「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑱ ― ロバート・ライマン《 Crest 》について
ロバート・ライマン《 Crest 》について
専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。
前回ご紹介した彫刻家 カール・アンドレに続いて今回取り上げるアーチストもアメリカ生まれの作家です。欧米の近現代美術作品を収蔵する各地の美術館が所有するこのロバート・ライマンの作品のうち、ニューヨーク近代美術館(MoMA)には充実した彼の作品が所蔵されていますで、まずはMoMAのコレクションの中からご紹介しましょう。
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まず、ご紹介しますのはこの作品です。横方向に延びる白い筆の痕跡が上から下まで重なって、キャンヴァスを埋めています。描く素地にはリネン布が使われていて、褐色(ブラウン)の色合いを帯びています。そこに上から完全に塗り潰すのではなく、微妙な隙間をもたせながら塗っていますね。
ここからは私の憶測ですが、油絵具のホワイトを油抜きして少し硬めにして筆で描く際の筋状の凹凸を強調しているように思われます。その線状の凹凸と隙間から見えている地色とのコンビネーションが面白い作品です。
続いては、
作品のサイズが2メートル余りのほぼ正方形のリネン布の上に、白っぽい油絵の具を短いストロークの筆跡で画面全体を覆っています。ですが、画面四辺の端は塗り残しがあって素地が見えています。これは前出のMoMAにある作品『untitled』に見られる「少し塗らない部分を残す」点が共通していますね。
また面白いのが、パリのポンピドゥーセンターHPのクレジットに「Techniques Huile sur toile de lin, 4 attaches métalliques リネンに油彩、金属クリップ4個」との記載があります。この左右に2個づつ取り付けられている金具も作品の構成要素としている点が面白いです。
(下線部引用:Centre Pompidou HP)
(※画像引用元では同作品の異なる向きでの画像が記載されている)
こちらは先ほどご紹介した作品『untitled』(1965年)と同じニューヨーク近代美術館所蔵の作品です。描かれているベースはほぼ48センチの正方形の「紙」ですが、薄い褐色の素地に白っぽいガッシュ(不透明な絵具)が四角い形状で塗られています。さらに鉛筆の黒い線で四角くで白いスペースを囲むように直線がひかれ、また、さまざまな鉛筆のタッチ(筆致)が描かれている繊細な表現の作品です。1991年制作なので比較的近作ですね。
2024年3月6日~7月1日の期間にフランス、パリのオランジェリー美術館で開催された「ロバート・ライマン、見るという行為」展で展示された作品の一つです。21センチの正方形なので、小品(サイズの小さい作品)ですね。その分、画像では筆跡による表面の凹凸などのテクスチャーがよく見えています。ご覧のように白っぽい絵具の層の下から他の色彩が見え隠れしています。また、描くというより画面に筆を押し付けたり、引っ掻いたりする痕跡が面白い画肌(テクスチャー)を生み出しています。よくミニマルアーチストとして取り扱われることの多い作家ですが、筆者の私見ですが、装飾的な要素を削ぎ落として表現の純化を方向性にする作家ではないと思います。特にこの作品や先出の『 無題 / untitled 』(1991年制作)の画面にはいろんな表情が含まれていて、そこに魅力を感じています。
ほぼ38センチの正方形の木材の板と枠の内側にキャンバスの素材である麻布が少し浮いた状態で配置されています。そこにうっすらと白っぽい下地塗りが施されていて、その上に青系と白の絵具の筆致が見えています。外側から内側に ①木枠→②画布→③下地塗り→④絵具の層という四角い素材の重なりがよく分かる作品です。この作品も小品なので、画像で麻布の周囲のほつれなど細部までわかります。麻布の下部にはRymanのサインが見えていますよ。
さて、いよいよ今回の作品です。
この作品は黒っぽい地色の上に白く明るい油絵具が画面全体に短いストロークで塗られています。またその塗る行為は何層にも重ねられています。筆跡が絵具の凹凸となるので作家の制作行為(筆の痕跡)がよくわかり、その果てしない繰り返しがある種の迫力をともなって見えています。この作家の画面に向かう、対峙する姿勢やスピリチュアリティー(精神性)がその迫力の根源のように感じます。
このロバート・ライマンの作品「クレスト」が観覧できる展覧会が、東京都中央区京橋にあるアーティゾン美術館の 『空間と作品』展です。
この展覧会サイトのトップページには「この作品はどこで展示され、誰が愛し、なぜ今ここにあるのでしょう?」とのキーワードが表示されています。本美術館のコレクションのうち、江戸時代の仏師、円空の仏像や円山応挙の襖絵、イタリアのデザイナーエットレ・ソットサスの家具など展示品にバリエーションがあって、このコラムでこれまで取り上げている作家、クロード・モネ、ポール・セザンヌ、コンスタンティン・ブランクーシ、パブロ・ピカソの作品も展示されています。
展覧会情報
『空間と作品』展
会 期:2024年7月27日(土)~ 10月14日(月・祝)
場 所:アーティゾン美術館(東京都・中央区京橋)
公式HP:https://www.artizon.museum/exhibition_sp/place_and_piece/
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