「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ③

ヨハネス フェルメール作の一枚の絵『窓辺で手紙を読む女』

みなさんこんにちは、専門学校日本デザイナー学院東京校講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

第3話となりました今回は、日本でもたいへん人気の高い17世紀のオランダで活躍した画家の一人、フェルメールが描いた『窓辺で手紙を読む女』と題する油彩画をご紹介します。

ヨハネス・フェルメールというこの画家の名前はご存知の方も多いことと思います。もし名前を知らない方であっても、彼の絵画の代表作のひとつ『真珠の耳飾りの少女』という作品は見た事があると思います。

ヨハネス フェルメール(Johannes Vermeer)『真珠の耳飾りの少女』制作年/1665年推定 マウリッツハイス美術館蔵(オランダ・ハーグ)

 

フェルメールが活躍したのは17世紀のオランダ(当時はネーデルランド連邦共和国)でした。同時代に同じオランダで活躍した画家はレンブランドがいます。こちらも有名な画家ですね。

さて、フェルメール絵画の人気の理由ですが、この画家の絵画の特徴は、決して華美で派手な色を使わず、作品全体として落ち着いた色彩で静かな作風であり、描かれる人物たちのポーズや仕草・顔の表情が私たち鑑賞する側にいろんな想像をさせる点だと思います。
また描かれている情景に鑑賞者が自由に想像を巡らせられる画題(絵のタイトル)も多いに関係があると思います。そしてなんと言っても彼の卓越した描写力です。

では、今回の絵画をご覧ください。

ヨハネス フェルメール『窓辺で手紙を読む女』(修復前) 制作年/1657年~1659年 ドレスデン国立古典絵画館蔵(オランダ・ドレスデン)

 

この作品『窓辺で手紙を読む女』はドレスデン国立古典絵画館に収蔵されています。フェルメールが描いたのは1657年~1659年にかけてでした。この作品は、アウグスト3世という王様によってレンブラントの作品と誤った鑑定によって購入したのがきっかけで、ドレスデンの美術品コレクションに収蔵され、その後、フェルメールの作品であると認定された(※出典)という経緯があります。これも面白いエピソードです。

作品を見ますと、服装や髪型など含めて当時の暮らしぶりが詳細によく分かります。そしてこの女性が読んでいる手紙はいったいどんな事が書かれていたのかが気掛かりになります。手紙を読み終えた刹那の横顔のようにも見えます。ちょうど開かれている窓のガラスにもうっすら映り込んでいますよね。そして手前のベッド(?)の上に置かれた器が傾いていて、何故か果物がこぼれ出てたりします。これも彼女のその心理の反映だったりするのでしょうか…。

この作品には窓が描かれ、そこからの外光が部屋の画面左側から右の方に差し込んでいます。
古典的絵画として当時の作品に見られる特徴の一つが、安定した光と明暗のコントロールが挙げられます。光が柔らかく差し込んで辺りをほのかに明るくさせます。こうした光の構図は、制作する側にも鑑賞する側にも都合が良いと言えます。
制作する側には描く空間に光による波乱が少ない点で表現しやすいですし、見ている側も室内の状況がすんなりと受け入れられ、理解しやすいです。その分、題材に集中して鑑賞できる訳です。
前出の『真珠の耳飾りの少女』も『牛乳を注ぐ女』にもこの光の構図が見られます。

ヨハネス フェルメール『牛乳を注ぐ女』制作年/1657年~1658年頃 アムステルダム国立美術館蔵(オランダ・アムステルダム)

 

同時期に活躍したレンブラントの絵画にもこの光のコントロールが顕著に見られます。

レンブラント(Rembrandt Harmenzoon van Rijn)『34歳の自画像』制作年/1640年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー美術館蔵(イギリス・ロンドン)

 

古典的絵画での背景の役割は(室内の壁であったりするのですが)、描く空間を限定するためのものです。
背景が室内の壁であることで、その絵の題材が壁の前にあるものということになるのです。まさに「牛乳を注いでいる女性」であったり、自画像では「レンブラントご本人」の肖像である訳です。この場合の壁は見る側をより題材に注意を向かせる効果をもたらしている訳です。

今回の『窓辺で手紙を読む女』の場合あれば、「こうした室内で彼女は手紙を読んで」という舞台の設定として壁が扱われました。

ですので、背景の壁面がさほど大きな役割を担う事はないのです。→ないはずだったのです…ところが!
実はこの作品を1979年にエックス線で調査したところ、後ろの壁面には木の枠とともにその中にキューピッドが描かれていることが判明し、2021年に収蔵館である古典絵画館(アルテ・マイスター)で加筆された部分も含めて修復が終わり(※出典)、現在、もとの姿の作品を鑑賞できるようになっています。

不思議なことですが、どうして壁面にキューピッドを描いていたのか? 大いなる謎ですね!
そして、なぜこの背景を単なる壁に描き替えてしまったのか…! これもまた謎。

ヨハネス フェルメール『窓辺で手紙を読む女』(修復後) 制作年/1657年~1659年 ドレスデン国立古典絵画館蔵(オランダ・ドレスデン)

展覧会情報

修復後、所蔵館以外では世界初公開
ドレスデン国立古典絵画館所蔵「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」
2022年2月10日(木) ~ 4月3日(日) 日時指定予約制

東京・上野公園内にあります東京都美術館での開催です。
このミステリーには、実物の作品を鑑賞して考察してみる良い機会としての展覧会なのかもしれませんね。

出典

名画に現れたキューピッド フェルメールの絵画修復完了 ドイツ:朝日新聞デジタル

美術手帖サイト (2021年8月25日NEWS/HEADLINE)

 

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