広美苑 page.1 「光沢感バイアス」

デザインやアートにまつわる用語を紹介する企画「広美苑」。

第1回となる今回、取り上げる言葉は〈光沢感バイアス〉。覚えておくとデザインに役立つこの用語について、アートディレクター・縄手和弘先生の解説も交えながら理解を深めましょう。

解説/縄手和弘
文/編集部 佐藤

人間は光沢感(=ツヤツヤ・ツルツル)を好む

〈光沢感バイアス〉とは、文字通り、人間が「光沢感」のあるものを好む傾向(バイアス)のこと。

たとえばツヤツヤの髪、ツルツルした車のボディ、なめらかなシルク、フルーツの断面に輝く果汁、雨に濡れて光る路面……などなど。光沢感のあるビジュアルって、なにか私たちの心をくすぐるものですよね。デザイン用語で言う「シズル感」※にも近いものがありそうです。

つやつや光輝くものは魅力的に見える。デザインの引き出しのひとつとして、この〈光沢感バイアス〉を覚えておきましょう。

※シズル感……食欲や購買欲がそそられるような、ビジュアルの魅力のこと。特に、食べ物の写真やポスターなどで使われることが多い言葉。

ちなみに一説によると、〈光沢感バイアス〉は人間の生存本能によって生まれたものであるとも。デザイン心理学に精通するデザイナー、ウィリアム・リドウェル氏らによる著書では、次のように解説されています。

水源を見つける能力をもつことは、初期の人類が環境に適応するうえで有利だった。物体の表面に光沢が認められるのは、近くに水源があるしるしだ。
(出典:William Lidwellほか,『要点で学ぶ、デザインの法則150 Design Rule Index』)

光沢は、人間の生存に欠かせない「水」の存在を示すサイン。だからこそ人間は、光沢感に惹きつけられる傾向をもつよう進化した――という仮説です。それだけ〈光沢感バイアス〉には、人間の本能に訴えかける強い力があるのかもしれませんね。

アートディレクターの見解を聞いてみよう!

この〈光沢感バイアス〉について、パッケージデザインなどを数多く手がけるアートディレクター・縄手和弘先生はどう考えるのでしょうか? 見解を伺ってみましょう。

Q. デザインに光沢感(=ツヤツヤ・ツルツル)を取り入れると、どんな効果が生まれますか?

縄手) 視覚的に「映える」というのがひとつです。たとえば店頭に並んだとき、パッケージに光沢があることで顧客の目に留まりやすくなる。つまり店頭映えしやすくなる、という効果は生まれるでしょう。人は本能的に光に惹きつけられ、輝いているものにはつい目が行ってしまうからです。

グラフィックデザインの基本要素は、「形態」「色彩」「書体」「質感」の4つであると言われています。光沢感はこの4つめの「質感」に該当するものですから、デザインにおいても普遍的な要素のひとつでもあると言えるでしょう。

ではそもそも、人はなぜ光沢のあるものに人間は惹かれるのでしょうか? 個人的な見解としては、その理由は「光」というものの重要性にあると思います。当たり前のことですが、光がなければものが見えず、周囲の様子を知ることができません。生物として生き残っていくうえで、光沢(=光)に惹きつけられるというのはごくごく自然なことのように思います。

ちなみに私はいま子育てをしていて、子どもの認知能力が日々、発達していく様子を間近で見ています。お母さんの子宮という暗闇のから生まれ出た子どもが、光という情報をキャッチし、かたちや色というものもだんだん識別できるようになっていく。あの過程を観察していると、「光輝くものが好き」というのは男女問わず、幼い頃から備わっている傾向のように思いますね。

一説によると、人間の子どもは2歳になっても、まだ十分には色を認識できないのだそう。でも、光り輝くものものにはちゃんと反応するんです。人間は、色よりもまず真っ先に光への感受性を獲得するんですね。

Q. 「光沢感」を活用したデザインの実例があれば、教えてください。

縄手) 先述のように、光沢には人の目を惹きつける力があります。かと言って、デザイン全体を光らせればいいとは限りません。むしろ全体が光っていると目立たないので、あえてマットな(光沢がない)部分をつくり、商品名など重要な部分だけに光沢を与えるのもテクニックのひとつです

たとえばこんなパッケージ。

このパッケージは「アルミ蒸着フィルム」という素材でできているんですが、この素材、普通に印刷すると自然と光沢が出てしまうんです。ですから、目立たせたい部分以外にわざわざマット加工をし、光沢を抑えることで、光らせたい部分を目立たせるーーという方法をとっています。

