのおかげで近付くまで見えなかった川が目の前に現れた。対岸はすぐそこのように見える。先をいくガネーシャ像たちがその川の中へ流され、沈んでいく様子が見えたときにようやく一連の終わりを理解した。 神様を送り出す最後に向けてヒートアップする太鼓隊に続き、黄色いクルーの我々も最高の音と踊りで辺りをいっぱいにする。直前には改めて祈りを捧げる時間があった。生活に根ざした彼らの敬虔な神事ということが感覚として分かり、その信仰心が胸を衝いた。 ガネーシャチャトルティは、8月末または9月初めの新月の日から4日目を皮切りに、満月までのおよそ10日間に渡って行われる。最終日には昼間から地域を練り歩き、人々が大きな祈りを捧げる中、ガネーシャは海や川へ帰っていく。その場にいる人の罪や障壁、病や悪運などをすべて持っていってくださると信じられている。 何体のガネーシャ神を見送っただろうか。気が付けば川岸から溢れていた人の波も散り散りになり、辺りはインドの怪しげな夜がいつものように始まりつつあった。パハールガンジの宿に戻ると、頭から足の先まで見事に赤く染まった自分が踊り場の全身鏡に映った。現実としての感触がようやく体内を駆け巡り、無事に帰ってきた安堵と、押し寄せてきた疲労を感じながらあの渦中にいた経験を噛み締めた。 ---------------------------------------------------------------------------------- *ガネーシャ(गणेश, gaṇeśa)は、ヒンドゥー教の神の一柱。その名はサンスクリットで「群衆(ガナ)の主(イーシャ)」を意味する。同じ意味でガナパティ(गणपित, gaṇapati)とも呼ばれる。また現代ヒンディー語では短母音の/a/が落ち、同じデーヴァナーガリー綴りでもガネーシュ、ガンパティ(ガンパチ)などと発音される。 ▼フォトフィールドワークゼミ 旅のブログサイト [clink url="https://pfw.npi.ac.jp/"]   ↓PicoN!アプリインストールはこちら

