お店をデザインするという仕事 デザイナーに必要な能力を身につける②
前回のお話
今回は、プロフェッショナルな店舗デザイナーとして、仕事の中で欠かすことの出来ないコミュニケーション能力について書きたいと思います。
はじめに
デザイナーとしてお店をデザインするには、当たり前のことですが、これからお店を始める人と出会い、話を聞くところから始まります。
一般的にデザイナーに仕事を依頼する立場の人を「クライアント」と言います。お店のオーナーさんや企業の担当者などの場合がほとんどです。クライアントから話をしっかりと聞いて、何をどうしたいのか理解できないと具体的なデザインに進むことは出来ません。
もしお互いのことを理解しないままデザインを進めてしまったら、デザイナーは自分の好きなデザインを押し付けてしまったり、思い込みや決めつけでクライアントの望んだものと全くかけ離れた提案をしてしまったりすることになります。勝手に描いたデザインが偶々上手く進むなんてこともあるかもしれませんが、それはプロフェッショナルとはいえません。
クライアントの意向に的確なデザイン、いやそれ以上のデザインで答える為には、一方通行ではなくコミュニケーション能力がとても大切なのです。
とは言え、コミュニケーションを深めようとしてもクライアントが、いつも明確な答えを準備してからデザインの依頼をして来るとは限りません。どちらかというと漠然としていることがほとんどです。デザイナーに何を求め、期待をしているのか、会話の中で巧みに聞き出したり、気づいていないことをさりげなく示唆したり、探りながらクライアントとデザイナーの頭の中をコミュニケーションによってシンクロさせ整理します。
相手がまだ持っていないパズルのピースを一個ずつ揃えて一緒に完成させるようなイメージです。また時には目的地を指し示すリーダシップのような立場を取ることもデザイナーには求められます。
私は、この一連のコミュ二ケーションの中で3つことを意識して整理することを心がけています。
○「ヒヤリング」話をよく聞いて意向を吸い上げ理解する。
○「シェア」必要なことの状況、優先順位を整理して共有する。
○「オリエンテーション」方向性を見出して目的を明確にする。
つぎに
では、どんな風に聞き出すかというと、店舗が前提なので「誰に何を提供するのか」ということを意識しながら、お客様の立場に成り代わってクライアントに質問することにしています。
例えば、飲食店のファサード(建物を正面から見たときの外観のこと)なら「お店に入る時、お客様は気兼ねなく入れる感じが良いですかね、それとも敷居が高くても入りたいと期待させるくらいが良いですかね」といった具合です。
こんな会話を通じて、すぐに答えが返って来る場合もあれば、考えてなかったけどどうしようとか、相手の状況がパズルのピースを持っているのかいないのかを判断して「では期待値を上げるデザインにしましょう」という方向性を提案し共有します。
また、感覚的なコミュニケーションでは、共通の体験があればクライアントとの距離はぐっと近づきます。お互いが知っているお店の話や写真をみて、そのことを相手がどう捉えているのか聞いてみたり、気になっているお店やイメージが近いと思っているお店を聞いて足を運んだり、普段からいろいろなアンテナを張り巡らせて情報収集しておかないと理解できないこともたくさんあります。
デザイナーは自分のスタイルを確立して高めることもできますが、様々な世代、ライフスタイルの人とコミュニケーションが取れる懐の深さがあれば、きっとデザイナーとして活躍の幅も広がると思いますよ!
次回③は、デザインの小ネタを集めるお話です。お楽しみに!
文・角 範昭
専門学校日本デザイナー学院90年卒。97年有限会社空デザイン開業。
小さな街の飲食店から大型フィットネスクラブまで現在までに1300店舗以上を手掛ける。