デザインの力でよみがえらせた、新しい銭湯のかたち。墨田区の下町銭湯【黄金湯】
1932年、墨田区に創業した銭湯「黄金湯(こがねゆ)」。黄金湯は、新たな銭湯のかたちを追い求めるため、2020年にフルリニューアルをしました。
「デザインの力でこんなに蘇らせることができるんだって思いました。」
そう話すのは、黄金湯オーナーの新保朋子さん。
新保さんに黄金湯のフルリニューアルの経緯や、幅広い世代の方に来てもらうアイデアを聞いてみました。
黄金湯のメンバー
黄金湯店主・オーナー:新保 卓也・朋子
ブランディング/クリエイティブディレクション:高橋 理子
内装設計:長坂 常
銭湯絵:ほしよりこ
大暖簾:田中 偉一郎
フルリニューアルの経緯
改装中に乗り越えた新型コロナウイルスの影響
私たちはもともと黄金湯から徒歩5分のところにある姉妹店・大黒湯の経営をしていました。ある日、当時の黄金湯の店主がご高齢により辞めるという話を聞きました。じゃあ私たちの方で引き継がせていただこうと思ったんです。
2018年に黄金湯を引き継ぎましたが、その後1年間は古いままでした。建物としては35年以上経っていたので、配管がつまってしまったり、床下が腐食してしまったり、、、大きな修繕がかかることが分かったので、それであればリニューアルをしてお客さまに喜んでもらえる銭湯をつくろう!と思い2020年にフルリニューアルしました。
2020年2月、リニューアルのためにお店を一度閉じたのですが、ちょうどその頃から新型コロナウイルスが出始めて、雲行きが怪しくなっていきました。そして5月になると行動制限がかかり、予定していたよりも工事費用が多くかかってしまったんです。この予算外の部分をどうするかということで、クラウドファンディングを利用させていただきました。目標金額の300万円は3日間で達成し、最終的には600万円を1000名以上の方にご支援いただきました。
若い世代にも「銭湯の良さ」を知ってもらうため、今までにない新しい銭湯に
黄金湯のブランディング/クリエイティブディレクションを務めたアーティストの高橋理子さんとはもともと知り合いでした。高橋理子さんと食事をしているときに黄金湯の改装の話をすると、「面白そうだし墨田区を盛り上げていきたいから」ということで力を貸していただけることになりました。高橋理子さんと銭湯のあり方について話を進めるなかで、「銭湯文化」を残すためにも大黒湯とはまったく違う銭湯をつくるべきだと決まったんです。
クリエイターがつないだ新しい出会い
新しい銭湯をつくるには、BLUE BOTTLE COFFEEなどを手掛ける長坂常さんに内装デザインをお願いするのが良いのではないかとなりました。暖簾(のれん)は美術家の田中偉一郎さんに、銭湯絵は漫画家のほしよりこさんに作っていただきました。田中偉一郎さんは高橋理子さんから、ほしよりこさんは長坂常さんからそれぞれ繋いでいただいたんです。
デザイン重視になると私たちは機能面が心配だったのですが、たくさんの話し合いを重ねて黄金湯を完成させることができました。みなさんの力があってのことなんです。
一番時間をかけたのは、「伝統的」を新しく変えること
姉妹店・大黒湯は築70年以上のザ・銭湯という感じです。若い世代の方や海外の方にもっと銭湯文化を知ってもらうため、黄金湯には何が必要なのか。そこが難しいところでした。
例えば、他はほとんど新しく変えたのですが、下駄箱はリニューアル前から使っていたものを残しています。下駄箱が昔ながらの良さを感じさせているんだと思います。このように昔からあるものを活かしながら、変えるところは変えています。下駄箱は木の素材にもこだわっているし、レトロさがかわいいので残したいなって。お客さまには新旧の融合と言われたりもします。
散りばめられた人を呼ぶためのアイデア
ロゴはサイコロをイメージしていて、黄金湯って書いてあるんです。このデザインには、どうふっても「目(芽)が出る」こと、「賽(災)を転じる」っていう意味もあります。また、ロゴを制作した高橋理子さんは、改装中実際に銭湯の複雑な配管を見ていました。この直線と曲線の組み合わせは、その銭湯を支えている配管をイメージしているんです。本当にいろんな意味が込められています。
改装を通してクリエイターの方たちと接するなかで、それが必要なのか不必要なのかとか、意味から考えたりとか、さまざまなことを細部まで考えているんだなと感じました。そして、デザインの力でこんなに蘇らせることができるんだって思いました。
この提灯もほぼ出来上がった状態で長坂常さんが「色を変えよっか」って言ったんです。
下駄箱ももっと茶色だったのですが、長坂常さんが「これは磨かないとだめだよ」って。なので、すべてやすりで磨きました。そういう「細かさ」が効いてるんですよね。クリエイターさんたちってほんとにすごいなって感じました。
銭湯絵にはわびさびがあって、黄金湯から生まれた人の一生が描かれているんです。また、男湯側には犬が、女湯側には猫が描かれていて、人と一緒に成長している姿を見ることができます。
脱衣所には、男湯側が「お~~~」で、女湯側が「~~~い」という暖簾があります。
これにも意味があるんです。昔、銭湯に家族やカップルで来て「おーいでるぞー」と掛け合いをして、出るタイミングを呼びあっていました。あとは石鹸を共有してて、「おーい石鹸」って投げたりとかして。その「おーい」が暖簾になっています。
改装前にレコード好きなスタッフからフロントでかけてもいいですか?と聞かれて、 レコード を流し始めました。レコードを聴いたお客さんが懐かしいと喜んでくれて、「うちにも眠っているのがあるから」と持参いただいたレコードをかけたりもしていました。そうすると脱衣所で歌いながら着替える方がいたり、お風呂上りに若い方が「これなんですかね?」とおじいちゃんに聞いて「レコードだよ知らないの?」って会話が生まれたり、音楽からコミュニケーションが生まれることがあるんです。
銭湯は赤ちゃんから90歳ぐらいの方まで、幅広い世代のお客さまが来てくれて、接点が生まれやすい場所なんです。お湯や音楽を通して自然と会話が生まれるというのは素敵なことだし、銭湯だからできることなんだと思います。だからDJブースを大切にしていて、1台から2台に増やしました。
コガネキッチンラウンジでは、おいしい料理やドリンクを楽しむことができます。時には、イベント開催やギャラリーなど、多目的スペースとして機能しています。
さいごに黄金湯はどんな場所でありたいですか?
黄金湯にきたみんなが交流して、お風呂をとおして笑顔になって。
いろんなコミュニケーションが生まれたらいいなと思います。
文:PicoN!編集部 木下
写真:PicoN!編集部 奥
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