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写真

写真学生が追う「ゴジラの上陸ルート」

日本写真芸術専門学校に通う学生は、日々さまざまなテーマと向き合いながら撮影をおこなっている。 そんな中、公開から70周年になる日本初の特撮怪獣映画『ゴジラ』をテーマに卒業作品を制作した学生がいた。 「一作品のテーマとしてゴジラの存在はあまりにも大きかった」と語る泉沢七海さん(2024年4月NPI卒業)に作品への想いを聞いた。 [caption id="attachment_19626" align="aligncenter" width="855"] -芝浦- 上陸。電流の走る鉄格子をものともせず、熱線を吐き、鉄塔を溶かし進んでいった。[/caption]   3年間写真を勉強してきて、“それが好きだから”で終わらせたくはない 小さい頃スーパー戦隊がきっかけで特撮にのめりこんで、ゴジラ好き歴は10年くらいになります。 [caption id="attachment_19625" align="aligncenter" width="563"] 集めたゴジラグッズの数々[/caption] はじめは趣味で写真を撮りながら4大特撮(スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマン、ゴジラ)の聖地巡礼をしていたんですけど、撮った写真をいざ並べたら、ゴジラだけ異質なことに気付いて。 スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマンにはヒューマンドラマのパートがあるので、ヒーローたちと同じ目線に立った時の写真が撮れるんですけど、どうしてもゴジラとは同じ目線で街を見た時の写真が撮れないことに気付いたんです。 やろうにも空撮になってしまうんですよね。 [caption id="attachment_19627" align="aligncenter" width="855"] -銀座 松坂屋- 「もうすぐおとうちゃまの所へ行くのよ」と子どもを抱きかかえる母親。ゴジラを前に、生を諦めていた。[/caption] ゴジラの目線で街を撮るのはどうしても難しいから、まずはゴジラの上陸ルートを辿ってみよう!辿ったらなんか見えるかもと思って。 いくつか撮った写真をゼミの先生に見せたら「まずは1周つづけてみろ」と。 それを繰り返していたらどんどん写真は溜まっていきました。   ゴジラをテーマにして撮り始めたのは、はじめは趣味の延長でしたが、撮影を重ねるうちに“写真作品”としてしっかりと終わらせたい気持ちが強くなっていきました。 [caption id="attachment_19628" align="aligncenter" width="855"] -銀座 和光ビル-  時計が気になったのか、何回か時計に向かって吠えた後、そのままかじって壊してしまった。[/caption] シャッターを押すだけで写真は撮れるから、だからこそ難しい 写真学校に入学する前は、将来写真を仕事にしたいから仕事に活かせるスキルが学べればいいなと思っていました。でもいざ本格的に勉強してみたら、写真の表現の広さには驚きましたね。 シャッターを押すだけで写真は撮れちゃうからこそ難しくて、“写真の表現”というものをいつも考えながら撮っています。 [caption id="attachment_19629" align="aligncenter" width="855"] -国会議事堂-  当時一番大きかった建物。壊すだけでは足りなかったのだろうか。その上を踏んで歩いていた。[/caption] ゴジラの上陸ルートを追うと見えてきたもの ゴジラの上陸ルートを歩きながら最初は気になるものを撮っていました。そうすると、だんだんカメラが上を向いてきたんです。その時に、「ゴジラが見えてきたな」と思いました。 この写真は、一連の写真を見せるうちに先生からはじめて「これいいじゃん。ここにゴジラいるよ」と言われた写真です。 [caption id="attachment_19633" align="aligncenter" width="641"] -神田~秋葉原間-[/caption] 正直撮り始めた頃は迷っていて。最初は上陸ルートを辿って、“なんでゴジラはこのルートを歩いたのか?”をテーマにしようと思ってましたが、あまりにも難しくて。歩いても分からないし。 学者のレポートも読んだんですけど、答えが見つからずに…。 そんな時に先生から「ここにゴジラいるよ」と言われたから、“なんでこのルートを歩いた?”という視点からではなく、実際にルートを歩きながら撮影を重ねたことで、やっと“ゴジラがそこにいた”という存在を感じられるようになりました。 [caption id="attachment_19630" align="aligncenter" width="641"] -テレビ塔-  テレビの中継陣などゴジラには関心なかった。 記者は破壊の直前「いよいよ最期です。さようなら皆さんさようなら」と言い残した。[/caption] 確かにそこにゴジラはいた。それは写真の力だと感じる 今回のテーマは私が特撮好きということから始まっています。レンズを向けながら上陸ルートを辿ることで、確かにゴジラの存在を感じました。 ゴジラは気の向くままに進み、気が済めば帰っていく。痛みを感じ、敵と見做したものを攻撃する…。私は彼こそが生命の塊、人間の写鏡ではないかと考えます。 [caption id="attachment_19631" align="aligncenter" width="855"] -勝鬨橋-  破壊の限りを尽くし、浅草方面から隅田川を南下したゴジラ。 海に帰るため只々邪魔だったのかもしれない。[/caption] 世界中の人に愛され続けているゴジラはすでに、それぞれの"ゴジラ観"が形成されています。戦争へのアンチテーゼと言われていたり、災害的なイメージがあったり…。 私はそれぞれが持つゴジラ観を否定するつもりはありません。ただ、今回の作品を通してゴジラを考えるきっかけのようなものになってくれたらと思います。 [caption id="attachment_19632" align="aligncenter" width="855"] -隅田川- 撮影ルートのゴールとなる隅田川でこのクラゲと靴が川に浮いている写真を撮ったとき、自分の撮影とゴジラのラストシーン(液体中酸素破壊剤[オキシジェンデストロイヤー]によって骨にされたシーン)とがリンクした感覚があった。[/caption]  泉沢七海 2002年 群馬県生まれ 2024年日本写真芸術専門学校総合写真研究ゼミ卒業 instagram X(Twitter) [caption id="attachment_19656" align="aligncenter" width="563"] NPI卒業作品展 2024での展示の様子。ゴジラが歩いたルートと作品を会場一大きなプリントで展示した。[/caption]   ↓PicoN!アプリインストールはこちら

