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追悼「時間の革命者」D’Angelo クリエイティブ圏外漢のクリエイティブを感じる何か……vol.45

おはようございます。こんにちは。こんばんは。

極私的なエピソードから導入することをご容赦願いますが、先日私は音楽好きの友人とご飯に行きました。

その時の話題は、『罪人たち』というブラックミュージックに関する映画について。作品のすばらしさを語り合っていました。

そこから派生して話題の中心軸は現代のブラックミュージックの歴史に移り、前回の記事で取り上げたDijonの話を持ち出しました。

「……DijonもD’Angeloの影響下にある」

音楽好きがレファレンスとして持ち出しがちなこの寡作なアーティストのことを、酒席にもかかわらずまたしても引用してしまった。そう反省しつつも楽しく飲んでおりました。

翌日の10/15にSNSで、現地時間で10月14日(火)、D’Angeloが急逝したことを知りました。享年51歳とのこと。

この2025年にはスライ・ストーンも旅立っており、すぐ後を追うようにD’Angeloの訃報。

あまりの衝撃にニュースにニュースをスクロールする指が重くなるかと思いきや、SNSでのR.I.Pフラッグを一通り読み漁っている自分が。音楽ライターや関係者の発言に始まり、菊池成孔の名弔辞、盟友・クエストラブによる追悼文(奇しくも両者は彼の短命を予期していた)……。11月になってもなお、D’Angeloを追っかけて続けています。

祝祭のあとの静けさみたいな秋の夜長。彼のつくった3枚を改めて順番に聴き返し、ふと気づきました。

「あ、この人は “時間” を作ってたんだ」と。

今回ご紹介するのはD’Angeloと彼の歴史的名盤たちです。

D’Angeloという “時間の革命”

ゴスペルで育った喉。70年代ソウルの語彙。ヒップホップ以後の耳。三つ巴の文法を演奏のタイム感で再溶接したのがD’Angeloでした。

クリックやクオンタイズから少しはみ出す “もたれ” “ズレ” を、欠点ではなく官能に変えてしまう。結果、R&Bの身体は再び呼吸をはじめ、私たちは音の中で「間に合わない幸せ」を知ることになります。

■D’Angelo略歴
D’Angelo(Michael Eugene Archer, 1974年2月11日–2025年)。
リッチモンド生まれ、教会のオルガンとゴスペルで耳を鍛える。
10代でソングライターとして頭角を現し、
DeVante SwingのDa Bassment時代を経て、
1995年『Brown Sugar』でデビュー。
ザ・ルーツ/エリカ・バドゥ/コモンらとソウルクエリアンズを形成し、
2000年『Voodoo』でR&Bのタイム感を刷新。長い沈黙とツアーを挟み、
2014年『Black Messiah』で劇的復帰しグラミー受賞。
ベース/ギター/鍵盤を自奏するマルチ奏者で、
スタジオとバンドを横断し“人間のタイム感覚”を提示。

晩年はThe Vanguard名義で活動し、各地のステージと断続的セッションで新曲を温めていました。プリンスやスライの系譜を継ぎつつ次世代へ火を渡しました。

三作でわかる/彼の物語

『Brown Sugar』(1995)— ヒップホップ以降のソウル。打ち込みのビート感覚を抱えたまま、70年代のブラックミュージックの温度感で歌がほどける。

ヒップホップ・R&Bを経過しつつも芯はソウル。D’Angeloは嫌がっていたが「ネオソウル」の金字塔的作品。

「Brown Sugar」

「Cruisin’」

 

「Lady」

『Voodoo』(2000)— “人間的なズレ” を美に昇華

クエストラヴのわずかに後ろへ倒れるドラム、ピノ・パラディーノの弾力、アナログ志向の録音。J・Dilla以降のズレと、人力の揺れが同じ部屋で深呼吸する。今作でR&Bのうねりが決定的に更新された歴史的一作。

「Untitled (How Does It Feel)」

「Playa Playa」

「Spanish Joint」

『Black Messiah』(2014)— 祈りが街と歴史を動かす

ファーガソンの空気を吸い込んだ歌は、官能と怒り、慈愛と抵抗を同じ声帯で鳴らす。特定の個人ではなくグループの連帯感をアナログで身体性をもった社会に訴えかける楽曲群は個の身体から集団、そして社会に対して運動を起こす作品。

翌年リリースされるケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』の収録曲がBLMのアンセムになったがその歴史的運動の大きな火種と言っても過言ではない。

「Ain’t That Easy」

 

「The Charade」

 

「Really Love」

D’angeloへの/からの影響で見る一本の糸

プリンス

多重コーラスの設計美、官能とスピリチュアルの同居。D’Angeloの『Untitled』の “敬礼” はプリンスに向いています。プリンスの「She’s Always In My Hair」も、彼は愛情深くカバーしました。

スライ・ストーン

共同体のファンク=祝祭の設計。Electric Ladyに人が集い、ソウルクエリアンズという“場”が生まれた背景には、スライの「皆で鳴らす思想」が流れている。

Dijon

部屋の空気ごと録ってしまうローファイの親密さ。ノイズを含んだ断片の快楽。プリンス→D’Angelo→Dijonとたどっていくと、一本の糸が見えてくるはず。

2025年の別れをどう受け取るか

スライ・ストーンは色彩と共同体の夢をサイケデリックに塗り替えた人でした。彼の訃報の余韻が消え切らないうちに、D’Angeloが逝く。

さらに今年はロイ・エアーズ、ロバータ・フラック、ブライアン・ウィルソン、そしてアンジー・ストーン……。音楽の礎(いしずえ)だった人たちが、静かに次の部屋へ移っていきました。

彼らの系譜そのものが祝祭だと確認するために、私たちはまたレコードを裏返すのだと思います。音楽史だけでなく歴史自体も動かしたD’Angeloの楽曲群を思い思いに聴いてみてください。

彼の官能的なズレやうねりはあなたをきっと動かすはずです。

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