お気に入りの一匹を探そう。『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』展ではじめる浮世絵入門
浮世絵にはさまざまな動物や妖怪が登場する。ペットとして親しまれたネコやイヌ、不気味な姿で人々を恐れさせた鬼や土蜘蛛。さらには、擬人化された動物たちや、思わず笑みがこぼれるユーモラスなキャラクターまで、その表現は実に多彩だ。
太田記念美術館で開催中の「アニマル&モンスター」展では、「かわいい」「怖い」「ちょっと変」をキーワードに、浮世絵に描かれた個性豊かな動物や怪物たちを紹介。人気作品から新収蔵品として初公開される作品まで、約140点が展示されている。
今回は内覧会に参加し、浮世絵初心者でも楽しめる本展の魅力を、PicoN!学生編集部とともにレポートする。
原宿の太田記念美術館では明日6/23(火)より「アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変」を開催いたします。前後期合わせて140点(前後期で全点展示替え)を展示。人気の作品から初出品の作品までお楽しみいただけます。詳しくは→https://t.co/A6pe89Spos pic.twitter.com/GxUZLHyzRg
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) June 22, 2026
原宿の喧騒の先に佇む、浮世絵の時間
JR原宿駅の表参道口を出ると、多くの人々が行き交う原宿らしい賑わいが広がる。流行のショップには若者たちが集い、修学旅行で来たと思われる高校生や、国内外から訪れた観光客の姿も目立つ。次々と新しいトレンドが生まれるこの街は、今なおさまざまなカルチャーを発信し続ける場所のひとつだ。
そんな活気に満ちた駅前から数分歩き、表参道沿いの喧騒を離れて路地へ入ると、街の空気は少しずつ穏やかさを帯びていく。その先に静かに佇むのが太田記念美術館である。
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1980年に開館した太田記念美術館は、東邦生命保険相互会社社長を務めた五代太田清藏が蒐集した浮世絵コレクションを基礎として設立された、国内でも数少ない浮世絵専門の美術館だ。現在は約15,000点のコレクションを有し、葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳をはじめ、浮世絵の歴史を彩る数々の名品を所蔵している。
館内では収蔵作品を中心に多彩な企画展が開催されており、風景画や美人画、役者絵といった王道のテーマはもちろん、現代的な視点を取り入れたユニークな切り口の展示も人気を集めている。専門性の高い内容を扱いながらも、浮世絵に馴染みのない来館者でも楽しめる展示づくりが同館の大きな魅力だ。
現代カルチャーの発信地である原宿の一角で、江戸の人々が親しんだ大衆文化に触れる。時代こそ異なるものの、「流行」や「表現」を楽しむ人々の姿は今も昔も変わらない。そんな思いを胸に、今回の展示会場へと足を踏み入れた。
かわいい、怖い、ちょっと変。浮世絵のアニマル&モンスター大集合
浮世絵と聞いて、どんな作品を思い浮かべるだろうか。
葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》や歌川広重の名所絵など、有名な作品の名前は知っていても、「なんだか難しそう」「美術の知識がないと楽しめない」と感じている人も少なくないかもしれない。
そんな人にこそおすすめしたいのが、太田記念美術館で開催されている『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』展だ。
本展の主役は、猫や狐、蛙といった動物たち、そして妖怪や鬼、龍などの怪物たち。浮世絵の中に描かれた個性豊かなキャラクターたちにスポットを当てた展覧会である。
会場を歩いていると、思わず笑ってしまうような表情の猫や、どこか人間らしい仕草を見せる動物たち、迫力満点の妖怪たちが次々と現れる。作品ごとに異なる物語やユーモアが込められており、浮世絵の知識がなくても自然と引き込まれていく。
可愛さあふれる動物や妖怪たち
PicoN!学生編集部:今回の展覧会テーマは、「動物と妖怪」。学芸員の方は、可愛い・怖いだけでなく、ユーモラスに描かれている作品を多く集めたと語っていました。