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写真

2024春のクリエイティブ採集@渋谷

なかなか暖かくならない3月でしたが、無事温かい春の気候になってきました。 今回は、過去「秋」「冬」と記事にしました、渋谷で季節のクリエイティブ採集「春バージョン」です。 [clink url="https://picon.fun/design/20231101/"] [clink url="https://picon.fun/design/20231209/"]   2024年春の渋谷は、どのようにクリエイティブで彩られているのでしょうか。   渋谷スクランブルスクエア フジフィルム/インタックスミニの壁面広告。大きなピンクの色面と、やわらかなカラーバリエーションのチェキが春のウキウキ感、なにか思い出を記録したくなるような気持ちを盛り上げてくれる。   秋、冬とカラーリングを変えてきたスクランブルスクエアのデジタルサイネージの時計が、なんとモノクロ。意外でした。   マルジェラのディスプレイ。造花で表現された淡いナチュラルなピンクと、LEDネオン管のビビッドなピンクの対比が面白い。ミスマッチを楽しんでいるような気がします。   ハンズの春イメージ。カタチを変えても、ピンクと青みどりの組み合わせが同じなのでイメージが統一されている。   渋谷ヒカリエ 黄色とブルーが目を引く飲食フロアの広告。力強いカラーが活動的になる季節にマッチ。   いつからいたんだろう?「春」だからなのかわからないが、フロアガイドに腰掛けるマネキンたち。表面の色味がおもしろくピンクの大理石のようなテクスチャになっている。   パターン化されたグリーンとお花が敷き詰められ、高級感が演出されている。同じ花のモチーフを大きく拡大し、飛び出すかたちでレイアウトされており、その遠近感が見ていて楽しい。   「春ロゼのススメ。」写真全体の色調がロゼ色に寄せてあり調和している。手書き文字もカチッとしすぎていないリラックス感が演出されている。   ピンクの背景と春のお花で装飾され撮影されたビジュアル。色味から食欲をそそるおいしそうな雰囲気が出ている。   ピンクとゴールドによるデザイン。気持ちの良いピンクにゴールドが入ることで格式がぐっと上がった雰囲気がする。   シンプルなラインや図形で描かれた春のお花見(?)のイラストビジュアル。シンプルなイラストなのにカワイイがギュッと詰まっていて見ていて飽きない。   無印良品 「春は、はじまり。」そうだよなーと思いながらも、はじめて読んだキャッチコピー。あたらしいスタートは無印良品で揃えたくなる広告。   ロフト 「みつける」「渋谷で新発見。」あたたかい春を待ち望んでいた動物たちが春をうれしそうに感じているイラストレーション。なんと日本デザイナー学院の卒業生「こなつ」さんのイラストレーションでした。こなつさんXリンク   GUCCI 黄緑色と深い赤色、白い背景でなんとなく春雰囲気は感じるように思います。   FENDI 違和感をすごく感じるのですが、FENDIの広告と思うとその違和感がセンスの高さなのかな?と感じてしまいます。均等に並ぶ真っ白な雲。ロゴの上でスパッと切られているモデルさんの足。   渋谷パルコ パルコの2024SSの広告。「Believe It or Not!」目の前に見えるのは現実か空想か。春シーズンは「“SMART HOME”彼らはロボット?それとも人間?」というコンセプトで様々なビジュアルで展開されています。詳しくは専用Webページへ   PicoN!編集部 横山   ↓PicoN!アプリインストールはこちら  

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