クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.7〉

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
まだ予断を許さない暑さですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
そういえば前回の記事で触れました日本気象協会が近年のヤバい暑さを定義した「酷暑日」や「超熱帯夜」という言葉は全然定着しませんでした。
やはり言葉や概念は繰り返し発信しないと定着しないもんですね。

「酷暑日」や「超熱帯夜」に反し、ここ連日メディアで報道されている「例のカルト団体」についての諸々は定着しまくったのではないでしょうか?
例の事件を元に暴かれた「例のカルト団体」がアンダーグラウンドに潜り、
被害者を生み出し続け、政治家と持ちつ持たれつの関係を築いていたというフィクションのような世界線がニュースとして流れています。

*なお本記事では宗教や政治、それにまつわる諸問題が主題ではないので、筆者の判断で「例のカルト団体」と表記いたします。

 

フィクショナルに思われるようなクラクラする事実が暴かれる中、
8月4日のDOMMUNE 宮台真司(社会学者)x ダースレイダー(ラッパー兼評論家)による
「宗教と映画〜『A』シリーズ、『ザ・マスター』、『星の子』etc…が描くカルトの内と外」(Amazon Music DOMMUNE RADIOPEDIAポッドキャストにてアーカイブ)が組まれました。

内容は非常に面白く、紹介される映画を元に「例のカルト団体」などが浮かび上がらせる現在の社会構造の欠陥、感情/言葉など人間の問題を表出させてくれました。

この特集では言及されませんでしたが、私はこの特集から「例のカルト団体」と宗教と映画に関連する映画として園子温の『愛のむきだし』を思い出しました。
*概要に関してはWikiを参照。

そして今回ご紹介する曲は、空虚感を埋め合わせるために若者が暴力や宗教、変態行為に走る『愛のむきだし』の主題歌・挿入歌であるゆらゆら帝国の『空洞です』を女性アーティストる鹿がカバーした『空洞です』です!(ですの多用!笑)

ゆらゆら帝国『空洞です』

まず簡単にオリジナルのゆらゆら帝国版のご紹介。
ゆらゆら帝国は坂本慎太郎(vo,gu)、亀川千代(ba)、柴田一郎(dr)からなる三人組バンド(1989年結成~2010年解散)

楽曲はガレージロック、サイケデリックロック、オルタナティブロック…
作品ごとに様々な形容をされるが独特としか言えない楽曲にこれまた独特としか言えない言葉選びや節回しの歌詞を展開する。
間違いなく1990年代~2000年代を代表するバンド。

『空洞です』は彼らのラストアルバムであり、表題曲。

歌声は気だるいを通り越して、人工的で熱量を感じない。
曲は無機質で単調なリズムに曖昧なメロディー。
サックスは音圧があるものの無軌道。
そこに楽器の輪郭は感じるが、熱量を感じないのだが、浮遊感を感じる。
聴けば聴くほどその浮遊感の虜になるのだが、実態がつかめない。
タイトル通り空洞。

「空っぽな感覚」テーマにしている本作は標題曲だけでなくアルバムを通して一曲の統一感があり、坂本が解散理由を本作で「(バンドにできることが)完全にできあがってしまった」という程の作品ですので是非通して聴いてほしい。

個人的にはCan/Future Daysともアルバムから受ける印象が近いのでこちらも是非比較してほしい。

る鹿『空洞です』

簡単に紹介すると言っておきながら大分紙幅を割きましたが、
今回ご紹介する「る鹿」はファッションブランド”DEERTRIP”のディレクターを務め、
サカナクション「多分、風」のMV、各社CMにも多数出演する才人のモデル。

カバー版の『空洞です』のLPは石井マサユキ(TICA/Gabby&Lopez/ex-The Chang)がサウンドプロデュース、アレンジ、ギターを担当したほか、大野由美子(Buffalo Daughter)がミニ・ムーグ、田村玄一(Lonesome Strings/Little Tempo)がスティール・ギター、楠均(Qujila/KIRINJI)がドラムで参加。ミックスとマスタリングはZAKが担当。LPはイエローヴァイナル!

A面は、る鹿の透明すぎてしみわたりすぎる歌声(日本語/中国語版あり)とスティール・ギターの音色が、レイドバックして気が付いたら“心地いいどこか”へ誘われたようなオリジナルよりも「優しい空虚」包まれるメロウアコースティック。

日本語Ver

中国語Ver

B面には西滝太(PARA)がシンセサイザー、Senoo Rickeyがドラムで参加した、山本精一によるリアレンジ・バージョン。
サイケデリックかつタビーでオリジナル版とは違ういかがわしさや怪しさを感じる。
クチャクチャ鳴っているギターと乾いたドラム、中盤のフリージャズ展開が最高!
A面より、母語が中国語である「る鹿」の日本語の微妙なイントネーションのチャーミングさが際立ちます。

ゆらゆら帝国/る鹿『空洞です』どちらも好きですが、今のヤキモキするムードに包まれた不穏でおかしい「空洞です」な現在では、る鹿の気が付いたら“心地いいどこか”へ浮遊感をもって誘われる『空洞です』が今のムードを解消してくれそうでオススメです。

文・写真 北米のエボ・テイラー

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