【写真学校教師のひとりごと】vol.10 山市直佑について②

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼【写真学校教師のひとりごと】vol.8 山市直佑について


 

前々回の山市直祐の続きである。

わたしは以前山市と授業で一年つきあったことにより、かれを十分知ったつもりでいた。
デビュー作の「川魚が跳ねた跡」をみて安心していたのだ。
本来シャープでクリアな写真を撮る男だ。
ところが、沖縄での”Operation Iceberg Sites”の制作滞在を終え、新宿で”枯野”の展示をしたことがあったが、あのときから彼の写真が私にはわかりにくくなった。
山市の写真は明快でわかりやすいのが特徴だ、とおもっていた。
それがなぜわかりにくくなったのか。かれの写真が別人の写真のように、あのときから変化をとげている。
被写体が社会性を帯びず、私的な視点のようだ。ここらへんも根本的に違う。かれになにがおこったのだろうか。

“Operation Iceberg Sites”より

突然、私のことになって恐縮だが、わたしは幼いころ、九州、山陰を疎開で転々としたが、それら疎開先を撮ってみようか、とおもったことがある。
だが、実際には撮るにいたらなかった。
あまりにも幼いころのことなので、どんな思いでそれらの情景に対したらいいのかが、今ひとつわからなかったからだ。
“枯野”において、山市もそれら私的風景にたいする視点が、川魚や沖縄のときのようには明快にさだまっていないまま、撮ったのではないか。
だからあのようなことになってしまったのでは。
写真を見ているときは、よくもまあここまで変われるもんだ、なにがあったのだろうか。
とひたすら驚いていた。
なぜあの山市がというおもいで、そそくさと会場を後にしたことをおぼえている。

“Operation Iceberg Sites”より

それから年月が過ぎ去り、先日山市と久しぶりに会った。そして彼と別れてから、ふと思った。
もしかすると、かれは私的風景に出会ったときに、心の切り替えなしに、沖縄などの社会的風景を見るときと同じような気持ちで、見たのではないか。
そしてその状態のまま、シャッターを押したのでは。
つまり社会的な風景を見る調子で、私的風景を見たとするなら、かれの撮った写真は理解できるような気がする。
普通に考えるとかなりややこしくて、面倒なことのようだが、山市はなんとかクリアしようとしたのではないか。
というのがわたしの考えである。

さきほども述べたように、本来はシャープでクリアな写真を撮る男だ。
もっとわかりやすい写真を撮れるはずだ。
視点を普通の山市にもどしたほうがいいのでは。
そうして新作をどんどん発表して。
後進のために。

山市直佑

1985年栃木県生まれ
2007年より写真家、ウェブデザイナーとして活動。
2019年よりNPIスタッフとして勤務。

学歴
2014年横浜国立大学大学院社会科学研究科経営学専攻修士課程修了
2012年横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業
2007年日本写真芸術専門学校3年制写真科フォトフィールドワークコース卒業

展示歴
個展
2021年 “Oneness” at Koma Gallery in Tokyo
2019年 “梔子” at 蒼穹舎
2018年 “常盤樹” at 蒼穹舎 in Tokyo
2017年 “枯野” at 蒼穹舎 in Shinjuku
2012年 “Oneness” at Nikonサロン in Tokyo and Osaka(in Osaka; 2013 Mar.)
2009年 “アジアン・トゥデイ” at Nikonサロン, in Tokyo and Osaka
2006年 “川魚が跳ねた跡” at コニカミノルタプラザ, PhotoPremio in Tokyo
グループ展
2019年 “BAUM! vol.01 “植物図鑑-Vague Botanical Detail-”” at サイト青山 in Tokyo
2018年 “Operation Iceberg Sites” as Kichijoji Gallery at fotofever in Paris
2018年 “BAUM! vol.0 “Shapes of Memento”” at LeDeco in Shibuya

出版
2019年 “枯野”
2019年 “Operation Iceberg Sites”, 「世界 6月号」岩波書店
2018年 “Operation Iceberg Sites”

2009年「アジアン・トゥデイ」 NikonSalon

2012年「Oneness」 NikonSalon

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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