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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑭ ― 『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館』展について

東京都美術館 『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館』展について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

このコラムで『印象派』と呼ばれる画家たちを何度か取り上げておりますが、このたび、東京・上野公園内にあります東京都美術館で、フランスを中心として広まっていった『印象派』がフランス以外の国々そしてアメリカにおいても展開されていたことを紹介する展覧会が予定されていますので、その中の6点の作品をピックアップしてお伝えしましょう。

さっそく、印象派を代表する画家のひとり、まずはこの作品をご覧ください。

クロード・モネ Claud Monet『 睡蓮 / Nymphéas 』1908年 94.8×89.9cm 油彩、カンヴァス ウスター美術館蔵 Worcester Art Museum / Worcester,米国 ※画像引用元:Worcester Art Museum HP

◇見どころ◇

モネといえば、睡蓮をモチーフとした絵画を数多く描いています。この作品もそうですが、印象派と称される画家の画面の特徴として、輪郭線をしっかり描かず、曖昧にする傾向が見られます。物の形をきちっと描かずに輪郭をぼかすことで、その現場の光、空気、時間のうつろぎといったことを描こうとします。タイトルは睡蓮であっても、描いているのは水面に浮かぶ物と映る物とを包む空気感であるとも言えると思います。緑から青のグラデーションに様々な色合いが混ざり合っています。

 

では次の作品を巡りましょう。

カミーユ・ピサロ Camille Pissarro 『ルーアンのラクロワ島 / L’Ile Lacroix, a Rouen』1873年 54.3×65.6cm 油彩、カンヴァス ウスター美術館蔵 Worcester Art Museum / Worcester,米国 ※画像引用元:Worcester Art Museum HP

◇見どころ◇

カミーユ・ピサロも印象派の画家として知られています。
ルーアンとはフランス北部の都市で、そこを流れるセーヌ川の対岸にラクロワ島があります。中世からの古都であり、先出のクロード・モネも『ルーアンの大聖堂』の連作を描いています。画面の中央から上下に分割して、上に曇り空、そして下にセーヌ川の川面を配置しています。川岸には一艘の船が描かれ、その上方には黒い汽船が航行しています。その奥に水平に橋がかかり、その左手に工場の煙突が立ち、煙が空に立ち上っています。ピサロはこの絵で自身の手前側に河岸の斜めのラインを引き、その先に遠望される橋を配置して見る者の眼を煙突へと、そして煙を使って広い空へと我々の視線をZ字に誘導している構図と見ることができます。
またこの絵画の描き方は後で登場する『点描画』に通ずる手法にも見えています。

※下線部引用:Wikipediaより

 

ここで、アメリカに渡った印象派絵画を見ましょう!

ジョゼフ・H・グリーンウッド Joseph H. Greenwood 『リンゴ園 / Apple Orchard』1903年 50.8×76.2cm 油彩、カンヴァス ウスター美術館蔵 Worcester Art Museum / Worcester,米国 ※画像引用元:Worcester Art Museum HP

◇見どころ◇

穏やかな早春の日差しに、緑色が鮮やかな牧草地に植えたれたリンゴの木に見事に花が咲いています。そこにフォーカス(絵の焦点)が当てられ、後ろの背景はぼんやりと描かれているのが分かります。このボカシ遠近法のような印象派以前の古典的な手法が垣間見られています。また空に浮かぶ流れ雲とリンゴの花の色調はまさに印象派を思わせます。この印象派+古典技法の共存が面白い趣を作り出しています。

 

もう1点、次は都市の情景です。

チャイルド・ハッサム Childe Hassam 『コロンバス大通り、雨の日 /Columbus Boulevard, rainy day』1885年 43.5×53.7cm 油彩、カンヴァス ウスター美術館蔵 Worcester Art Museum / Worcester,米国 ※画像引用元:Worcester Art Museum HP

◇見どころ◇

この作品は雨に濡れた大通りを1台の馬車が走り去ろうとしています。その馬車がフォーカス(焦点)されて、背景のレンガ色の建造物が空の明るさにシルエットしてぼんやりと描かれています。そこに等間隔に立つ街灯が遠くまで続き、この通りに遠近感をもたらせています。濡れた路面は雨雲の空の明るさを反映していて、それはモネが描く睡蓮の池の水面ような印象派の手法が用いられています。画面の左下、路面に溶け込むように作者ハッサムのサインが記されています。

 

次は印象派を牽引した画家、セザンヌの『習作』(別の絵のための試し描き)です。

ポール・セザンヌ Paul Cézanne 『「カード遊びをする人々」のための習作 /Study for Les joueurs de cartes (The Card Players) 』1890~92年 32.1×35.2cm 油彩、カンヴァス ウスター美術館蔵 Worcester Art Museum / Worcester,米国 ※画像引用元:Worcester Art Museum HP

◇見どころ◇

この絵はセザンヌが作品の一部分だけを描いた習作の油彩画です。セザンヌといえばこのコラムでも第4話で取り上げておりますが、彼の絵画は眼に見える光景をそのまま描写するのではなく、彼なりの構成を施して「絵画平面の空間」を作っているとご紹介しました。習作なので30センチ強の四角形の小品ですが、まさにそのプロセスが見られる作品として興味深いです。人物の帽子の頂点から左右に両肘をつなぐ三角形に、うつむき加減の顔・カードを持つ手・テーブル上のカードという視線誘導となり、空間性が秘められていて、ここに構成の美しさを秘めています。

 

最後に取り上げるのがこの作品。

ポール・シニャック Paul Signac 『ゴルフ・ジュアン /Golf Juan 』1896年 65.4×81.3cm 油彩、カンヴァス ウスター美術館蔵 Worcester Art Museum / Worcester,米国 ※画像引用元:Worcester Art Museum HP

◇見どころ◇

この作品を描いたのはポール・シニャック。このコラムでも第6話で取り上げている画家です。フランスの画家シニャックは当時の光学の進展による光の解析を絵画に取り入れた点描画法の画家のひとりです。印象派は積極的に外光(屋外)をカンヴァスに描きました。モネしかり、ピサロしかりルノアールもそう。そして写実的な技法から光をより光学的に捉えて描く点描画の画家はゴッホらとともに『後期印象派(Post-impressionnisme』と呼ばれています。

 

画面を改めて見てみましょう。中央にピンク系の背景と絡みあう地中海の明るい水色、手前の紫系の路面にほぼ補色(正対する性格の色)のオレンジを配色しています。眼を細めて見ましょう。明るい紫色が基調色だと分かります。その画面の上には緑とオレンジが点描によって共存しています。この色彩で埋まっている画面の真ん中に白のヨットが。この白は様々な色を反映して見えています。

この作品のタイトル『ゴルフ・ジュアン』とはこの展覧会の作品解説によれば、「作者シニャックが家を買い、ヨットを置いた南仏のリゾート地」と記されていました。

※下線部引用:『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』展HPより

 

今回ご紹介した作品全てが観覧できる展覧会がこちら『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』展。東京・上野にある東京都美術館で開かれます。(順を追って、各地で巡回展もあります)

1月27日から開催のこの展覧会、まさに印象派の幅広さが堪能できるであろうと期待して、上野公園に出かけましょう!

展覧会情報

『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』展

会 期:2024年1月27日(土)~4月7日(日)
場 所:東京都美術館(東京・上野)
公式HP:https://worcester2024.jp

 


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