
「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ㉑ ― ジュアン・ミロ 《 lucero del alba ( 明けの明星) 》 について
ジュアン・ミロ 《 lucero del alba(明けの明星)》 について
専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。
『ミロ』という名前の画家をご存知の方も多いのではないでしょうか。ジュアン・ミロ(「ジョアン・ミロ」との英語での呼称が一般的ですが、ミロの出身地スペインのカタルーニャ地方での呼び方にします)はスペインの代表的な画家の一人で1893年スペイン・バルセロナ生まれ。画面に自由闊達な筆使いで描くミロの画風は国際的に大変人気があります。また印象派やフォーヴィスム・キュビズムというその時代の絵画の潮流も自身の画面に反映しながら、ミロ独自のスタイルを確立していきます。

【ジュアン・ミロ Joan Miró 『 太陽 / The Sun (El sol) 』1949年 126.3×191.2cm カンヴァスにスクリーンプリント MoMA (The Museum of Modern Art,New York) ニューヨーク近代美術館蔵 / NY, 米国】 ※画像引用元:ニューヨーク近代美術館HP
こんな作風の絵画をご存知の方もいらっしゃると思います。この作品は縦120㎝余り、横幅190㎝余りの大きさの画面に自由でのびやかな線と明確な色面とで構成されていて、独特なリズム感が伝わってきます。第二次世界大戦が終わって4年後の1949年に制作された作品です。
ではミロが辿ってきた絵画の変遷を駆け足で見ていきましょう。
まずは…

【ジュアン・ミロ Joan Miró 『 農園 1917-1919 / The Farm 1917-1919 』1917-1919年141.3×123.8cm カンヴァスに油彩 National Gallery of Art ナショナルギャラリー蔵 / Washington,DC ,米国】 ※画像引用元:ナショナルギャラリー HP
ほぼ正方形の画面の背景は青系の空と褐色系の農地の2つの分かれて、中央にはその空と土地を繋ぐように1本の樹木が配置されています。また左右に農家があって、右側には遠近法による長方体が見えており、ウサギなど飼育されている家畜が描かれています。樹木の根元の黒い円と右上の空に浮かぶ月は互いに呼応しているようです。農地は直線状に分割されていますね。写実的な中に「分解・再構築」といったいわゆるキュビスム (Cubisme:1910年代に世に知られるようになった現代美術の一つの動向) の要素が画面に収められています。
(※下線部については、美術のこもれび(第7話)『パブロ・ルイス・ピカソ作の一枚の絵『緑色のマニキュアをつけたドラ・マール』について』に記述されています)

そして、作風の異なるこちら

【ジュアン・ミロ Joan Miró 『 ヘリベルト・カサニーの肖像(運転手)/ Portrait of Heriberto Casany (Le chauffeur) 』1918年 70.2 x 62cm カンヴァスに油彩 Kimbell Art Museum キンベル美術館蔵 / Fort Worth,テキサス州 米国】 ※画像引用元:キンベル美術館 HP
黄色い壁面の前に椅子に座る男性はシルクハットを被りポーズをとっています。その衣装には先に紹介した『農園 1917-1919』にも見られた連続模様が描かれています。しかしこの作品を描いている筆のタッチは力強く色彩はより大胆になっています。私はこの作品にフォーヴィスム ( Fauvisme『野獣派」) の傾向を見出しました。また壁に掛かった車の絵の描写にはミロのこれ以降の抽象性の一端を感じます。
(※下線部『美術のこもれび(第10話)『アンリ・マチィスによる『ヴァンス・ロサリオ礼拝堂』について』に記述されています)

ここで、フランスの画家、アンドレ・ドランが1905年に制作した絵画『アンリ・マチス』を参考作品としてご覧ください。アンドレ・ドランが親交のあったマチスの肖像を描いています。この画家もそしてマチスもフォーヴィスム運動の担い手でした。荒っぽい筆致と感覚的な色彩で描かれているこの作品にミロの『ヘリベルト・カサニーの肖像』にも共通性が感じられます。
【参考作品】

【アンドレ・ドラン André Derain 『 アンリ・マチス / Henri Matisse 』1905年46x35cm カンヴァスに油彩 Tate Gallery テートギャラリー蔵 / London,英国】 ※画像引用元:テートギャラリー HP
さて、続いては…

【ジュアン・ミロ Joan Miró 『 女性、鳥、星(ピカソへのオマージュ)/ Femme, oiseau, étoile (Homenatge a Pablo Picasso) 』1966 – 1973年 245 x 170cm カンヴァスに油彩 Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofía レイナ・ソフィア美術館蔵 / Madrid, スペイン】 ※画像引用元:レイナ・ソフィア美術館 HP
こちらはよく知られるミロらしい作風の作品ですね。収蔵するレイナ・ソフィア美術館のサイトでの解説ではミロとピカソの二人は「兄弟のような友情を育んでいた」とあり、「友人が亡くなった日にこの大きなキャンバスを完成させました」と記述しています。
自由でのびやかに引かれる細い線と、線に分割された色面が大胆に構成されています。ここではモチーフを立体的に描かれず、抽象化とともに構図として絶妙なバランスが図られています。背景のほか色面に見られる筆跡にミロの息遣いが伝わってきます。キュビスムやフォーヴィスムなどの絵画の潮流を経た故にミロ自身がこうした表現に辿り着いたのでしょう。
さて、最後に今回の作品です。

【ジュアン・ミロ Joan Miró 『 明けの明星 / lucero del alba 』1940年 38 x 46cm グアッシュ、油彩、パステル・紙 Fundación Joan Miró ジュアン・ミロ財団 / Barcelona,スペイン】 ※画像引用元:東京都美術館『ミロ』展 HP
夜が明けようとする東の方角の空に見える明るく輝く金星をさして「明けの明星」と言います。
パステルで描かれているのでしょうか、淡い彩色が用紙表面の凹凸による掠れたテクスチャー(画肌)を見ることができます。
この作品、38×46cmという大きなサイズではない画面に細い線と線が交わりあったり、重なったり、分断したりと闊達に色々な図形を織り成しつつ絡まり合っています。それが観る者にさまざまなインスピレーション(感応)を想起させます。漠然とした色合いの背景と明快な黒い線の運動とが絶妙に画面を築き上げています。
この『明けの明星』実物を観ることができる展覧会が開かれます。
この展覧会はJR上野駅【公園口改札】から出て徒歩10分。上野動物園に並んだ美術館での開催です。
少しづつ春の暖かさを感じる3月から開催されます。『明けの明星』など「ミロの世界」を満喫しに出かけましょう!
展覧会情報
『ミロ』展
会 期:2025年3月1日(土)~7月6日(火・祝)
場 所:東京都美術館(東京都・台東区上野公園内)
公式HP:https://miro2025.exhibit.jp/

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