『進撃の巨人』から『アベンジャーズ』まで。 “元ネタの宝庫” 北欧神話を学ぼう!
皆さんは「北欧神話」をご存知でしょうか?
主神オーディンや雷の神「トール」、神話界屈指のトリックスター「ロキ」、狂戦士を意味する「バーサーカー」、戦乙女「ヴァルキリー」、英雄「ジークフリード」、オーディンの持つ槍「グングニル」などなど……。ゲームをしたことがあるなら一度は聞いたことがあるこれらのワード、じつは北欧神話が「元ネタ」なのです。
大ヒットマンガ『進撃の巨人』の世界観にも影響を与えたり(始祖ユミル=北欧神話に登場する原初の巨人ユミルが由来)、マーベルコミックスの名作でありハリウッド映画も大人気の『マイティー・ソー』シリーズの設定に使われたことでも有名。主人公「ソー」は雷神トールの英語読みで、ソーが操るムジョルニアもトールの操る戦槌「ミョルニル」の英語読みです。
そのほか、アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』、マンガ『終末のワルキューレ』『ベルセルク』、映画『ロード・オブ・ザ・リング』、ゲーム『ファイナルファンタジー』などなど、たくさんの作品が北欧神話にインスパイアされています。
勉強すれば創作活動に役立つこと間違いなし。北欧神話の “厨二心” くすぐる世界観と、これだけは覚えておきたい8つの「頻出単語」をご紹介します!
文/内山慎也(写真家)・佐藤舜(編集部)
北欧神話とは?
さて、まずは北欧神話がどのように語り継がれてきたのかをお話したいと思います。
北欧神話はキリスト教化される前のノルド人の信仰に基づく神話で、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランドといった、今で言う「北欧」の国々で主に信仰されていました(ちなみに同じく北欧のフィンランドにはフィンランド神話という別系統の神話があります)。
古代の多くの神話と同じように、北欧神話にはこれが公式!という書物があるわけではありませんでした。長い間口伝えによって伝承されてきており、キリスト教社会になって200年ほど経った13世紀ごろに学者「スノッリ・ストゥルルソン」によって、『エッダ』という詩の教本としてまとめられたのが最初。このエッダという作品から引用された歌謡の形式もエッダと呼ばれるようになったため、区別して「新エッダ」「散文のエッダ」などと呼ばれることがあります。
マンガ・ゲーム理解に必須! 北欧神話の「頻出単語」8選
さてここからは、北欧神話の中でも特に作品の中で使われることが多い「頻出単語」を、解説とともにご紹介していきましょう!
世界樹/ユグドラシル (世界を支える樹木)
北欧神話の世界は、主に九つの世界(後述)に分かれていると言われています。これを体現するのが世界樹「ユグドラシル」と呼ばれる巨大な木であり、この木を中心に九つの世界が支えられています。人気ゲーム『ドラゴンクエスト』のアイテム「せかいじゅのは(世界樹の葉)」など、「世界樹」という言葉はどこかで聞いた覚えがあるかと思います。
ベルセルク/バーサーカー(狂戦士)
20年以上にわたり連載が続くマンガ『ベルセルク』(現在は急逝した作者・三浦さんに代わって、マンガ家の森恒二さんと三浦さんの弟子のみなさんが連載継続中)。
このベルセルクという言葉もじつは北欧神話由来で、「異能の戦士(超能力をもった戦士)」を意味します。元の北欧神話では、いざというときに熊や狼のような凶暴な獣になりきり、我を忘れて鬼神のごとく暴れ回るという、恐ろしい強さを誇る戦士として描写されています。
英語では、よりなじみ深い「バーサーカー(berserker)」と発音されます。バトル漫画にありがちな「アイツは戦いにすべてを捧げたバーサーカー(狂戦士)だ……」的なセリフも、元をたどればじつは北欧神話に行き着くのですね。
ワルキューレ/ヴァルキリー(生者と死者を選別する乙女)
強キャラや悪役に似合いそうな「ワルキューレ(別名ヴァルキリー)」という名前は、「戦場で生き残る者と死ぬものを選別する力」をもった乙女(または軍団)のこと。人気マンガ『終末のワルキューレ』のタイトルとして使われたほか、クラシック音楽ではリヒャルト・ワーグナーの『ワルキューレの騎行』という曲も超有名(聴いたら絶対わかる曲です)。
ちなみに最近では芸人の東野幸治さんが『ベイビーわるきゅーれ』という映画を激推ししていたのですが、これもとてもおもしろかったのでオススメです!
