池田幸穂 個展「音色をときほぐす」PicoN!インタビュー
専門学校日本デザイナー学院のイラスト講師・池田幸穂先生の個展「音色をときほぐす」が両国・GALLERY MoMoにて開催中です。今回は本展示について、たくさんの動物たちが登場する作品について、テーマや制作のエピソードを交え、池田先生の言葉でお話いただきました。
今回の展示について作品テーマや展示タイトル「音色をときほぐす」について教えてください
「音」をテーマにしようと思ったきっかけは、コロナ禍の私自身の経験です。当時、専門学校の授業でもオンライン授業や、zoomでオンライン飲み会とかがコミュニケーションの手段でしたよね。直接会えない、話せない。そういった期間が続き、その時になんだか心が本当の意味で通っていないような感覚があって、気付いたらとても疲れちゃっている自分がいて。
その後、自分の中で「音」についていろいろ意識するようになりました。例えばコロナが明けて旅行へでかけた際に、鳥の鳴き声がものすごく美しく感じたり、動物園に訪れた時、一斉に動物たちが声を出したり鳴いたりしたりして、まるで喋っているみたいだな、って感じたり。職場でも直接会って顔を見ながらお話しすることがやっぱ1番大事だな、というのを改めて痛感しました。そういった経験を自分の絵で表現できないかな、って思ったのがきっかけです。
「ときほぐす」というのは、さまざまな音の重なりを分解する、ほぐしていく、 という意味と、心を解きほぐすという意味を持っています。心がほっとする、みたいな。
作品を見た人が、どこかほっとするような 絵を描きたいっていうことと、絵の中からいろんな音が聞こえてくるようにして。絵を見る人自身が、ほぐしていく、分解していく、みたいな意味合いを重ねました。
池田先生ならではの独創的な明るく楽しい色使い、自然や生物をモチーフにした描写がとても魅力的です。発想の源やアイディアはどんな時に湧いてくるのでしょうか
今回は、あえて現実的な色を使わない、ということを作品に取り入れてみました。クマとかゴリラの本来持っている色味をそのまま使っていますが、ファンタジーのような、自分の中で色をあえて全く違う色にしたいっていうのを、両方掛け合わせようと思って。絵の中に「理想」のような、こうなったらいいなという願望も含めて、鮮やかにしてみました。自分が持っている色を全部使ってみたいという気持ちもあったりして。
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特に今回はナマケモノをピンクにしたのですが、ナマケモノって本来茶色いですよね。どうやら彼らは自然の中で生き残っていくためにカモフラージュで茶色という色らしいのですが、絵の中には敵もいないし、もう真逆の色にしてみたいな、と思って。絵の中でナマケモノは動かないですが、カラフルにすることで元気が出てくるようないまにも動いたり喋りだしたりしそうな、そんなイメージです。でも同じ絵の中でも、トラさんは逆にちょっとグリーンぽい、静かな色。白と黒の怖い感じではなくて、どこか柔らかくて優しい。そういった「色で遊ぶ」感覚がとても楽しかったです。
今回の作品たちにはナマケモノやたくさんの動物、虫、生き物が描かれています。池田先生と動物たちとの出会い、関係性を聞いてみたいです
元々、鳥がとても好きでした。もう学生時代から、東京の川や海、公園、とにかく水辺を訪れてたくさん鳥を探してきました。トキを見るためだけに、佐渡島に一人で行ったこともあります。
これまでの作品にも動物たちはたくさん描いてきました。動物園にも足を運んで、彼らの動きや仕草、表情もじっくり観察しましたね。今回の作品を描く前にも動物園を訪れていて。なんとも可愛いナマケモノに出会ったその日に、私の足元に、もう、びっくりするくらい大きな立派なカタツムリがいて。「ああ、あなたも描いてほしいのね。」みたいな。運命的な出会いでした。
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最近、クマたちが山から下りてきて人間や住居を襲った、なんてニュース耳にしますよね。海外でも、人間が森を侵略してしまい寝床を失ったゴリラたちが住処を追われてしまって、コウモリと接触して疫病にかかってしまって…とか。そういったことって、他人事ではなく私たちが生きている同じ地球上で起きている出来事だと感じています。共感をすることも大事だし、どこか自分たち人間と同じ地球上にいる仲間みたいに感じています。
以前の作品と比べると、今回の作品たちには虫たちもたくさん登場しています。実は、昔は虫ってすごく苦手だったのですが、私が講師をしているこども絵画教室に、昆虫好きな少年がいるんです。「先生!虫みつけたー!」って写真を見せてくれたり、図鑑で教えてくれたりするんですよね。いっぱいお話を聞いて、お互いに次の週はまた見つけた昆虫の話をする。「これ見つけたよ」「へえー珍しいね」とか報告しあっているうちに、いろんな種類の虫を知ったり、季節を感じたり。そんな経験から、虫も動物も、分け隔てなく描いてみたいなっていう気持ちが大きくなり始め、今回の作品にもたくさん虫たちを描きました。
