Switch! -クリエイティブのカタチ-
クリエイターは不思議だ!フォトグラファー、写真家、カメラマン、いろいろな呼び方はあるけれどなかなかしっくりこない。
ひとつの肩書きでは語れないほど、彼らがマルチに活躍しているからだ。入職当時に知った彼らの姿に、ただただカッコいいと思った。あれから半年、まだまだ分からないことだらけのクリエイターの世界。そんな彼らのクリエイティブのカタチを見てみたいと思った。そう、私は彼らのことが知りたいのだ。
まず手はじめに同い年のクリエイターをたずねてみた。両国駅から路地裏に少し入った場所に創業50年以上の老舗、株式会社フレームマン(http://frameman.co.jp/)のビルがある。搬入用のエレベーターが開くと木のいい匂いがする。やわらかい笑顔で出迎えてくれたのが、日本写真芸術専門学校(以下、NPI)卒業生の藤林彩名さんだ。彼女はここで写真作品をはじめとするアート作品の加工をしている。また、それらの作品をギャラリーや美術館などで設営をするのも彼女の仕事だ。その傍らでは、2021年春に写真家が共同運営する「Koma gallery」を恵比寿に開廊した。メンバーの定期的な展示を中心に、イベントや企画展などを開催している。作品を発表する側とそれを支える側、その両方を覗いてみようと思った。
自分の作品を撮り続けたい。たどり着いたひとつのカタチ。
―藤林さんはなぜ写真を加工するお仕事に就かれたのでしょうか?
学生の頃はフリーランスのフォトグラファーにも憧れていました。ただ、自分ですべての仕事をマネージメントしながら自分の作品を撮り続けられるか自信がありませんでした。でも、お金も稼がなくてはいけないし、どうやって作品制作と生活を両立させるか悩みましたね。
―作品制作を続けられる環境を探していたんですね。その時今のお仕事と出会ったわけですね。
そうですね、学校に“フレームマン”の求人が来ていて、これはもう思い切って面接受けてみようと思いました。もともと自分の卒業作品展で設営してくれたのがフレームマンの職人さんたちだったんですよ。すごい速さで設営していく姿を見て、すごくかっこいいなと思いました!すぐ影響を受けて自分用の工具入れも買いました(笑)
―写真家の活動として自主ギャラリーをはじめられましたね。
フレームマンを受けたのと同じくらいの時期に、NPIの先輩からギャラリーのメンバーに誘われました。私たちが運営しているギャラリーは年に3回、自分の作品を展示する機会があるので、そこに向かって作品を作っています。自分に対してノルマができるし、メンバーから刺激を受けます。
―“作品制作”と“仕事”の場所ができたんですね。個人的に二つを両立することは大変だと思うのですが…
わりと大丈夫ですよ!基本的にフレームマンは土日休みなので、その時に遠出して撮影しています。仕事終わりに夜の街を撮ったりもします。スケジュール調整することよりも自分の写真のクオリティを上げることや、先輩たちの仕事に追いつく方がずっと大変です(笑)
作品制作と仕事、その両輪を回すことは難しいのだろうと考えていたが、彼女から返ってきた反応は意外にもソフトだった。展示に向けて作品を撮り下ろしに行く、展示が終われば次の撮影を考える、その繰り返しだそうだ。職場ではベテランの職人の中で働く。もの作りはなかなかハードだ。それにしても彼女のフィジカルの強さはどこからくるのだろうか?
チャンスがあれば飛び込む!海外でのフィールドワークで得た強さ
―その行動力はどこから?
とにかく学生時代に鍛えられたと思います。私はフォトフィールドワークゼミの卒業で、在学中は「作品撮ってきます!」と言って約180日間海外に行ったわけなので、日本で待っている先生に「何も撮れませんでした」とは口が裂けても言えませんよね(笑)。とにかくやらないと残らなかったから…写真は撮らないと増えないし。学生にしてはプレッシャーの多い環境だったと思います。
不安なことでも、とにかくチャンスがあればやってみようと思えるようになりました。これに関しては、海外での経験が活きていると思います。だから今の仕事もギャラリーも飛び込むことができたんだと思います。
もし、海外フィールドワークに行っていなかったら、本当はやりたいけど、どうせ自分には出来ないだろうって、チャレンジせずに終わっちゃうこともたくさんあったんだろうな…今はチャレンジさえすれば、いずれは出来るようになるかなと思えます。
なるほど。海外での撮影は自分が行動しないと状況が変わらないことを藤林さんに教えてくれたのだろう。
旅の話をする彼女はとても楽しそうだった。
―作品制作とお仕事、その二つが互いに影響を与えることはありますか?
フレームマンではたくさんの写真家の方々と作品を通して関わります。彼らの表現に間近で触れられることは大きいです。私も撮り手の一人として作品の一点一点の重みを理解し、加工や設営を行うように意識しています。
―最後に、今後について伺いたいです。
仕事はやっと2年経とうとしているので、一人で出来ることが増えてきました。それでもまだまだ先輩たちに頼ることばかりなので、ゆくゆくは一人でも加工や設営を任せてもらえるくらいに成長していきたいです。
写真家としては、自分の作品を作り続けていきたいです。そして国内外の多くの人に私の作品を見てもらいたいですね。
藤林さんの両面は写真展という形でつながっていた。仕事での体験や経験は自身の作品制作へ、自身の作品に込める想いはフレームマンという仕事へ活かされている。ほんの少しクリエイターのカタチが見えてきた。
インタビューを終えて学校に戻ると、展示を控えている学生たちが写真展のDMの前で話しをしている。その展示はみんなの先輩が設営したんだよと話しかけてみた。
5月になったら彼女の展示を見に行こうと思う。今度はどんな写真を撮っているのだろう、どんな展示をするのだろう。
はじめて誰かの展示を楽しみにしている自分がいた。
藤林彩名
1995年埼玉県生まれ。2017年日本写真芸術専門学校フォトフィールドワークゼミ卒業 。卒業後から2020年3月まで同校で助手として勤務。2020年4月株式会社フレームマン入社。2021年4月恵比寿にKoma galleryを開廊、所属。主な展示に「Post Urban」(TAP Gallery、2019)「都市の波形」(America Bashi gallery、2021)「Koma gallery Opening Exhibition」「COLLECT LANDSCAPE#1」(Koma gallery、2021)「風景を集める|東北」(Koma gallery、2022)また、2021年IMA next 「MEMORY」ショートリスト選出。
文:PicoN!編集部 濱田
写真:PicoN!編集部 奥