ダミアン・ハースト <桜>の魅力とは?

国立新美術館で現在開催されているダミアン・ハースト<桜>。
著名なアーティストの国内初の個展という話題性や、春の訪れに合わせたプロモーションが功を奏し、コロナ禍に「美術館でお花見」が出来る展覧会はSNSでも話題となった。
5月末まで開催されている本展を、ハーストの経歴とともに解説していく。

ダミアン・ハーストについて

イギリスを代表する現代アーティスト。
彼の有名な作品と言えば、90年代前半に発表した動物の死体をホルマリン漬けにした「Natural History」シリーズだ。
ロンドンのガゴシアンギャラリーでは現在、これら代表作の展示が開催されている。
https://gagosian.com/exhibitions/2022/damien-hirst-natural-history
センセーショナルな作品は話題となり、このシリーズがきっかけでハーストは1995年にイギリスの現代芸術に貢献した者に贈られる、ターナー賞を受賞した。

生死をテーマにした作品が多いハーストだが、インパクトのある立体作品以外にも絵画やドローイングなどを通してミニマルな作風にもチャレンジしている。
2012年にロンドンのテート・モダン美術館で行われたハースト大解雇展のインタビュー映像も残っている。
https://www.youtube.com/watch?v=YWSb9QMlLoQ
カラフルなドットを全面にあしらった「スポット・ペインティング」シリーズが、今回の桜シリーズの制作へと繋がっていく。

<桜>について

2019年に制作された本シリーズは、2021年パリのカルティエ現代美術財団で初公開された。コロナから時間が経過し、徐々に人々が現実に戻るタイミングに合わせて展覧会を実施したいという狙いは成功し、日本でも桜の開花に合わせた巡回展の開催へと到った。

107点の連作の中からハースト自身が選んだ24点で本展は構成されている。会場に入って感じたのは、厳選された大型絵画と展示空間の不思議な心地よさだ。
美術館の天井の高さと、壁面に飾られる絵画たちは、都心で人が集まりながらも心落ち着ける異空間となっている。これだけ少ない作品数で贅沢に空間が使えるのも、ダミアン・ハーストだから為せるのだろう。
また会場内は、順路が明確になく、回遊できる構成になっていることも特徴的だ。お花見のように、鑑賞者が目についた好きな絵画を好きなペースで見てまわることができる。この構成はパリでも同様らしい。

作品に近づくと、たっぷりと付けられたペンキが立体的に盛り上がっており、遠目で見た時と近づいて見た時とでは印象が変わる。
日本人に馴染み深い、繊細で儚い桜とは対極にある複数の色で桜を表現した「けばけばしさ」が印象に残る。日本人の桜の感覚とは異なるが、その過剰さも含めて、色彩感覚や美しさが国外で高く評価されたそうだ。
桜に宿る美や死や生といったテーマは、これまでのハーストの作品ともリンクしている。梶井基次郎の『桜の樹の下には』さながら、美しさゆえの不穏さも感じ取ることができる。

展示会場では、インタビューとともに本作の製作の様子も公開されている。(映像は公式サイトからも確認ができる)
ハーストは大きな壁面のキャンバスにペンキを投げつけるようにして色を載せる。葉はスタンプで押し付けて、それをいくつもコピーしていく。パッと浮かぶのはジャクソン・ポロックの作風だ。映像で見ると非常に身体的な表現だということがわかる。ハーストによると、具象と抽象どちらにも寄らない作品を作りたかったとのこと。ゴッホやボナールの影響もあるそうだ。

ちなみにダミアン・ハーストは、新作やオークションに出された作品が最も高価格帯で取引されるアーティストとしても有名である。
桜シリーズの発売も先日発表されたが、なんとその額1点308万円。
https://buy.and-art.co.jp/blogs/news/damien-campaign

東京の展示会場では、本物のお花見のように幅広い年齢層が訪れて写真を撮っていた。
桜の季節に満開の絵画を見るシニシズムもハーストらしいが、現実の桜が見頃を過ぎても、絵画は何ひとつ変化しないことを楽しむのも本展示の面白みだろう。
賑わいのある春の風物詩が来年には完全に戻ってくることを願いながら、今だけの非日常を体感してみてほしい。

開催概要

期間:2022年3月2日(水)~5月23日(月)
毎週火曜日休館 ※ただし5月3日(火・祝)は開館

開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

会場:国立新美術館 企画展示室2E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2

主催:国立新美術館、カルティエ現代美術財団

展覧会URL:https://www.nact.jp/exhibition_special/2022/damienhirst/

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