ラグナロク(最終戦争・神々の黄昏)
「ラグナロク」は、マンガやゲームのファンにはおなじみの「最終戦争」を意味する言葉。アニメ・マンガでは『終末のワルキューレ』、ゲームでは『ゴッド・オブ・ウォー』『ラグナロクオンライン』など、数々の作品に登場。中学英語で言えば「as soon as」級の超頻出単語ですね。
トール/ソー(雷の神)
マーベル映画『マイティ・ソー』の主人公としても採用された、雷の神。北欧神話に限らず、どの神話でも雷を操る神は強力に描かれています。これは雷の光や落雷の音、威力はもちろんのこと、雷が鳴ると天気が急激に悪化し雨が降る前兆であったためでしょう。
たとえばギリシャ神話の最高神「ゼウス」や、インド神話の雷と戦の神「インドラ」、日本神話の「武甕雷(タケミカヅチ)」などがこれにあたります。日本では雷は神鳴とも表記されたこともあり、神話とのつながりが感じられますね。とりわけ年間通して雨が乏しいギリシャでは恵の雨をもたらす雷神ゼウスは最高の地位を得ています(それ以外の地域では太陽の神が主神であることが多いです)。
ロキ(イタズラ好きの神)
マンガやゲームに使われることが多い「ロキ」という名前も、実は北欧神話が起源。アラサー以上の世代なら『魔探偵ロキ』というアニメに夢中になっていた方も多いかと思います。ロキは主神オーディンの義兄弟で、神話学でいうところの「トリックスター」、つまりはイタズラ好きの性格をもった神です。
アースガルズ/アスガルド(アース親族の世界)
先述の「九つの世界」のうち、北欧神話の中心となる神々アース神族の世界。主神オーディンの居城ヴァルハラが存在し、そこは偉大な戦士たちの魂「エインヘリャル」が集う場所でもあります。この戦士たちはオーディンに使える女性の使い、ヴァルキリーによって導かれ、やがて来る最終戦争「ラグナロク」において神々と主に邪悪な敵と戦うものとされています。
そのほかには、アース神族と敵対するヴァン神族の世界「ヴァナヘイム」、死を免れない人間の世界「ミズガルズ(ミッドガル)」、燃え盛る炎の世界「ムスペルヘイム」などが九つの世界に含まれます(ちなみに原典には「九つの世界はこれこれである」と明言されているわけではなく、内訳は一定しないのでご留意ください)。
この九つの世界=世界樹という概念はマーベル映画『アベンジャーズ』シリーズにもそのまま採用されています。マーベル映画の作品世界は「アスガルド」「ミッドガルド」「ヨトゥンヘイム」「ヴァナヘイム」「スヴァルトアルヴヘイム」「ニダヴェリール」「アルフヘイム」「ノルンヘイム」「ニヴルヘイム」の9つの世界によって構成され、ひとつの宇宙としてつながっているのです(この世界はMCU=マーベル・シネマティック・ユニバースと呼ばれる)。
ユミル(原初の巨人)
冒頭でも少し触れた「ユミル」は、大ヒットマンガ『進撃の巨人』の超重要キャラクター・始祖ユミルの名前としてもおなじみ。北欧神話でも、ユミルは巨人族の生みの親である「原初の巨人」として登場します。
ちなみにこの「ユミル」という言葉、日本でもおなじみの「エンマ(閻魔大王)」と同じ語源であるという説もあり(どちらもインド神話における人類の始祖「ヤマ」に由来する)、神話という世界の奥深さを感じさせられます。
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ネーミングやストーリー設定などに行き詰まったときは、これまでせにわたって膨大な創作物に影響を与えてきた “元ネタの宝庫” 、北欧神話の世界を紐解いてみてはいかがでしょうか?
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