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蜃気楼のようなアート・ポップ・メイカー、Julia Holster ― クリエイティブ圏外漢のクリエイティビティを感じる何か…〈vol.39〉

おはようございます。こんにちは。こんばんは。

GWも終わり休みが恋しくなっている方も多くいらっしゃるかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか?

何でもGW明けは退職代行の依頼が急増するらしく、記事をご覧の皆様も退職(学)代行をせずに日々の業務や勉学などに邁進されていれば幸いです。

今年のGWは子供をつれて実家に帰り、のんびり過ごしてました。実家に帰る度に自分の部屋の書棚にある雑誌を眺め過去のトレンド、著名人の若い時代の発言、あらゆる芸術作品の雑誌掲載時の新作などを “未来人視点で” 振り返ることをささやかな楽しみにしています。

そんな “未来人視点で” 2012年ele-kingを読んでいたら、2024年に購入したレコードでトップクラスで好きな作品を作ったアーティストがまだ新人で出ていて、しかも自分と同じ年齢だった事実が発覚しました。

“未来人視点で” 余裕ぶっこいていたら “過去の自分からの未来の自分へのメッセージ” と思わせるちょっとしたタイムトリップ感を感じた、アーティストと作品についてご紹介いたします。

Julia Holsterという豊饒な迷宮

今回ご紹介するJulia Holterは1984年L.A. 生まれ。カリフォルニア芸術大学で電子音楽と作曲を学び、2011年のデビュー作『Tragedy』から一貫して “夢と記憶の編集者” としての顔をみせてきた。

古典文学や映画、都市の雑踏までをサンプリングし、蜃気楼のようなアート・ポップを形づくる彼女の武器は、訓練された声と自在に組み替えられる作曲術だ。

アンビエントの静謐、実験音楽を脱構築した作品など玄人好みしそうなのだが、POPセンスも兼ね備えているため親密さをも内包している。

『Ekstasis』(2012)や『Loud City Song』(2013)でロサンゼルスそのものを楽譜に、そして『Have You in My Wilderness』(2015)では “透明なバロック” とも形容された室内楽的ポップを提示した。

2018年の大作『Aviary』では、12世紀の詩篇と電子ノイズを同じ呼吸で混ぜ合わせ、混沌の時代の精神史を90分の音響叙事詩に封じ込める。

その後、パンデミックと出産を経て辿り着いたのが、今回紹介したい2024年の作品『Something in the Room She Moves(以下SITRSM)』です。

『SITRSM』誕生の背景

『SITRSM』という奇妙なタイトルは、ビートルズ「Something」の仮題 “Something in the Way She Moves” をもじったものだという。

しかしJuliaは“way”を“room”へと置き換え、対象を外側の“仕草”から、より内側の“空間”にスライドさせた。
そこには、彼女が2023年に出産した第一子を抱きながら感じた “部屋の気配” ──生まれたばかりの命が揺らす空気──を写し取る意図がある。

パンデミックで閉ざされた家の内部、母と子の穏やかな時間、そして同時期に失われた親族への追悼。

それらが相互に干渉しながら、アルバム全体に柔らかな湿度を与えている。本作収録の「Evening Mood」は、フレットレス・ベースのベースラインと鼓動のようなドラムによるリズムセクションに大胆なフィルターをかけ、その上をJuliaの煌めくような歌声にクラリネット、鮮やかなプロフェット・パッドがおよび回る。

この湿度を感じるどころか「水中」のようなプロダクション・スタイルは、実は彼女の娘が大好きだったスタジオジブリの映画『崖の上のポニョ』からヒントを得たものだという。Julia Holter 曰く、

生き物の変幻自在さがインスピレーションになってる。
そして、その変幻自在さが私たちの愛の能力と
どのように作用するということに。
すべてを液体のように表現したかった。
まるで体の中にいるようなサウンドにしたかったの。

とのことだ。

ポニョからの着想された曲だけでなくアルバム全曲素晴らしいので是非作品を通して聴いていただければ!

『SITRSM』Spotifyリンク

また過去の雑誌を開くことでの新たな発見もオススメです!

文・写真 北米のエボ・テイラー

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