RAW現像のポイント・24のキーワード〈第2回〉

カラーマネージメントと並んで、多くのフォトグラファーから「難しい」「苦手」「自信がない」という声を聞くRAW現像について考えてみます。
なるべくわかりやすくするために、24のキーワードをもとに進めていくことにします。一度通して読んでみても良いですし、実際にRAW現像を進めながら読んでも良いと思います。
皆様のRAW現像にとって何かのヒントになれば嬉しいです。

今回は第2回になります。第1回からご覧ください。

 

7. 何をどう触ったらどうなるのかを身につける

自分の中にイメージができたら、それをモニター上で展開すればいいわけですが、RAW現像ソフトの使い方がわからなければ、イメージした色調にはできません。
今はいろいろなガイドブックも出ていますから、それを読んで一通り触ってみるのも良いでしょう。でも、本に出ている画づくりしかできず、応用が利かない=自分のイメージを反映しきれない、となっては悲しいですね。

おすすめなのは、とにかくいろんなパラメーターを片っ端からガンガン動かして、何をどう触ったらどうなるのかを知って、覚えることです。初期値〜最大値〜最小値と大げさに動かして、その変化を観察しましょう。それが画づくりの引き出しになっていきます。例えば、「動かすことによって明るくなったり暗くなったりするパラメーター」がいくつかありますが、パラメーターによってその明るくなり方や暗くなり方に差があります。その違いもしっかり観察しておきましょう。

「ここは特別なことがなければ触らなくてよい」と言われたパラメーターがあるかもしれませんが、そういったところの動きもおいおい把握するようにしましょう。「ダメと言われたから触らない」のと、「なぜダメなのかを理解した上で触らない」のは大きな違いです。

8. 道具・技術に振り回されないように

RAW現像の初心者によくあるのは、「とりあえずRAWデータを開いて、いろんなパラメーターを動かしてみて、いい感じになったらOKとする」というやり方です。それも一つの方法ではありますが、それで最初にイメージしたものができているでしょうか。本当に自分の意思でたどり着いたゴールでしょうか。ソフトに振り回された結果そうなっただけではないでしょうか。

もう一つよくあるのは、表現することよりも搭載された新機能やフィルターを使うことが優先されること。「新しいものは使ってみたい」と思うのが人情ですが、RAW現像ソフトはあくまで「表現のための道具」です。本来その表現に必要のない機能やフィルターを使っていたとしたら、それは「道具を使っている」のではなく「道具に使われている」状態です。

イメージすることから始めることと、現像パラメーターの動き方を覚えることが大切と書いたのは、人はうっかりするとすぐ道具に使われてしまうからです。今ではモノづくりの道具が高機能・多機能になり、人間の能力を超えています。そんな状況では、それを使う人間の方がしっかりと意思を持っていないと、すぐ道具に使われてしまいます。もちろん、新しい機能や技術を知るために、いろいろ使ってテストをするのは積極的にやるべきです。しかしそれによって生まれたものが「作品」や「仕事」になる場合は稀で、あくまで「作品」や「仕事」を生み出すためのテスト、あるいは習作ということになるはずです。

9. 表現と技術のバランスを考える

とはいっても、写真表現はいつも道具・技術との関わり合いの中で生まれています。絵画や彫刻といったものよりも写真の表現は道具・技術に左右される部分が大きく、工業や産業の影響を強く受ける表現分野です。ですから、新しい機材や技術が表現のアイデアを想起させることもありますし、逆に、使っていた材料が生産終了になったり、使っていたソフトが開発終了になったりして技法の変更を強いられることもあります。

しかし考え方としては、あくまで「私の表現である」ということを第一に置きたいものです。「現在の技術ではここまでしかできないから、その範囲で表現を考える」よりも、「私はこういう表現がしたい、だからこの技術を使う。私の目指す表現を実現する技術が世の中に存在しないなら、自分で研究・開発してみる、専門家に相談してみる、メーカーにお願いしてみる」そういう姿勢こそ、より前向きで積極的ではないでしょうか。

つまり、表現と技術のバランスを意識しようということです。表現はその実現のために技術を必要とし、技術はその実用化のために表現を必要とします。表現と技術は支え合って成立しているのです。

10. 評価→設計→調整

RAWデータを開いたら、基本的には評価→設計→調整の繰り返しです。この3ステップが大切です。簡単に言えばトライアンドエラーということなのですが、それを分解したものがこの3ステップです。

まずは評価。現状が良いのか悪いのかを判断します。良いと思ったなら、もっと良くできるところはないか、見逃しているところはないかを考えます。悪いと思ったなら、何がどう悪いのか、どうすれば良くなるかを考えます。

評価が終わったら設計です。評価した結果から、具体的に何をどうするのかを考え、組み立てます。調整する範囲、方法、量、手順といったことを、全体と部分のかかわりも考えながら設計します。

設計が終わったら調整です。設計で決めたことに基づいて実際に手を動かします。調整したら、思い通りの結果になったかどうか、また評価します。そしてまた設計→調整→評価と繰り返し、納得ができたら完成となります。

RAWデータを開いていきなり調整を始めていませんか? 調整の前によく観察し、よく考える。この時間を取ることが大切です。

11. まずはストレートプリントから

自分のスタイルや作風が確立するまで、あるいはまったく新しい作風を作るとき、または今までとは違うカメラやレンズを使うときは、ストレートプリントからスタートしてみましょう。
ストレートプリントは、RAWデータの情報を引き出した軟調の状態で、特に手を入れずに現像、プリントします。慣れるまではまず一度ストレートプリントを出して、その評価から始めることをお勧めします。
さらに、ストレートプリントのコピー(白黒でも良いです)を取るか、コピー用紙など安価な紙でよいのでもう1枚写真を出力しておくか、プリントを透明なスリーブに入れるかして、設計内容を絵柄の上に書き込めるようにしましょう。

この例では、ストレートプリントに設計内容を書き入れたものを上に、それに従って仕上げたプリントを下に並べてあります。ただ、このように1回でOKになることはあまりありません。何度かのトライアンドエラーを経て完成度を上げていきます。

「自分にそんな調整ができるのか?」といった心配は一旦忘れて、「もっとこうしたい」ということを思うままに書き入れます。そして調整のときに「あれ? この設計内容はどうやれば実現できるんだろう」と立ち止まったところが、これから身に付けるべき調整のテクニックです。
今持っているテクニックを意識していると、その範囲でできることしかやらなくなってしまいがちですし、表現よりもテクニックを先に身に付けると、それを使いたくなって表現と関係のない技を繰り出しがちです。まずは表現のことを考えて、それを実現させる技術を後から身に付けていけばよいのです。

12. トーンを意識する

評価は、まず全体の露出とコントラストから行います。このとき、単に「明るい」「暗い」と捉えるだけでなく、「トーンが出ている」「トーンが出ていない」と捉えます。
写真が全体的に明るくなるということは、写真の明部のトーンがなくなっていき、暗部のトーンが出てくるということです。逆に、全体的に暗くなるということは、明部のトーンが出て、暗部のトーンがなくなっていくということです。そして、写真が全体的に硬調になるということは、写真の明部と暗部のトーンがなくなるということです。

写真の全体的な印象だけでなく、見せたいところにちゃんとディテールが出ているか、逆に出すぎていないか、そのうえで、グラデーションが適切に表現されているかを考えて、露出とコントラストを設定しましょう。このときに、先に説明した特性曲線やヒストグラムの知識が生きてきます。

 

今回はここまでです。第3回につづきます。

文・芳田 賢明
イメージングディレクター/フォトグラファー
株式会社DNPメディア・アート所属、DNPグループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/

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