【写真学校教師のひとりごと】vol.36 鈴木康久について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。

そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。


かれ鈴木康久はわたしの最初の学生である。
2年生の新学期、つまり4月にわたしが手にする初めての出席簿に鈴木の名前があった。
クラスには男4人女1人の計5人がいたが、その中の1人だ。

わたしは大学のあと日吉にある写真専門学校に行った。
その専門学校での先輩、樋口健二氏に「写真界に恩返しをしろ」という殺し文句で、この渋谷の学校に教師として配属されることになった。

わたしは祖父、叔父、従兄弟等親族に教員がいて、教師というものにまったく違和感のない環境に育った。ただ写真家としてこれから、という時期だったので、横道にそれるような気がして、躊躇するところがなかったわけではない。

この時代、写真を勉強するといえば、日大のほか、いくつかの写真専門学校があった。そして渋谷にあるこの学校の、報道科に配属された。もともと報道科には樋口ゼミがあり、そこに菊池ゼミをプラスしたという格好だ。

とにかくわたしの使命は1人でも数多く写真作家候補生を輩出することだと理解することにした。そのためには主人公である学生が、写真作品をそれなりのギャラリーで展示すること、と目標を定めた。

要するに当時わたしが、自分自身がやろうとしていたことである。

学生に「マイセルフ」とか「わが家族」とかいった課題をだしたり、「わたしの居住空間」といって、自分の存在している状況について考えたり、自分自身というものを意識、認識するように仕向けていたつもりだ。

そして「女の部屋」というタイトルの課題をだした。半年ぐらいたった2年生の年の暮れころ、まあそこそこそろったと感じたので、5人合わせて1グループとして、ニコンサロンに応募してみることをすすめた。面白ければ個人でなくてもグループでもいいだろう、と考えてのことだ。

これは様々な年齢、職業の女性を本人の部屋を背景に撮るというコンセプトだった。

1人で10枚、5人で50枚という計算だ。自然光、ライト、ストロボなど様々な光や、広角、標準など使うレンズもそれぞれ違う。

そしてこれが一番だが、5人の各々のモデルの女性に対する想いが異なるので、50枚近くの写真がいろいろバラバラで、それが思った以上に面白く感じられたので応募してみることをすすめたのだ。

そしてその翌月、授業中にニコンから学校に電話がかかってきた。選考をパスした、というのである。まだ若者専用枠もなかった時代だ。

通ると確信はしていなかったので、教室で学生たちと大騒ぎをして喜んだ。

わたしにとっては自分の写真が選考をパスしたような喜びだった。立場が違うとは言え、ニコンでの展示は経験がなかったのだ。グループ名を決めるようにニコンから指示されたので、まだ半人前という意味をふくめ、謙虚に酔惰驢鵜(ヨタロウ)と学生たちと相談して決めた。

ヤスさん、ヤスさんと皆んなから一目置かれていた鈴木康久は卒業時期というかなり重要な時間を、ニコンとの打ち合わせや、写真展にともなう5人分の雑用をグループ・ヨタロウの代表としてこなしきった。その結果、自分の就職についてなんら積極的な行動をとる時間がなくなってしまった。

鈴木は組織なりグループなど複数の人の集まりには、必要とされるタイプの男ではある。要するに自分を犠牲にしてまで、面倒をみる男なのだ。

このグループの中には後にわたしのアシスタントとして働く、勘はいいが少々短気で喧嘩早いヤツもいたが、かれもこの鈴木には一目おいてヤスさん、ヤスさんと言って慕っていた。

結局かれは集英社の系列のスタジオに就職し、現在は定年延長中である。

最後に現在の鈴木康久の作品を紹介する。

 


 

菊池東太


1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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