個人的に好きだったのは、歌川芳虎の『神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備(じんぐうこうごうさんかんせいばつのおんときかんひょうはかってうえたる とらをはなつ かんぐんもうきんをなげうちまたはいけどりてていらんにそなふ)』という作品です。
歌川芳虎「神功皇后三韓征伐之御時韓兵計飢虎追放官軍猛禽投撃亦生捕帝覧備」
多くの虎たちと兵が戦っているという殺伐とした場面を描いた武者絵のはずですが、大きな虎たちのもふもふしたお腹や肉球など、まるで猫を連想させるような可愛らしいポーズとのギャップが新鮮でした。ぜひ実際に足を運んで、虎たちの愛らしい「にこげ(柔らかい毛)」の質感を感じてみてほしいです。
擬人化された「人まねアニマル」
PicoN!学生編集部:浮世絵では、ネコやウサギ、タコといった動物たち、さらにはホオズキやカボチャのような植物までもが、まるで人間のような姿かたちに大変身しています。
歌川国芳「ほふづきづくし 八そふとび」
なかでもネコは蕎麦屋やウナギ屋、 銭湯など、さまざまなお店でくつろいでいる姿がたくさん描かれています。
この章では、様々な動物が擬人化されて描かれている浮世絵を見ることができます。 歌川芳藤の「しん板猫のあきんどづくし」では、猫たちが人間さながらの姿になって、町でさまざまな商品を売り歩いています。
歌川芳藤『しん板猫のあきんどづくし』
特に、シャボン玉売りに走り寄っていく子供の猫たちの姿は、可愛らしくて印象的でした。 小さな画面の中にたくさんの猫たちが描かれているので、よーく目を凝らしてみると新しい発見があったりします。ぜひ、お気に入りの一匹を見つけてみてください。
思わず「これなに?」と言いたくなる「ちょっと変」なキャラクター
浮世絵に描かれるのは誰もが知る動物や妖怪ばかりではありません。石から虎の手足と尻尾が生えた空想上の生き物である「虎子石」や、人間の顔をした人面魚、十二支が一つに合体した動物、 さらには、病気や薬、お金が人間の姿になったものなど、ヘンテコで不可解なキャラクターたちがさまざまに登場する。
落合芳幾「見立似たかきん魚」(前期)
浮世絵師たちの豊かなイマジネーションが満載。
約5分の1が新収蔵品
太田記念美術館ではこれまで「浮世絵お化け屋敷」や「江戸にゃんこ 浮世絵ネコづくし」、「浮世絵動物園」など、動物や妖怪をテーマに展覧会を開催してきた。今回の展覧会では、これまで人気の高かった作品はもちろん、まだ紹介していない初お披露目の作品も多数展示されている。
歌川国芳「木曽街道六十九次之内 京都 鵺 大尾」※新収蔵品
PicoN!学生編集部:「浮世絵」と聞くと少し難しそうなイメージがあり、あまり興味が湧かない学生も多いかと思います。しかし、カラフルで賑やかな錦絵には、現代の私たちにも通じるユーモアがたくさん散りばめられていました。今のアニメやゲーム作品でお馴染みの「擬人化」の手法や、イラスト・グラフィックデザインの参考になる秀逸な構図など、クリエイティブを学ぶ学生にとって刺激になる要素が盛りだくさんです。展示会場はコンパクトな造りで、気軽に鑑賞できるのも魅力です。しかし、一枚一枚の浮世絵に目を向けると、愛らしい動物やどこか憎めない妖怪など、個性豊かなキャラクターたちが画面のあちこちに描き込まれています。細部までじっくり眺めながらお気に入りの一匹、一体を探していると、気がつけば時間を忘れて見入ってしまいました。前期と後期で全点展示替えが予定されている本展覧会。後期にはどのような作品が並ぶのか、今からとても楽しみです。
『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』は8月23日(日)まで
《展覧会情報》
『アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変』
⽇程:2026年6月23日(火)~8月23日(日)前期 6月23日(火)~7月20日(月・祝)後期 7月25日(土)~8月23日(日)※前後期で全点展示替え
時間:午前10時30分 ~ 午後5時30分(入館5時まで)
会場:太田記念美術館(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10)
料⾦:一般 1200円 大高生 800円 中学生(15歳)以下無料
取材協力:太田記念美術館
取材/PicoN!学生編集部 中澤
撮影/PicoN!編集部 市村
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