【写真学校教師のひとりごと】vol.8 山市直佑について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼第7回


 

山市は、日本写真芸術専門学校の3年制写真科フォトフィールドワークゼミの1期生である。
当時学校の顧問だった、セバスチャン・サルガドに自然とか環境破壊とか、そして、それらと人間との関わりを説かれ、多摩川を撮りだした。
そして特別講義で長野重一にもいろいろ指摘されて出来上がったのが「川魚が跳ねた跡」だ。
結果としてこれが山市のデビュー作となる。

2006年「川魚が跳ねた跡」 コニカミノルタプラザ

ちょっと、ややこしいタイトルだ。
本人が言うには、このデビュー作はタイトルが一番の失敗だと言っている。
かれの頭の中には不必要なことも含めて、なにかごちゃごちゃと入っているようだ。
その不必要な部分がいろいろと問題を引きおこす。あのややこしいタイトルもその不必要な部分のせいだ。

理屈を組み立てるばかりでなく、平易な言葉に置き換える作業が必要なのだ。それによってわかりやすくて簡潔な文章になる。
その言葉・文章を写真に変換する。その作業を無難にこなせば世界で通じる、理解される写真になるのだ。
だがかれの写真は言葉ほどにはなにかを主張しているようには思えない。
ときどき、他人を寄せつけないような、理解するのを拒絶するかのような、そんなことを受動的に感じさせる壁を出現させる。

ところが沖縄を撮った写真では山市の叫び声が聞こえる、聞こえてきた。
生き生きと主張しているのを感じとることができた。
その後、「枯野」を撮る。かれの生まれ育ったところだ。


かれにとって非常に意味があり、想いもいろいろあるはずの土地だ。だがほとんど声が聞こえない。
たとえ聞こえても声が小さい。明快でない。
実際の山市は饒舌とは言わないが、決して無口ではないし、説明を阻んだり、拒否したりすることもない人間だ。
ここで説明を阻むと言っても、諸手を挙げて拒否するのではなくて、こちらに背を向けて、やさしく、説明から逃げているように感じるのだ。このかれの写真は。

わたしのかれに対するおもいは、できはいいのだが、いまひとつ、写真が噛み合っていないヤツ、である。センスも頭も問題なく良いのだが。
ここらへんのことについて本人とは話しあったことがまだ無い。
いずれ近いうちにこの問題について語りあってみたいと考えている。

話し合いの結果は、続編として後日取り上げたいと思う。

 

山市直佑

1985年栃木県生まれ
2007年より写真家、ウェブデザイナーとして活動。
2019年よりNPIスタッフとして勤務。

学歴
2014年横浜国立大学大学院社会科学研究科経営学専攻修士課程修了
2012年横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業
2007年日本写真芸術専門学校3年制写真科フォトフィールドワークコース卒業

展示歴
個展
2021年 “Oneness” at Koma Gallery in Tokyo
2019年 “梔子” at 蒼穹舎
2018年 “常盤樹” at 蒼穹舎 in Tokyo
2017年 “枯野” at 蒼穹舎 in Shinjuku
2012年 “Oneness” at Nikonサロン in Tokyo and Osaka(in Osaka; 2013 Mar.)
2009年 “アジアン・トゥデイ” at Nikonサロン, in Tokyo and Osaka
2006年 “川魚が跳ねた跡” at コニカミノルタプラザ, PhotoPremio in Tokyo
グループ展
2019年 “BAUM! vol.01 “植物図鑑-Vague Botanical Detail-”” at サイト青山 in Tokyo
2018年 “Operation Iceberg Sites” as Kichijoji Gallery at fotofever in Paris
2018年 “BAUM! vol.0 “Shapes of Memento”” at LeDeco in Shibuya

出版
2019年 “枯野”
2019年 “Operation Iceberg Sites”, 「世界 6月号」岩波書店
2018年 “Operation Iceberg Sites”

2009年「アジアン・トゥデイ」 NikonSalon

2012年「Oneness」 NikonSalon

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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