広告クリエイターにアイデア術を聞いてみた! 発想のカギは「視点移動」と「画像検索」? (インタビュー前編)
まずはこのポスターをご覧ください。
これは自動車学校「コヤマドライビングスクール」の広告ポスター。「輝」という漢字になぞらえて、「自動車免許を取ろう!」というメッセージを “ウマく” 伝えています。見た目にもインパクトがあり、カラーコーディネートもシンプルでカッコいい。けっこう話題になったポスターなので、ご存知の方も多いかもしれません。
こういったアイデアポスターは、コヤマドライビングスクールのお家芸。1985年からの40年近くにわたり、春・夏・秋・冬の年4回、楽しくオシャレな駅貼りポスターを世に送り出しています。デザイン、そしてユーモアのセンスあふれるポスターの数々はもはやアートの域。公式サイトの「ポスターギャラリー」を見出したら最後、スクロールと座布団投げの手が止まらなくなります。
コヤマ流 “秀逸” ポスターの数々は、いったいどのようにして生み出されているのか? グラフィックデザイナーやその志望者はもちろん、全クリエイターが気になるところでしょう。インタビュー前編となる今回は、ポスター制作を手がける広告会社「株式会社アイム」のクリエイター2人に話を聞きました。
発想のコツは「視点を変える」こと
――ステキで楽しいポスターの数々ですが。アイデアはどうやって発想しているのでしょうか?
長井)「自動車」というテーマと絡めつつ「なるほど!」という気づきを与えられるように、とにかくあらゆる角度から考えています。車と身近なものとをつなげて、何か面白いことを言えないかと。具体的には、そのときどきの季節と絡めてみたり、別の移動手段である「自転車」や「電車」と比べてみたり、それこそ「漢字」からアプローチしてみたり。
特に多いのは、「季節」から発想するパターンです。たとえば春なら「卒業」「入学」など。夏には「海」を題材にすることが多いです。これはアンケートを取ってみた結果、免許を取ったら行きたい場所として「海」という回答が一番多かったので。共感を得られやすいし、ビジュアル的にも強いですしね。
――発想のコツがあったら教えてください。
長井)物事を見る「視点」を変えることだと思います。たとえば学生の気分になったら? 渋谷の街にいる若者だったら? 車に興味がない人なら? 同じ「学校」ひとつ取っても、「学生」から見る学校と「先生」から見る学校は違うかもしれない。「卒業生」の立場から見たらまた違うでしょう。こんなふうに、とにかくテーマを色んな角度から見てみるんです。それで思いつかなかったら、またどんどん別の視点を試していけばいい。
たとえば、この〈朝に見つけた一番星〉というポスター。
一番星と言えば、普通「夜」のものですよね。しかしちょっと視点を変え、「朝に出てくる一番星って何だろう?」と考えてみたんです。その答えは「朝陽」ではないかと。
――「一番星」と「朝」のように、 “意外なもの同士” をつなげてみるというのも、面白いアイデアをつくるコツかもしれませんね。
長井)〈夏のイルミネーション〉というポスターもそうです。イルミネーションといえば普通「冬」のものですが、あえて「夏の」イルミネーションというものを考えてみました。
他には、〈あわてんぼうが、車で来たよ〉というポスターもあります。普通、サンタクロースが乗るものと言えば「ソリ」のところ、あわてて「車」で来ちゃった。ビジュアルのインパクトも面白いですし、「あわてんぼうのサンタクロース」にも掛けているんです。
岡田)「サンタ劇場」のポスターは結構ありますよね(笑)。
アイデアに詰まったら「とにかく調べる!」
――どうしてもアイデアが出ないときは、どうやって打開しますか?
