いとうみちろう先生が教える!「美術解剖学入門」ー手の捉え方ー
皆さんは普段思ったように手が描けているでしょうか?どのくらい難しい、あるいは簡単だと感じているでしょうか?
まずは大事なポイント
世のマンガ家やアニメーター、イラストレーターの多くが当たり前のように高度なレベルで手が描けてしまうので、私たちはなんとなく出来て当然みたいに感じているかもしれません。場合によっては、そういった人たちと比べて自分は絵が下手だと思ってしまうこともあるでしょう。
まず結論として大事なポイントを2点お伝えします。
1,手を描くのは実はすごく難しい。
2,手はたくさん描かないと上手くならない。
なんだか地道な話で、これから手の描き方のポイントやコツを話そうというのに身も蓋もないのですが、大事なことなのでこの2点はぜひ押さえておいてください。例えば、世の中の多くのものは簡単な図形に置き換えて解釈することができます。コップは円柱、リンゴは球、ビルは直方体・・・などと。ところが手はどうでしょう。かなり複雑な形状をしています。それが握ったり開いたり、何かを持っていたり、誰かと手をつないだり、パースがかかって奥行きがついたりするのですから、難しくないわけがないのです。だから普段目にするアニメで何気ない手の動きを描いている人たちは、それこそ息をするようにこの難しいものを大量に描くわけですから本当にすごいと思います。
手を描く上での豆知識&コツ
さて、手がかなり難しいということと、自在に描けるようになるにはたくさん描く必要があるということを踏まえた上で、あとは細かな注意点やコツのようなものはたくさんあります。そのいくつかを紹介します。
まずは基本の手のひらを見てみましょう。実はこれだけでも深掘りすればポイントはいくつも出てきます。
例えば普段私たちはこのように手を描いてしまいがちではないでしょうか?
ん?別に悪くはないように見えるかもしれません。絵柄によってはこれでいいでしょう。ただしある程度構造がしっかりした絵を描くならば次の画像のような点を押さえたいです。
実は手をパーにしたとき、指と指には隙間が空いていてそこをちゃんと描いてあげるとより手らしくなります。あるいは次の画像を見てください。
手の指というのは山なりになって付いていて、手の描き方の本などではこれを五角形で解釈するといいとしているものもあります。これも無意識だとまっすぐ描いてしまうのではないでしょうか。こういった手をより手らしく描くためのコツのようなものは、ある程度知識として押さえておきたいところです。
指を拡げたときに指と指の間に間隔ができること、指の付け根が山なりになっていること、この2点は基礎知識としてぜひ知っておいてほしいです。ただし、中にはこんなことはもうとっくに知っているよ!という人もいるかもしれませんのでもう少しだけ豆知識を追加しておきます。
↓は手の甲から見た写真です。手の平から見ようが手の甲から見ようがシルエットは同じなので、もちろん指と指の間には隙間があります。
ただし、手の甲のほうは詳しく見るとこのようなライン、構造が含まれています。
これは見方によっては指のスキマがV字カットに見えないこともないのです。さらに、例えば赤ちゃんの手や小さな子供の手はお肉がプニプニ指の周りを覆っていますから、手の平から見ても指の間がV字カットっぽく見えることもあります。これはあくまで例外パターンですが手を描く上での豆知識のひとつです。
さて、手の描き方にはこのようなコツやポイントがいくつもあります。手って実はけっこう難しいということを知ってもらって、ある程度の分量をクロッキーやデッサンをこなしながら、そういった豆知識の引き出しを増やしていってほしいと思います。特に手のデッサンについては人から教えてもらわないとなかなか気づかないようなポイントが多いので、もし機会があったらそういったことも紹介できたらと思います。ここでお話しできたのは本当にわずかな部分でしたが、長くなるので今回はこのくらいにしておきましょう。
おわりに
習作を重ねていくとあるときからかなり自由に手が描けるようになります。上達したことを感じ、今まで思ったようにできなかったことが、できるようになるのは楽しいものです。その調子でどんどん描いてください。・・・ところが、またある時に気付くのです。もっと上の表現を目指したいと。そうなると、今まで描けていると感じていた絵の中にさまざまな課題を感じるようになるでしょう。そうしたらまた練習のターンの再開です。
手に限らず絵というものは、そういったことを繰り返しながらスパイラルに上達するものではないでしょうか。私自身ももっと描けるようになりたいと思っています。手は大変重要な部位で、それが描けると大きな強みとなります。どうぞ皆さんもより良い絵を目指してこれからも描き続けてください。
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NDS講師 いとうみちろう
イラストレーター。児童書や絵本、教科書や雑誌、アプリ、カード、舞台美術などさまざまな分野を手掛ける。教育関係の仕事の傍らフリーランスとして活動をはじめ、これまでカルチャーセンターや美術学校などで、小学生から高齢者まで幅広い年代を対象に講師として指導。