このほかには、金箔や銀箔のような「箔(ホットスタンプ)」も、光沢を出したいときによく使われる手法のひとつですね。洋服のタグなんかでも、ロゴマークが金色や銀色に輝いていることってありますよね。ああいうのはたいてい印刷ではなく、金属などを箔(薄く伸ばしたもの)にして押しているんです。金色や銀色のインクもあるにはあるんですが、それを刷っても光沢感は出ず、ただの黄色やグレーに見えてしまいます。ですから、インクより高価になってしまうんですが、光沢によるアイキャッチ効果を得るために箔を使う企業は多いです。金銀だけでなく、白や黒や赤など、さまざまな色の箔があります。

※注:箔には、本物の金や銀を使ったもののほか、アルミ等を着色した安価なものもある。

Q. 「光沢感バイアス」はどんなプロダクトに活用できそうでしょうか?

縄手) はっきりとお答えできなくて申し訳ありませんが、それは「コンセプトによる」と思います。先述のように、人間が「光に惹かれる」という本能をもつことは事実。しかし、何でもかんでも光らせておけばよい、というわけではない。たとえばオーガニックな商品のパッケージが金ピカに輝いていても、コンセプトには合わないですよね。商品によっては、光沢がマイナスの印象になる可能性もあるんです。

私が担当する学生からも「この作品、もっと光らせたほうがよかったですか?」といった質問をされることも多いです。「光らせておけばいい」のなら簡単ですが、実際はそうではない。広告目的や商品のコンセプトに合っているか? ターゲットの顧客が望んでいるのか? あらゆることを考え抜いたうえで、光沢がもたらす効果をちゃんと設計していくべきです。

確かに、「化粧品の広告だから光沢感を出しておこう」といった、世の中の傾向に “右に倣え” なデザインスタイルはなくはないのかもしれない。でも本来のデザインとは、そういうものではないと思うんです。

Q. 光沢などの「質感」を使いこなせるデザイナーになるには、どんな勉強をすべきですか?

縄手) いろんなものを生で見て、触ってみることが大事です。実際の商品パッケージなどを集めてみて、「こんな効果を狙って、この質感にしているのかな?」といった想像力を働かせてみること。私も商品のタグをたくさん集めていて、質感の参考資料として使っていますし、授業では学生に触ってもらったりもしています。

そもそも私たちは、普段からさまざまな質感に触れているはずなんです。それこそ商品のパッケージだったり、着ている服の素材であったり。しかしそういう質感の経験を、自分の作品に落とし込めない学生は多いです。質感に関しては、ネットやデザインソフトの画面上では学べず、印刷物などの現物が仕上がるまでわからない部分も多い。ですからさっきの4要素(色彩・形態・書体・質感)のうちでは、「質感」が一番難題かもしれませんね。

***

「光沢」が人の目を惹きつけ、アイキャッチなどの効果を発揮することは事実。しかし一番大事なのは、コンセプトや狙いに合ったデザインを表現すること。光沢感がもたらす効果を知り、さまざまなプロダクトにじかに触れて経験知を積み上げながら、デザイン4要素のひとつである「質感」を自在に使いこなせるようになりましょう。

解説・縄手和弘
アートディレクター。
広島県出身
1993 第45回 広島県美展入選
1994 専門学校 日本デザイナー学院 広島校 卒業
株式会社 アドリブ 入社
1995〜2003 PEACE WALL 東京と広島のクリエーターで
毎年8月6日にピースアートを発信 広島・長崎でグループ展数回
1998 株式会社 ポップコーン 入社
2000 フリーランス
2002 NAWA TEN 1 下北沢ギャラリーにて個展
2003 第30回青枢展準会員優秀賞
有限会社 アンチ 設立(現在に至る
2004 第31回青枢展優秀賞
NAWA TEN 2 原宿D.Fギャラリーにて個展
NAWA TEN 3 広島kobaにて個展
第31回青枢展優秀賞 2005 第32回青枢展審査員特別賞
NAWA TEN 4 神保町はるだんじにて個展
2006 第33回青枢展ターナー賞
2007 第34回青枢展韓国文化院長賞
2008 第35回青枢展東京都知事賞
2009 NAWA TEN 5 青山プロモ・アルテにて個展
第36回青枢展大賞
専門学校 日本デザイナー学院 非常勤講師勤務(現在に至る
2010 NAWA TEN 6 東麻布ギャラリーピノチカにて個展
2013 第40回記念青枢展審査員特別賞
2014 第41回青枢展文部科学大臣賞
2017 NAWA TEN 7 渋谷ギャラリールデコにて個展
2018 TOPPI & NAWA EXHIBITION サロンド・フルール南青山にて二人展
(東京都内でのグループ展数回)

(参考文献)
William Lidwellほか,『要点で学ぶ、デザインの法則150 Design Rule Index』, 2015年, ビー・エヌ・エヌ新社

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