プロダクトデザイナーが「SPY×FAMILY」表紙に登場する椅子を徹底解説! 第四巻
前回の記事に続いて、漫画『SPYxFAMILY』の単行本表紙に描かれた名作椅子についてご紹介します。今回は、フィンランドが生んだ巨匠デザイナー、エーロ・アールニオについてお話しします。
第四巻 モダンデザインの先駆者 エーロ・アールニオ
20世紀におけるモダンデザインの先駆者の一人であるアールニオ氏は、家具デザイン、照明、建築、都市計画など、幅広い分野で功績を残しました。彼の代表作の一つで、『SPYxFAMILY』第4巻の表紙にも描かれているのが、ボールチェアです。
アールニオ氏は1932年にフィンランドのヘルシンキに生まれ、1954年に工業デザインやインテリアデザインを学ぶためにThe Institute of Industrial Artsに入学しました。そして、1962年には自身の最初のデザインスタジオをヘルシンキに開設しました。驚くことに、スタジオ開設後すぐにボールチェアの開発に着手し、わずか1年後にはFRP製(強化繊維プラスチック)の試作品を完成させています。
FRPは、ガラス繊維やカーボン繊維でできたマットを樹脂の中に入れ、強度を向上させている複合材料です。第二次世界大戦中に軽くて丈夫な素材開発の研究が急速に進み、1950年代には量産向けのボートが開発されています。アールニオ氏がボールチェアを開発していた当時は、イームズのシェルチェアやヴェルナー・パントンのパントンチェアのように、同素材を用いた家具や生活用品の開発が欧米を中心に進み、この新素材を用いて斬新で画期的な製品を生みだしたい、といった情熱が若いデザイナーの中で高まっていました。アールニオ氏もそのうちの一人だったのでしょう。
彼は、ボールチェアの開発当時、自身で合板製の型を作り、FRPを張り付けて成形していたそうです。現在のように3DモデリングソフトやCGがない時代に、一から試作品を作ったアールニオ氏の物づくり精神には脱帽します。
その後、彼が自宅で試作品を使っていたところ、ある日Asko社の社員が彼の自宅を訪れました。そのチェアの独創的なフォルムに魅了された社員はすぐに製品化を決意し、1966年のケルン国際家具フェアで初めて公の場で発表されると、瞬く間に彼の名前は世界中に広まり、有名デザイナーの仲間入りを果たしました。
すべてを包み込むような安心感 ボールチェア
実際にボールチェアに座ってみると、奇抜な外観とは対照的に、球体の中のクッションが柔らかく身体を包み込んでくれます。まるで胎児に戻ったかのような安心感を覚え、自然と長く座ってしまいます。球体の一部が切り取られた形状は、中に座ると周囲の音を70%ほどカットすることも特徴の一つで、何かに集中したいときや一人時間を楽しみたいときにおすすめの椅子です。
彼が手掛けた製品を見ると、遊び心のあるフォルムと家具としての機能性のバランスを兼ね備えた、唯一無二のデザインであることが分かります。インテリアのアイコンとして長く使っても飽きない、アールニオ氏が手掛けた製品をぜひ街中で見つけてみてください。
岩元 航大
鹿児島県生まれ。2009年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科入学後、デザインプロジェクト「Design Soil」に在籍し、イタリアのミラノ・サローネやフィンランドのハビターレ等、海外の展示会に多数参加。
卒業後、スイスのローザンヌに移り、Ecole cantonale d’art de Lausanne(ECAL)のMaster in Product Designに進学。
卒業後、東京を拠点に国内外の企業と製品活動を進めつつ、精力的に作品制作を行なっている。
関連HP
プロダクトデザイン | 岩元航大デザイン事務所 / Kodai Iwamoto Design (kohdaiiwamoto.com)
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