これまでの展示でも「コロナ禍」「震災」「食糧」「移動」など自分たちと社会や自然、世界とのつながりや影響を感じさせるテーマや背景があったのかなと思います。作品テーマをみつけるうえで池田先生が大事にしていることがあったら教えてください
私が考える「現代アート」は “今この瞬間に生きている証” のようなもの。例えば、想定外の災害やパンデミックなどから生まれる不安や恐れみたいな感情も含めて、この瞬間しか感じられないことだから記しておこう、という感覚です。加えて、もっとこうだったら良いな、こうなりたいな、という希望も描いていきたいなと思っています。
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作品のテーマをみつける上で大切にしていることは、とにかく自分で様々な場所に出かけたり、移動したりすること。旅がまさにそうですね。全てを作品に繋げよう、みたいな感じではなくても、気軽にあちこちへ出かけてみたり、冒険してみたり。カメラのファインダーを覗くのと一緒で、なんだか歩いてみると日常の風景も面白く感じたり、感動したり、悔しくなったり。自分の中で喜怒哀楽みたいな感情が膨らんでいきます。
昔、松尾芭蕉が旅しながら俳句つくったり、葛飾北斎がずっと移動しながら作品つくったりとか。そういうのにすごく近い気がします。
▽2022年個展「虹を煮つめて、風景をつづる」
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国内、そして海外でも個展やグループ展などご経験のある池田先生。「展示会」をつくりあげる面白さを教えてください
展示をつくっていく面白さは2つあると思っています。
1つは、 展示をすることで新しい出会いがあること。作品の制作自体はずっとお家で作業することが多いのですが、展示をすることで、例えば個展に絵を見に来てくださった方と出会いがあって、お話ができたりする。新しい発見や出会いがある。もう本当にすごく大きな魅力だと思います。
2つ目は、ギャラリストさんと展示の「空間」を一緒に作り上げるという、本当に最高に贅沢で幸せなこと。壁面や台座を好きなように使わせてもらうこともそうですし、こうした方がもっと面白い絵になるんじゃないかとか、こんな作品の見せ方もあるんじゃないか、とか。一緒に考え構築していく過程がとても楽しく面白いです。自宅で制作した作品が、この空間でどう輝くか。インスタレーションといいますが、空間丸ごとを作り上げられることが、展示をする大きな魅力ですね。
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この陶芸作品も自分で作りました。今までは紙粘土を使用して自宅で作っていたのですが、今回は陶芸の先生に教わって、焼いてもらって、色も塗って。もう思う存分に自分でやりたいように制作した作品たちです。例えばこの陶芸作品たちも、台座の高さを変えるだけで見え方が変わってくるので、そこを考えながらギャラリストさんと調整、設置をしていきました。ここにある落ち葉も1時間くらいかけてあちこち探して拾って。こんなに葉っぱって種類があるんだなー、とか話しながら設置しました。自分ひとりで作り上げるというよりも、その空間、作品たちと一緒に作りあげていくのが大きな魅力的です。
池田先生自身が学生時代に「没頭」していたことはありますか。当時を振り返って、いまイラストや絵画を学ぶ学生たちにアドバイスなどあればぜひ教えてください。
美大に通っていた学生時代は、油絵を学んでいました。当時、学校が好きで、朝から晩までずっと学校で過ごしていた時期があって。そしたら先生が「いつもここにいるなあ。世の中には美しいものがいっぱいあるから見に行きなさい。」って言ってくれて。学校の中にずっといても社会に出ていけないよ、って。そのときに私自身、ハッとさせられて。「外に出ていいんだ!」みたいな。(笑) 今振り返ると、その先生の一言が今の自分の大きな財産になっていますね。
日本デザイナー学院の学生たちにもギャラリーや個展の情報を伝えたりしています。そういう場所に行ってみる、というのはまず第一歩。それをきっかけにちょっとずつ外へ踏み出してみて、どんどん自分の見ている世界を広げていってほしいです。
散歩をして、スケッチをしてみるのも良いと思います。きっとアイディアの源になると思います。旅行をした時や、何気なく日常のニュースを見た時とか、誰かと話をしたときとか。「面白いな」「なんか違和感あるな」とか、とにかく感じたことをメモする。描いてみる。そんな積み重ねやが、いつか自分自身の作品制作に繋がっていくと思います。
▽池田幸穂先生のPicoN!記事はこちら
池田幸穂 個展「音色をときほぐす」
2025年1月18日まで開催中
会 期: 2025年1月18日(土)まで
時 間:11:00 – 19:00 日曜・月曜・祝日休み
場 所:GALLERY MoMo
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