写真学生が追う「ゴジラの上陸ルート」
日本写真芸術専門学校に通う学生は、日々さまざまなテーマと向き合いながら撮影をおこなっている。
そんな中、公開から70周年になる日本初の特撮怪獣映画『ゴジラ』をテーマに卒業作品を制作した学生がいた。
「一作品のテーマとしてゴジラの存在はあまりにも大きかった」と語る泉沢七海さん(2024年4月NPI卒業)に作品への想いを聞いた。
3年間写真を勉強してきて、“それが好きだから”で終わらせたくはない
小さい頃スーパー戦隊がきっかけで特撮にのめりこんで、ゴジラ好き歴は10年くらいになります。
はじめは趣味で写真を撮りながら4大特撮(スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマン、ゴジラ)の聖地巡礼をしていたんですけど、撮った写真をいざ並べたら、ゴジラだけ異質なことに気付いて。
スーパー戦隊、仮面ライダー、ウルトラマンにはヒューマンドラマのパートがあるので、ヒーローたちと同じ目線に立った時の写真が撮れるんですけど、どうしてもゴジラとは同じ目線で街を見た時の写真が撮れないことに気付いたんです。
やろうにも空撮になってしまうんですよね。
ゴジラの目線で街を撮るのはどうしても難しいから、まずはゴジラの上陸ルートを辿ってみよう!辿ったらなんか見えるかもと思って。
いくつか撮った写真をゼミの先生に見せたら「まずは1周つづけてみろ」と。
それを繰り返していたらどんどん写真は溜まっていきました。
ゴジラをテーマにして撮り始めたのは、はじめは趣味の延長でしたが、撮影を重ねるうちに“写真作品”としてしっかりと終わらせたい気持ちが強くなっていきました。
シャッターを押すだけで写真は撮れるから、だからこそ難しい
写真学校に入学する前は、将来写真を仕事にしたいから仕事に活かせるスキルが学べればいいなと思っていました。でもいざ本格的に勉強してみたら、写真の表現の広さには驚きましたね。
シャッターを押すだけで写真は撮れちゃうからこそ難しくて、“写真の表現”というものをいつも考えながら撮っています。
ゴジラの上陸ルートを追うと見えてきたもの
ゴジラの上陸ルートを歩きながら最初は気になるものを撮っていました。そうすると、だんだんカメラが上を向いてきたんです。その時に、「ゴジラが見えてきたな」と思いました。
この写真は、一連の写真を見せるうちに先生からはじめて「これいいじゃん。ここにゴジラいるよ」と言われた写真です。
正直撮り始めた頃は迷っていて。最初は上陸ルートを辿って、“なんでゴジラはこのルートを歩いたのか?”をテーマにしようと思ってましたが、あまりにも難しくて。歩いても分からないし。
学者のレポートも読んだんですけど、答えが見つからずに…。
そんな時に先生から「ここにゴジラいるよ」と言われたから、“なんでこのルートを歩いた?”という視点からではなく、実際にルートを歩きながら撮影を重ねたことで、やっと“ゴジラがそこにいた”という存在を感じられるようになりました。
確かにそこにゴジラはいた。それは写真の力だと感じる
今回のテーマは私が特撮好きということから始まっています。レンズを向けながら上陸ルートを辿ることで、確かにゴジラの存在を感じました。
ゴジラは気の向くままに進み、気が済めば帰っていく。痛みを感じ、敵と見做したものを攻撃する…。私は彼こそが生命の塊、人間の写鏡ではないかと考えます。
世界中の人に愛され続けているゴジラはすでに、それぞれの”ゴジラ観”が形成されています。戦争へのアンチテーゼと言われていたり、災害的なイメージがあったり…。
私はそれぞれが持つゴジラ観を否定するつもりはありません。ただ、今回の作品を通してゴジラを考えるきっかけのようなものになってくれたらと思います。
泉沢七海
2002年 群馬県生まれ
2024年日本写真芸術専門学校総合写真研究ゼミ卒業
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