長井)ネットで画像検索してみることが多いです。フリー素材サイトなどでキーワード検索して、いい風景を探すとか。やはり「クリスマス」「サンタクロース」のような、季節に関係するキーワードを使うことが主です。それでいい感じの画(え)が見つかったら、試しにコピーをつけてみたりします。画像に限らず、YouTubeで動画を探すことも。アイデアの切り口って、いろんなところに落ちていると思いますね。
岡田)私も、アイデアに詰まったときはとにかく調べます。「いま、こんなアニメが流行ってるんだ」「キャンプがすごい人気なんだ」とか、トレンドを調べることも。特にキャンプのような、車につなげられそうなアクティビティは注意深く見ますね。たとえばキャンプメーカーさんがどういうアプローチで広告を出しているのか分析して、そこからヒントを得ることもあります。
アイデアを考えてるときって、普段なら見過ごすようなことにも気がつきやすくなっていて。何か使えそうなものや、気になるものに出会えることが多いんです。
長井)実体験もヒントになります。旅行の思い出、学生時代の思い出、恋愛体験、そして自分が車に乗ったときのこと……。どんな情報をインプットするにしても、最終的にはそういう「自分のフィルター」を通して物事を見ないと、オリジナリティは出ないと思いますね。
――アイデアが出やすい「場所」や「シチュエーション」はありますか? 昔から言われているのは三上(馬上=移動中、枕上=ベッドタイム、厠上=トイレ中)というものですが。
岡田)それで言うと、私は「枕上」かな。寝る前や起きる前にひらめくことが圧倒的に多いです。寝る前や起きた直後って、思考がニュートラルになっているというか、余計なことを気にせずボーッと考えられるような気がして。頭が柔らかくなっているので、ヘンなことを思いつけることが多いです(笑)。
長井)私の場合、特定の場所はありませんが、「場所を変える」のはいいですね。アイデアを出すときは、「頭の切り替え」に苦労することが多いんです。まったく別の業務をしていて、さぁキャッチコピーを考えよう! ……と思ってもなかなか出るものではない。そんなときは、ファミレスやカフェに行ったりして、作業場所を変えてみるんです。
よく行くのは「代官山T-SITE」(※)。デザイン系の本や資料もたくさん置いてあるので、席に座ってそれを読みながら作業したり。クリエイターたちにはよく利用されているスポットだと思います。
※代官山T-SITE……代官山にある、TSUTAYA系列の複合商業施設。書店にラウンジが併設されており、ゆったりくつろぎながらクリエイティブに触れられるスポット。
こだわり抜いた自信作! 2015年夏ポスター
――これまでつくったポスターの中で、自信作はどれですか?
岡田)2015年夏のポスター〈来年の夏は、車で来ようね〉はイチオシです。
自転車で海に遊びに来た高校生カップルをテーマにした作品で。「今年は自転車で来たけれど、来年の夏は免許を取ってまた車で来ようね」と約束した男女の物語を描いたものです。
アニメタッチのイラストを採用したという点でも、弊社としては初めてのチャレンジでした。当時の時流に乗りつつ、ターゲット層である若者たちの嗜好も意識しての試みです。イラストはこまやま明さんというイラストレーターさんに依頼し、デザインのディレクションは私が担当しました。
――具体的に岡田さんは、デザイナーとしてどんなディレクションをしたのでしょうか?
岡田)画角の広いB倍2連(※)サイズに合わせてイラストの構図を直したり、青空のグラデーション、雲のトーンなど細かい色味も調整しました。あくまで、こまやまさんのイラストの良さは残しつつも。
※B倍2連……「B倍」は、B0(ゼロ)用紙の通称。B4用紙の16倍の面積がある、非常に大きな紙(B0用紙を4回折りたたんだサイズがB4用紙)。「B倍2連」は、このB倍用紙を2つつなげたもの。
それから、左にある自転車の影も私のアイデアで追加したものです。自転車そのものではなく「影」を描き、間接的に存在を匂わせる表現にしたのがこだわりポイントですね。
キャッチコピーの入れ方も、最初は横書きだったものを縦書きに変えました。映画のポスターっぽい物語性を感じさせるかたちにしたかったんです。
――あらゆる角度からアイデアを考え抜き、細部に至るまで品質にこだわり抜く。そんな「基本」を徹底し抜く情熱こそが、クリエイティブの王道なのかもしれませんね。
次回・中編では、1枚のポスターが完成するまでの制作過程を詳しく伺います。
取材・文/佐藤舜 撮影/黒田渉
〈関連リンク〉
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