世界的写真家 セバスチャン・サルガド氏のご逝去に寄せて vol.1

2025年5月23日、世界的写真家、セバスチャン・サルガド氏がご逝去されました。

サルガド氏は、本校の「学生に、世界の頂点の哲学に触れて学んでほしい」という志に共感して頂き、2016年まで名誉顧問を務められました。

ここに、深い感謝の意と共に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

本稿では、写真を通じて生命の尊厳を表現することに生涯を捧げたサルガド氏に敬意を表し、その足跡や、本校ワークショップにおける指導の様子を振り返ります。

サルガド氏の生涯

サルガド氏は世界120ヵ国以上を巡りながら、激動する歴史の一幕や、その中で翻弄されながら生きる人々の尊厳、そして地球環境の美しさと脆さなど、慈愛のまなざしをもって世界を写し続けました。

1944年、サルガド氏はブラジルで農園を営む家庭に生を享けました。大学で経済学を学んだのち、当時軍事政権下にあったブラジルから離れ、69年にパリへ亡命。国際コーヒー機関で働くかたわら、奥様(レリア様)のカメラを手に取ったことをきっかけに写真家としての活動を始めました。

貧困や紛争に苦しむ人々を写す報道写真家としてそのキャリアをスタートし、湾岸戦争やルワンダ虐殺をはじめ、歴史の激動をそのレンズに収めました。

また故郷・ブラジルの農地へ帰ったことをきっかけに、サルガド氏の関心は自然環境にも向くように。代表作のひとつ『Genesis(創世記)』では、まだ人間の歴史の及んでいない、 ”創世記” の時代のまま残されている手つかずの自然の美しさを、8年間かけて撮影。そして環境保護の重要性を、精力的に発信し続けました。

名誉顧問のご縁で本校に寄贈いただいた『Genesis』。いまも校内に大切に展示させていただいています。

晩年は写真家としての現役を退き、膨大な写真アーカイブを編集する仕事に専念されていたサルガド氏。去る2025年5月23日をもって、その81年の天寿を全うされました。

サルガド氏と本校 – 特別ワークショップの思い出

サルガド氏は、本校の名誉顧問を任期満了により退任されるまでの間、学生たちに直接ワークショップを行うなど、本校にとても深い関わりを持ってくださいました。

ワークショップでは一人ひとりに向き合い「自分自身を信じなさい。自分の将来を信じなさい」と語りかけ、深い励ましとともに、情熱と厳しさをもって写真に取り組む姿勢を伝えてくださいました。

その教えを受けた学生たちは、今では国内外で写真家として活躍の場を広げています。氏の作品は、社会問題や人間の尊厳、自然環境への深い洞察と強いメッセージ性を備え、写真芸術の枠を超えて世界中の人々の心を動かしました。

常に最高を目指すという思いを込めて、氏が学生作品を見るたびに繰り返し語っていた「A little bit more! A little bit more!」という言葉は、今も私たちの胸に息づいています。

ワークショップに参加した学生・講師の感想

受講生・平野敦(2013年10月)
サルガド先生には1枚1枚丁寧にアドバイスをしていただき、構図・光・焼き込み等さまざまな指摘をいただきました。しかし、今回で1番ためになったとおもうのは、「撮影に取り組む姿勢」の話でした。(中略)「撮るものを理解する・撮る対象を尊重する」ということの大切さを直接耳で聴き、改めて重要さを理解できたと思います。これからはどんな物を撮影するときでもそのことを頭に入れて撮影したいと思います。

受講生・岡田舞子(2013年10月)
この4日間はとても濃い時間となりました。なぜならセバスチャンサルガド先生のワークショップがあったからです。久しぶりに疲れましたが、いい疲れ方だったと思います。このクラスの人に写真を見せるのは多分この先の人生でない経験だとおもいます。成長できたと思います。まずはプリントからみなおしてもっといい作品を作れるようになりたいです。

受講生・小野塚 大悟(2015年10月)
(サルガド)ご夫妻からプリントや構図等の意見を頂き、熱くなると哲学的な話や厳しい発言が飛び交うシーンもありましたが、それも私たちが成長するためのエッセンスです。本当に貴重な経験となりました。ご夫妻には感謝してもしきれません。

講師・五十嵐
サルガド語録
Mystery of the photograph is very important.(写真には謎の部分がとても重要である)
To be excellent of the using of the space.(空間処理に秀でなさい)
A little bit more.(もう少し)
Photo must be perfect proportion.(写真は完璧な調和が取れてなければならない)
Show emotion(感情を表しなさい)
Don’t put all things inside of the picture.(写真に全ては入れるな)
Explore the situation(状況を探ってみなさい)
Put your mind that photographer is a hunter.(写真家はハンターだ、という意識を持ちなさい)
Fight for the best picture.(最高の写真のために闘え)
(中略)
世界最高の写真家から直接ご指導頂ける機会にめぐりあえたのは、本当に信じられない、まるで夢のような一週間だった。フィールドワーク学生の何と恵まれていたことか! このときだけは学生が羨ましかった。学生の皆はサルガド先生の言葉、忘れないで下さい。ファインダーをのぞいたら、”A little bit more!!” というあの声を思い出し、もう一度考えてから、シャッター切って下さい。

***

サルガド氏の偉大な功績は、後進の写真家たちに計り知れないインスピレーションを与え続けています。本校は、サルガド氏の多大なるご貢献に深く感謝し、写真芸術の未来を担う人材の育成にこれからも誠実に取り組んでまいります。

後日、本媒体にて、卒業生や講師から寄せられた追悼メッセージを掲載予定です。

日本写真芸術専門学校

(参考)
Yahoo! JAPAN ニュース|《ブラジル》写真で問う「世界の本質」=セバスチャン・サルガドの生涯と遺した言葉
NHK|セバスチャン・サルガドさん死去 ブラジル出身の写真家 81歳
『Genesis』Sebastiao Salgado

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